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「株式投資50%」はリスクが高すぎないか

公的年金の危うさと米国の事例

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

年初の株急落で運用損失は10兆円にも

衆院厚生労働委員会で答弁する塩崎恭久厚労相衆院厚生労働委員会で答弁する塩崎恭久厚労相

 公的年金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」が希望する株式の直接運用について、政府・与党はこのほど解禁を見送る方針を決めた。

 GPIFは1年半前に株式運用の割合を2倍に増やし(下の表)、大損害を出したばかりである。にもかかわらず、世界経済の大波乱が懸念される今、なぜ、株にいっそう前のめりになるのだろうか。厚労省所管のGPIFが株式を直接運用する問題点と合わせ、考えてみたい。

GPIF資産運用の基本ポートフォリオGPIF資産運用の基本ポートフォリオ

 GPIFは、国民年金や厚生年金など135兆円を運用する世界最大の年金基金だ。運用の「基本ポートフォリオ」を変更したのは2014年10月で、運用の60%を占めていた安全資産の国内債券(主に国債)を35%に減らし、代わりにハイリスクの国内株式と外国株式を各12%から25%へ2倍に増やした。内外株式を合わせると50%になる。

 しかし、昨年7~9月、中国の景気減速による世界的な株下落で7兆8899億円の損失(▲5.59%)を出した。今年も年初からの急落で損失は10兆円を超えているとの見方が出ており、今後も楽観などできない。

 GPIFは「短期的な損失ではなく長期的な損益を見てほしい」と言う。では、外部に運用委託する現在の方式を直接運用に改めれば、利益を出せるというのだろうか。そんな自信がどこから湧いてくるのか、不思議な組織である。

国民が安心できない年金支給

 2月15日の安倍首相の国会答弁にあぜんとした人も多いだろう。

 「(GPIFで)想定の利益が出ないなら当然支払いに影響する。給付に耐える状況でない場合は、給付で調整するしかない」。国民の負託にこたえる立場を忘れた他人事のような発言をしている。

 これからの世界は中国経済の不安、金融危機、為替変動、米国の利上げ、中東の混迷など、かつてないほど危機の予感と疑心暗鬼に満ちている。しかも相場は乱高下を繰り返し、変動幅は大きくなっている。

 老後の支えである年金がこれほどのリスクにさらされるのでは、国民は安心していられない。

 そもそも年金運用の50%が株式投資という「基本ポートフォリオ」はリスクが高すぎる、と筆者は考える。GPIFは、「運用チームは金融機関出身者・アナリスト・弁護士などを揃えている」と専門性の高さや安全性を強調し、「長期的に運用利回り1.7%の確保を目標にする」と述べている。

 しかし、「儲かるはずの株」は、内外の株価が上昇し切っていた時期(14年11月~15年6月)に、内外株式合計で43%を運用した結果、その後の下落でさっそく上記のような損失を出してしまった。

異次元緩和で国債は超低金利、迫られる高リスク運用

 GPIFが株式にのめり込む背景にあるのは、アベノミクスの金融緩和によって人為的に作り出された国債の超低金利である。現在、日銀は国債市場から毎年80兆円を購入している。このため国債の価格は高くなり、利回りは逆に1~0%の超低水準にある。

 高齢化が進む中、こんな低利回りでは年金支給は破たんする。そこでGPIFは株式の割合を増やし、更に従来の運用会社に委託する方式を直接運用に切り替えることで形勢挽回を図ろうとしたのだ。アベノミクスがもたらした副作用である。

連動する国内外の市場は分散投資にならない

 しかし、最近は国内株も外国株も、金融危機や中国経済など海外要因によって上がり下がりが同じ方向に連動する傾向が強い。ITの発達で金融や情報がグローバル化した結果であり、投資先を内外に振り分けてみても、国際分散投資の効果は期待できないのが実情だ。

 14年秋にポートフォリオが変更されて以降、日経平均株価が低迷する局面でGPIFの巨額の買いが何度か入ったことがあった。株高の維持はアベノミクスの根幹であり、GPIFの行動は官邸を支えるPKO(株価維持操作)だったように見える。

 今回、GPIFの直接運用は見送られたが、数年後に改めて議論するという。では仮にGPIFが直接運用に乗り出した場合、投資先企業ではどんな変化が起きるのだろうか?

 その見本になる現象が、1970年代以降の米国ですでに起きている。

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