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高校生と大学生に蔓延するブラックバイト

―その社会的背景と改善へ向けて―

大内裕和 中京大学国際教養学部教授

 厚生労働省は2015年12月から2016年2月にかけて、高校生に対してアルバイトに関する意識等調査を行い、その結果を2016年5月18日に発表した。対象者1854人のうち、労働条件を示した書面を交付されていないものが60.0%、また休憩時間がなかったり、割増賃金が支払われなかったりするなど32.6%が何らかの労働条件上のトラブルがあったことが分かった。

 厚生労働省は大学生に対するアルバイト調査をすでに行っていて、2015年11月9日に、対象者1000人のうち、60.5%に何らかの労働条件上のトラブルがあったという結果を発表している。今回の高校生に対するアルバイト調査結果は、大学生だけでなく高校生にもブラックバイトが広がっていることを示している。ブラックバイトは、10代後半から20代前半の幅広い層に蔓延(まんえん)していると見てよいだろう。

蔓延の背景に学費の高騰と親の貧困化

大内原稿につく写真拡大団体交渉の場へ向かう大学生(左)=新潟市中央区
 ブラックバイトは、なぜここまで広がったのだろうか。第1に学費の高騰と親の貧困化が挙げられる。1960年代後半には、年間わずか1万2000円であった国立大学の授業料は、2015年度の標準額で53万5800円、初年度納付金は81万7800円にも達している。私立大学となれば授業料の平均は86万72円であり、初年度納付金は131万2526円とさらに高くなる(文部科学省調査、2015年)。

 1970年代~90年代にかけて大学授業料が年々引き上げられたにもかかわらず、そのことが大きな社会問題とならなかったのは、終身雇用と年功序列型賃金を特徴とする日本型雇用が健在で、親の収入が上がり続けたからである。しかし、1990年代後半をピークに労働者の賃金や世帯年収は下がり続けており、「子どもが大学生になる頃に親の賃金が上がる」という構造は、すでに大きく崩れている。

 親の貧困化は子どものアルバイトを余儀なくさせる。大学生はともかく、高校生のアルバイトは高校による「アルバイト禁止」方針もあって、以前はかなり抑制されていた。しかし、高校生のアルバイトは現在、都市部を中心に広く行われるようになっている。

 アルバイトをする理由も大きく変わってきている。かつては自分の趣味や欲しい物を買うためにアルバイトをすることが多かったが、近年は進学や家計補助に必要なお金を稼ぐためのものとなっている。

高校生のアルバイトは広い意味での家計補助に

 大学や専門学校の入学金を親が支払うことができないため、高校生に対して「アルバイトをしてお金をためておけよ」と指導せざるを得ないという高校教員の声を聞いたことがある。さらに、底辺校においてはシングルマザーや失業・低賃金の家庭が多く、そこでは高校生のアルバイトは広い意味での家計補助となっている。高校生が働かなければ、家族全体の生活が立ち行かなくなる状況も生まれているのだ。

 大学生のアルバイトも同様の変化が進んでいる。1980年代~1990年代にかけての大学生のアルバイトは主として、趣味やサークルなど「自分の自由に使えるお金を稼ぐ」ためのものであった。しかし、現在では自動車免許取得、就活の交通費、通信費、教科書代など、アルバイトが「大学生活を続けるために必要なお金を稼ぐ」ためのものへと移行している。

 「好きで働いている」というよりも「働かなければならない」状態が、高校生と大学生に広がっている。これではアルバイトの職場で不当な処遇を受けても、簡単には辞めることができない。

非正規雇用労働の基幹労働化も背景に

 第二に正規雇用労働者の減少と非正規雇用労働者の急増による非正規雇用労働の基幹労働化である。非正規雇用労働者の数は1990年の881万人から、2014年には1963万人と2倍以上に増加した。これに対して正規雇用労働者の数は減少しており、 ・・・続きを読む
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筆者

大内裕和

大内裕和(おおうち・ひろかず) 中京大学国際教養学部教授

1967年神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程をへて、現在は中京大学国際教養学部教授。専門は教育学・教育社会学。主な著書に、『日本の奨学金はこれでいいのか!』(あけび書房)、『「全身〇活」時代』(竹信三恵子との共著、青土社)、『ブラックバイト』(今野晴貴との共著、堀之内出版)、『ブラック化する教育』(青土社)、『ブラックバイトに騙されるな!』(近刊予定、集英社)などがある。奨学金問題対策全国会議の共同代表をつとめる。