東大はアジア7位 英語圏有利の中、すべてを母国語で学べるすごさに気づくべきだ
2016年07月11日
英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が6月20日、恒例のアジア大学ランキングを発表した。世界で一番広く使われているランキングで、これまで首位を独走していた東京大学が7位に落ち、シンガポールや中国、香港の大学が上位を占めた(表1)。
THEの評価項目は、➀査読(研究者による評価)、②論文引用数、③教員一人当たりの論文数、④外国人教員や留学生の比率(国際性)、⑤教員/学生比率など13項目にわたる。
ある教授は「日本の大学のランキングが低いのは、外国人教員と留学生が少ないこと(④)が一因」と言う。東大の場合、外国人教員の比率は6%で、確かに世界の有力大学(10~60%)に比べて低い。留学生比率も7%で欧米の20~30%に見劣りする。
これに対し、ランキング上位のシンガポールや香港の大学は英語圏の大学である。教員も学生も世界の英語圏からやって来るので、自然、外国人比率が高くなり、順位も上昇する。また論文引用数もインターネット時代では人口の多い英語圏に有利に働く。
つまりグローバル化の下で、今の評価項目が続く限り、今後も英語圏の大学は上位に、日本は下位に向かう可能性が高い。ランキングが低ければ、世界の注目度が減り、優秀な教員や学生のリクルートが難しくなってしまう。
昨年10月に発表されたTHEの世界ランキングでも同じ理屈が言えるかどうか、検証してみよう(表2)。
上位50校の国別データでは、米国がカリフォルニア工科大学を筆頭に最多26校。英国がオックスフォード大学など7校。カナダ3校、豪州1校、香港1校、シンガポール1校など、英語圏が計38校(76%)を占めている。すなわち旧大英帝国とその植民地だった国々だ。
これに対し、非英語圏では、優秀校が多いはずのドイツは3校、ベルギー、オランダ、日本(東大43位)が各1校、フランスはゼロと劣勢だ。つまり、その国の母国語による授業が多い大学は外国人が相対的に少ないので、国際性の点で不利になる。
しかし冷静に考えると、大学で母国語を用いて授業ができることは、その国の文化水準が高いことを意味している。法律、経済、哲学、文学、科学、工学などの学問において、世界共通で使われるあらゆる概念や思想がその国の言葉に翻訳されていなければならないからだ。
日本は、江戸時代から明治・大正期にかけて、多くの先人たちが西洋の学問や思想の言葉を日本語に翻訳してきた。その恩恵を現代のわれわれは受けている。
古くは杉田玄白や前野良沢らが記した「解体新書」。オランダ語の医学書を苦心惨憺して翻訳し、「神経」「動脈」「軟骨」などの医学用語を生み出した。明治の啓蒙家・西周(にし・あまね)は、「芸術」「科学」「技術」「理性」「知識」「意識」「概念」「命題」など多くの哲学や科学の言葉を考案した。
このほか「情報」「交通」「環境」「化学」「物理」「電気」「発酵」「素粒子」など、明治~大正期に創出された言葉は数限りない。どれも西洋の言葉の意味を深く考え、その概念を日本語でいかに的確に表現するかに工夫を凝らしている。その言葉は韓国や中国にも「輸出」されて、今でも使われている。
大学の授業を母国語で受け、深く究めることができるのは、学生や研究者にとって恵まれたことなのだ。フランスやドイツも同じだろう。逆に母国語への翻訳が十分ではない国では、授業は主に英語に頼らざるを得なくなる。
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