情報公開請求で朝日新聞に開示された「極秘資料」を読み解く
2016年02月26日
丸川珠代環境相が、東京電力福島第一原発事故で、国が追加被曝(ひばく)線量の長期目標として示している年間1ミリシーベルトについて、「何の科学的根拠もない」などと講演で発言したことを認め、発言撤回に追い込まれた。だが元々、関係省庁には、年1ミリシーベルトまで除染することに懐疑的な見方が強く、すでに被曝線量の把握方法を変えるやり方で実質的な緩和が図られていた。その策を練った会議資料が、朝日新聞の情報公開請求でこのほど復興庁などから開示された。この開示資料から検討内容を探った。
福島第一原発の事故の後、当時の民主党政権は、空中の「空間線量」から推計された数値をもとに、年5ミリシーベルト以上の地域で除染を行う考えだった。
それが、細野豪志環境相が11年10月、福島県知事に対して年1ミリシーベルト以上の地域も国の責任で除染する方針を表明し、住民の多くは、空間線量で年1ミリシーベルトを「安全の基準」ととらえた(年1ミリシーベルトは、政府の一定の仮定を置いた計算で毎時0.23マイクロシーベルトになる)。
この「除染=年1ミリシーベルト」方針は、経産官僚に言わせると「想定外の発言。あれで除染地域が広がり、費用の桁が変わった」という。除染費用は国が立て替えるが、後に東電に請求されるため、除染の費用増大で東電の経営再建が厳しくなることも意味していた。
それが、政権交代後の2013年12月、安倍政権は閣議決定した新たな福島の復興指針で、帰還者の被曝線量の把握方法について、それまでの空間線量からの推計を、住民に配った個人線量計による計測へと見直す方針を打ち出した。個人線量計だと、空間線量より低い数値になり、実質的な除染基準の緩和につながると見込まれた。
今回、開示されたのは、そうした方向を打ち出した「線量水準に応じた防護措置のあり方に関する関係課長打ち合わせ」との名称の会議の資料。13年の春から夏にかけての計7回分、154ページあった。その多くに、「対外厳秘」「取扱注意」の文字が付されていた。
会議のメンバーは、復興庁や内閣府原子力被災者生活支援チームなど関係省庁の幹部らで構成。東京・赤坂の復興庁などで開かれたとみられる。その存在はこれまで公にされていなかったが、開示資料からは、空間線量から個人線量計への方針転換を周到に準備していたことが分かる。
まず、関係者らは13年4月1日の初回から、個人線量計に着目していた。この日の会議資料は、「ミッション」として、「被ばく線量の『実測値』に基づく防護措置の考え方を示す」とあり、「空間線量等による推計値/ガラスバッジ(個人線量計)等による実測値」といった「論点」を示した。
会議のメンバーらは、この年の4月下旬から5月中旬にかけ、チェルノブイリ原発の事故後の対応を調査するため、分担してロシアやウクライナに出張。6月17日に開かれた3回目の会合には、その出張をもとにつくった「チェルノブイリ原発事故に関する中間調査レポート(たたき台)」が出された。
同レポートは、チェルノブイリ原発事故の対応との比較で、日本の従来の空間線量をもとにした推計手法について、「屋外8時間」「建物は木造家屋」などと置いた「仮定」を理由に、「実効線量を『単純』『保守的に』推計」していると評価した。過大な数値が出ているとの見方だ。
また、チェルノブイリ原発事故後の除染については、「放射線量の低下がそれほど期待できないとされた森林等は、除染が行われなかったが、汚染マップの作成、立ち入り制限等が行われた」と記していた。環境省は後に、住宅など生活圏から離れた森林の除染を実施しない方針を打ち出すが、それにつながる記述だった。
6月28日に開かれた4回目の会合資料には、個人線量計で11年に測った線量が示されており、二本松市では、「空間線量の約36%」と低い値だったことを明示。同様に、郡山市で約24%、福島市で約22%とあった。個人線量計の数値が、空間線量より低い値になることを押さえていた。
日付不明の6回目の会議には、それまでの議論をまとめる形で、「『放射線被ばくに係る安全・安心対策の基本的方向』取りまとめイメージ」と題した資料が出された。この資料は、「除染・避難に依拠した緊急的な対応から、人に着目したきめ細かな対応の必要性」を強調。費用のかかる除染や避難はあくまで「緊急的」な対応と位置づけた。
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