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どの政党も「増税再延期」一色という安易さと不毛

徹底した分析と議論で未来社会を考えるのが国会の仕事だ

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

選挙を有利にするため大衆迎合に陥った政党

街頭で参院選での支持を訴える安倍晋三・自民党総裁=山形市拡大街頭で参院選での支持を訴える安倍晋三・自民党総裁=山形市

 安倍首相は2017年4月に予定していた消費増税の再延期を表明し、選挙戦に入った。民進党はじめ野党も「増税再延期・断念」で足並みをそろえている。

 首相は国会中に再三表明した「増税の方針に変わりはない」という答弁を閉会直後に翻し、民進党などは「再延期は自分たちが先鞭をつけた」と戦術を自賛。税率にこだわってきた財務省だけが敗北するという構図になった。

 しかし、どの政党もこぞって選挙民に受けのよい主張をする選挙は、国民にとって望ましいものなのだろうか。

 2019年10月に10%に引き上げると言うが、その年の夏には次の参院選がある。その時に世界経済が大きく改善しているとは考えにくい。選挙が近づいたらまた先送りという、今回と同じことが起きるだろう。

 この国は今多くの構造的問題を抱えている。国の累積債務増大、少子高齢化、社会保障負担の増大などである。もし税率を上げれば消費税収は確実に増えるから、それを使って新しい政策を打ち出すことが可能になる。税率を今から小刻みに少しずつ上げていく策も検討に値する。

 しかし、どの政党も嫌われる政策を遠ざけている。思考停止と大衆迎合に陥っているのではないか。目先の利害を超えて他政党と一線を画す主張をする政党が一つもないのは情けない。

「甘いエサ」、冷静に見ている国民

 増税延期はいずれ国債の増発を誘い、国民に痛みをもたらす。国の未来を考えたとき消費税率は将来何%が必要なのか、どのように上げていくか、それによって社会保障はどこまで充実できるのか、子孫への負担はどれくらいになるのか――そうした未来への道筋を正しい分析に基づいて考え、きちんと国民に説明するのが政党の仕事である。

 しかし、国会では議論は尽くされておらず、国民は再延期という甘いエサ以外、何ら判断材料を与えられていない。

 各メディアの世論調査の結果が出ている。再延期を評価するかという問いには、朝日新聞では56%、日経新聞も55%が「評価する」と答えている。筆者はこの数字は意外に低いという印象を受けた。「再延期によってすべての国民は喜ぶはず」という政党の思惑とは異なり、国民は結構冷静に見ているのだ。

社会保障の将来不安とエンゲル係数

 本稿では日本経済のキーポイントである消費動向について、「社会保障の将来不安」と「非正規雇用の増大」という両面から考えてみたい。

 日経の世論調査では、「増税再延期でも支出を変えない(増やさない)」という回答が8割を占めている。背景にあるのは将来への不安で、社会保障を充実させるための税制スケジュールがいつまでも曖昧なことが影響している。

エンゲル係数(年代別)の推移(%)拡大エンゲル係数(年代別)の推移(%)

 将来不安の一端は、ここ数年の世代別エンゲル係数(注)の上昇にも見られる(グラフ1)。元々高い傾向にある高齢者世代だけでなく、どの年代も2014~15年にかけて急に右肩上がりになっている。食料品の値上がりや社会保険料増加による圧迫(可処分所得の減少)などが影響している。

懐具合に響く健康保険料の増加

 現在、原油価格はピーク時の約2分の1にとどまり、商品価格も世界的に低迷しているので、まだ国民の負担感は少ない。しかし、原油が上昇し始めたら、食料品やサービス価格は大きく値上がりし、エンゲル係数はもっと跳ね上がるだろう。

 社会保険料の増加は、とりわけ健康保険料の連続的な引き上げが、老若を問わず国民の懐を直撃している。国の医療費が毎年1兆円増加するのに対応するための引き上げで、年収600万円の会社員の場合、負担額は9年前に比べ5~6万円増にもなるという。

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筆者

木代泰之

木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト

経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。

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