メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

日本を不幸にする国家戦略特区

地域活性化のため、農業と観光産業の育成を

郭洋春 立教大学経済学部教授

 2013年12月13日に国家戦略特別区域法が施行されてから2年以上が過ぎた。国家戦略特区は安倍政権の成長戦略の柱としてTPPと並んで重要な経済政策の1つである。にもかかわらずTPPに比べるとマスコミや国民の関心は薄い。なぜなのか。もしかすると多くのマスコミや国民は、TPPに比べて問題のない経済政策だと考えているのかもしれない。

 確かに経済特区と認められる特区は、世界に3000カ所以上あり、成果を上げている所も少なくない。しかし、そのほとんどは経済発展が進んでいない開発途上国にある。日本のような先進国ではほとんど見ることができない。

 すなわち安倍政権が提唱する国家戦略特区は、極めて異質な特区(筆者はそれを「異形の特区」と呼んでいる)と言わざるを得ない。そして異形であるがゆえに、大きな問題を含んでいるといわざるを得ない。

特区は大都市圏に集中

郭原稿につく写真国家戦略特区諮問会議であいさつする安倍首相=2月5日、首相官邸
 まず、指定された特区の数に対して認定された規制改革の事業数が異常に多いということだ。10の指定区域で171もの事業が認定された。そのうち115事業67%が東京圏、関西圏、福岡市・北九州市、愛知県の4カ所に集中している。特に東京圏、関西圏の事業数はそれぞれ53事業、21事業と2地域だけで64%を占める。言い換えれば、国家戦略特区は、大都市圏、特に、東京圏、関西圏の規制緩和を推進するために設定されたものと言ってもいいだろう。

 なぜ大都市で多くの規制を緩和する必要があるのか。それは、「国家戦略特別区域基本方針」にうたわれている「世界で一番ビジネスのしやすい環境」を作るためだ。まさに外資が進出したいと考えている都市の規制を、一つでも多く緩和しようとしていることに他ならない。

 しかし、これではたとえ国家戦略特区がうまく機能したとしても、地域間格差を拡大させることになる。つまり国外には対しては日本に来てもらうために、長い時間をかけて作り上げた社会制度を放棄し、国内においてはますます東京一極集中に象徴される地域間格差を拡大させることになる。従って、国家戦略特区は決して日本社会を豊かにするものではない。

規制緩和の領域拡大が特区の目的に

 そして国家戦略特区の最大の問題は、本来経済特区での規制緩和は外資を呼び込むための手段であるはずが、国家戦略特区では目的化しているということだ。この間国家戦略特区の具体的な制度設計等の検討を行うために設置された「国家戦略特区ワーキンググループ」の議論を見ていると、特区であれば規制緩和が許されるとし、規制緩和を実現するために特区を利用しようとしているように見える。

 つまり国家戦略特区の目的は、特区を口実に規制緩和の領域を広げることにある。それは、特区以外の地域にも規制緩和の網を広げるということだ。それを端的に表したのが、2014年に厚生労働省が明らかにした混合診療を100の大病院に拡大すると提案したことだ。当初混合診療は、国家戦略特区の規制改革メニューであったにもかかわらず、規制改革会議などでも議論され、同会議の提言として提唱され、それに呼応する形で厚労省が提案したのである。

 すなわち、国家戦略特区で規制緩和を声高に叫び続けることにより、それが特区以外で議論されても国民の多くは特区でのことと錯覚し、気づいてみれば特区以外にも拡大されてしまうということだ。

 従って、あれだけ多くの規制改革メニューをそろえながら、特区はわずか10で構わないのだ。

 なぜ安倍政権は国家戦略特区を利用し、世界でもっともビジネスのしやすい国を作ろうとしているのか。冒頭でも述べたように世界には3000を超える経済特区が存在している。そこには既に世界中の多国籍企業が進出している。その特区を捨ててまで日本に来るインセンティブはない。

TPPで進出してくるアメリカ企業のための地ならし

 それでも日本は国家戦略特区を作ろうとしている。なぜか。それはTPPの発効が迫っているからだ。TPPの目的は「例外なき関税撤廃」だが、

・・・ログインして読む
(残り:約811文字/本文:約2467文字)