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[28]助成金漬け雇用政策がリストラを促す

企業への助成に公的資金を回すのは、産業政策かもしれないが、雇用政策ではない

竹信三恵子

誰を雇うと一番もうかる?

おおぜいの人が行き交う渋谷駅前のスクランブル交差点拡大おおぜいの人が行き交う渋谷駅前のスクランブル交差点

 国の助成金が企業のリストラの背中を押す結果になっていることが、国会などで問題になっている。自社の社員の再就職を人材ビジネス会社に委託すると支給される「労働移動支援助成金」を目がけて、人材ビジネス会社がリストラ指南の営業活動を活発化させているからだ。

 だが、問題はそれだけではない。

 非正規を正規に転換させると支給される「キャリアアップ助成金」を狙って、正社員より非正社員を採用したがる企業も目立ち、「誰を雇うと一番もうかるか」を考える人事担当者まで出ている。助成金依存の政府の雇用政策が、働いて利益を稼ぎ出すはずの働き手を助成金稼ぎの商品に変えていきかねない事態が起きているからだ。

ブラック企業への就職も

 発端は、2月22日付朝日新聞による製紙大手の王子ホールディングスの子会社での社員追い出し作戦の報道だ。

http://www.asahi.com/articles/ASJ1Y5RC5J1YULFA03Y.html

 同社で働く50歳の男性が昨年、上司に呼び出された。「転職支援を受けてほしい」と求められ、その後も面談に呼び出されて、会社に籍を置いたまま人材会社に出向して転職先をさがしてほしいと通告され、断りきれずに退職に合意したという事例だった。男性は人材会社で転職先をさがしているが、提案される給料はこれまでの半分のものばかりだという。

 やめさせたい社員を「追い出し部屋」と呼ばれる部署に囲い込み、転職先を探させる手法が問題化したためか、今度は転職させたい社員をリストにし、団結できないよう個別に呼び出して転職を人材ビジネスに委託する手法だ。再就職を受託したテンプスタッフ・ホールディングスはこれを「リストアップ方式」と呼んでいるという。

 人材ビジネスの狙いは、リストラ企業が社員の再就職を人材ビジネスに委託すると、委託時に一人当たり10万円、再就職が実現したらさらに50万円が上乗せされる国の「労働移動支援助成金」だ。

 中には委託を受けた人材ビジネスから、「ハローワークに行って仕事をさがしてきなさい」と指導される求職者もいて、国から助成金を受け取って国の就職斡旋サービスに丸投げする寄生商法といえる状況も生まれている。

 加えて、リストラが決まった社員に求職休暇を与えた場合も、中小企業で1日7000円、大手企業で4000円の休暇付与支援金が出る。社員をリストラすれば、リストラ企業にも人材ビジネス会社にもさまざまな局面でカネが入る仕組みだ。人材ビジネス会社は、再就職支援指南マニュアルを用意して、各社への営業活動を活発化させている。

 さらに問題なのは、再就職すれば支給額が増えるため、「高望みするな」と指導する人材会社も多いことだ。圧力に押され、条件の悪いブラック企業への就職を飲まざるをえなかったという求職者の声もある。

正規の採用より非正規の採用の方が有利?

 今回問題になった労働移動支援助成金が大幅に増やされたのは、2014年度からだ。

 これまでの政府の雇用対策では、不況期に働き手を解雇しない企業に支給される「雇用調整助成金」が主流だった。ところが2013年3月、第2次安倍政権下で設けられた産業競争力会議の第4回会合で、同会議議員である竹中平蔵・パソナグループ会長が次のように発言した。

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筆者

竹信三恵子

竹信三恵子(たけのぶ・みえこ) 和光大学現代人間学部現代社会学科教授

和光大学現代人間学部教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代~就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

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