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EU離脱でイギリスの衰退は必至だ

この国民投票を歴史の教訓にするためにも、次期首相は離脱派から選ぶべきだ

吉松崇 経済金融アナリスト

世界中の投資家が採った行動

ブリュッセルで6月28日、欧州議会に出席した英国独立党のファラージ党首(左)を迎えるユンケル欧州委員長(右)拡大ブリュッセルで6月28日、欧州議会に出席した英国独立党のファラージ党首(左)を迎えるユンケル欧州委員長(右)=ロイター

 6月23 日の国民投票で、イギリス国民はEUからの離脱を選択した。この結果を受けて、世界の金融市場は大混乱に陥っている。

 世界中の株式市場が大きく下落し、一方、先進国の国債が大きく買われて市場金利が低下した。日本やドイツ、米国のみならず、当のイギリスの国債までもが買われている。世界中の投資家がリスク回避行動、いわゆる「リスク・オフ」という投資行動を採った結果である。

 外国為替市場では英ポンドが、ユーロ、米ドル、円に対して大きく売られた。国民投票翌日の24日の終値を前日と比較すると、英ポンドはユーロにたいして6%、米ドルに対して9%、円に対して13%下落した。

 この混乱の中で、とりわけ大きく値を上げているのが円である。6月24日の一日で、円は英ポンドに対し13%、ユーロに対して7%、米ドルに対して4%の円高となっている。

 世界の投資家が「リスク・オフ」の投資行動を取ると、いずれの国でも海外に出た投融資資金が国内に還流する。カントリー・リスク、為替リスクを避けようとするためである。日本は経常収支黒字国でかつネット対外債権国であるので、「有事」にはどうしても円高になるのである。一方、アメリカは経常収支赤字国であるので、欧州が混乱しても、米ドルは円ほどには値上がりしない。

 ユーロ圏は全体としては経常収支黒字であるが、震源地イギリスに近く混乱の余波を受けることが確実なので、通貨ユーロはそれほど買われていない。

「大英帝国の遺産」を食いつぶしたイギリス

 そして、イギリスは経常収支赤字国である。

 イギリスは、かつて1980年代の半ばまでは経常収支黒字国であったが、それ以降、ほとんどの年で経常収支赤字である。特に2000年代に入ってからは赤字が定着しており、最近では毎年GDPの4~5%に相当する経常収支の赤字となっている。

 イギリスの国際収支の長いトレンドを見ると、貿易収支の赤字を、所得収支・サービス収支の黒字で埋めるという構造であった。

 貿易の赤字を、海外投融資がもたらす所得や金融業・保険業等が海外で生むサービス所得、つまり「大英帝国の遺産」で埋め合わせてきた。そして、経常収支の赤字が定着したということは、いわば「大英帝国の遺産」を食いつぶしたということである。

 経常収支が赤字であるということは、その分、資本収支が黒字でなければならない。言い換えると、海外からの資本の流入、つまりファイナンスが必要になる。

 このため、イギリスは外国の企業を誘致し、国内の売れるものは、大企業の株式や、不動産からプレミア・リーグのサッカー・チームまで海外に売ってファイナンスをつけている(岡崎慎司選手が活躍した今年のプレミア・リーグ優勝チーム、レスター・シティのオーナーはタイの実業家である)。

 中国の金持ちがロンドンの高級コンドミニアムを買い占めているとか、あるいはロシアの大富豪(オリガルヒ)やタイの実業家がプレミア・リーグのチームのオーナーであるというのは象徴的ではあるが、もちろん、マクロ経済的に最も重要なのは、日立の鉄道車両工場や日産の自動車工場のような外国企業によるイギリスへの直接投資である。こうした外国企業による直接投資が新たな雇用を創出するからだ。

国民投票の争点に隠れたイギリスの「不都合な真実」

国会議事堂前の公園に置かれた国民投票のやり直しを求める横断幕=6月25日、ロンドン拡大国会議事堂前の公園に置かれた国民投票のやり直しを求める横断幕=6月25日、ロンドン

 イギリス経済にとり、外国企業による直接投資はきわめて重要である。そして外国企業がイギリスを投資先に選ぶ理由は、なによりも先ず、イギリスがEUの一員であり巨大なEU市場に障害なくアクセスできることにある。

 国民投票の最大の争点は、移民問題であった。

 イギリスの市井の人々にとっては、EU諸国、とりわけ東欧からの移民が彼らの職を奪っているように見えるのだろう。だが、そもそも多くの移民がイギリスに職を求めてやってくるということは、イギリス経済がそれだけ魅力的だからである。

 実際、イギリス経済のパフォーマンスはEUの先進国の中では相対的に良好である。

 例えば、一人当たりの実質GDPの過去10年間(2006~2015年)の成長率は、イギリス2.4%、フランス1.1%、オランダ2.3%、ベルギー1.5%、ドイツ11.0%、イタリア-11.1%となっており、けた違いに良好なドイツは別にして、フランス、オランダ、ベルギーを凌駕している(データはIMF統計)。

 だが、その経済成長も、EUの中にいて外国企業の直接投資があるからである。EUから離脱すれば、東欧からの移民を追い返すことができるかも知れないが、外国企業の直接投資が減って、雇用が減少するだろう。残った国民は貧しくなる。

 国民投票の争点では、イギリスが経常収支赤字国で外国企業による直接投資が重要であるというイギリスの「不都合な真実」が隠されていた。政治家はもちろんこのことを知っているが、「我々は大英帝国の遺産を食いつぶしました」とは言わない。市井の人々が経常収支に関心を持つことなどあり得ない。

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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