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民泊ビジネスの急速な進展、今後の展望は?

旅館業法にとらわれず、ゼロからルール構築を

蒲俊郎 弁護士・桐蔭法科大学院教授

 自宅やマンションの空き部屋などの一般住宅を、宿泊施設として貸し出して、旅行客を有料で泊める「民泊ビジネス」が注目を集めています。インバウンド(訪日観光客)の急増による宿泊施設の不足を背景に、規制緩和や法整備へ向けた議論が急速に進み、2016年は、まさに日本にとっての「民泊元年」となりそうです。

新たなビジネスモデル「シェアリング・エコノミー」

民泊・蒲原稿につく写真拡大大阪府で最初となる「民泊」の認定を申請する「とまれる」の三口聡之介社長(左から2人目)=4月1日、大阪府庁
 その背景には、モノやサービスを個人間で貸したり、共有したりする「シェアリング・エコノミー」という、ITの発展(ソーシャルメディアの普及)により生まれた新たなビジネスモデルの登場があります。その旗手が、自動車配車サービスのUBER(ウーバー)や民泊仲介のAirbnb(エアビーアンドビー)であることは言うまでもありません。

 日本では、UBERがタクシー業界からの猛反発にあって苦戦していますが(6月26日から京都府京丹後市限定で限定的なサービスを開始できた程度にとどまっています)、Airbnbは安倍総理が規制改革に本腰を入れたことで日本でも順調に事業展開しており、類似のサービスを行う企業も次々と登場しています。ちなみに、2008年にアメリカで誕生したAirbnbは、世界191カ国、34,000以上の都市に約200万件以上の登録物件を確保し、利用者は1億人を突破するなど、今や世界のホテル業界を脅かす存在です。

訪日観光客急増への対応

 安倍総理が民泊という特定サービスを推進する理由は、インバウンド急増への対応です。円安や訪日ビザの緩和を受け、2015年の訪日外国人観光客数は、前年比45.6%増の2135万9000人に達し、東京や大阪のホテルの稼働率は80%以上となり、国内の旅行者やビジネスマンも宿泊先を確保できない状況であり、「ビジネスホテル難民」という言葉すら生まれました。

 東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年に訪日客数を、現在の2倍の4000万人にする目標を政府が掲げる中、さらなる宿泊施設の不足は必至であり、民泊は新たな受け皿として期待されているため、政府は、特区の設置や政令改正、さらには法改正で規制緩和をすすめ、民泊の普及を促そうと後押ししているわけです。

 ただ、この問題は、宿泊施設不足の解消という狭い視点だけで捉えるべきではありません。民泊ビジネスは様々な新しい可能性を秘めています。人口減少や都市の空洞化が進む中、空き家など遊休資産の活用が実現すれば、地域活性化につながります。また、家主との交流や家庭料理などのサービスを通じて、その地域の魅力、日本の良さを知ってもらう機会が増えることで、真の意味の国際交流が実現できます。

民泊をパラダイムシフトの一環と捉える

 より大きな視点で考察すれば、民泊を、ITの発展により実現したシェアリング・エコノミーという、ビジネスのパラダイムシフトの一環と捉えることにより、さらなる可能性を見出すこともできます。

 平成27年版情報通信白書は、シェアリング・エコノミー型サービスが我が国では黎明期にあるとした上で、現状では企業が提供する従来型のサービスと同程度の支持を得ているとは言い難いとしながらも、C2C(消費者間の取引)サービスの品質をインターネットでの口コミ評価によって担保するという当該サービスにつき、信頼性の確保や利便性の向上に向けた取組がさらに進めば、将来的には、企業が従業員を通じて消費者にサービスを提供するという現在の経済活動の仕組み自体が変わっていく可能性がある旨を指摘しています。民泊の問題は、こうした大きな視点を常に念頭に置く必要があると思われます。

 他方、現状の民泊サービスに、様々な懸念や問題点が存在するのも事実です。衛生管理が行き届かずに感染症が広まったり、火災の原因になったりする危険性や、テロや犯罪の温床となるリスクも指摘されています。ゴミ出しのルールを守らないとか、騒音トラブルなどですでに近隣住民とトラブルになっているケースも発生しており、マンションの中には、管理規約を見直し、住民が民泊サービスを提供することを禁じる動きも出てきました。

 このように、何かと世間を騒がせている民泊問題ですが、では民泊ビジネスの法的側面はどのようになっているのでしょうか。

民泊規制の現状

 民泊を行う場合、本来は旅館業法の許可が必要ですが、実際は許可を得ていない違法な民泊が横行しているという現状が存在します。こうした中、観光庁と厚労省は昨年11月、早急なルール整備が必要として、「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」を立ち上げ、議論を重ねてきました。

 ちなみに、現状、民泊をめぐる主な制度としては、①旅館業法によるもの、②国家戦略特区によるもの、③イベント民泊の3つのパターンがあります。

 ①に関して、旅館業は「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されており、不特定多数の人を継続的に、宿泊料を取って泊める場合は、自宅を活用していても「旅館業」に該当します。たとえば、友達を無料で泊めてあげる、といったことなら「旅館業」にはなりませんが、繰り返しビジネスとして運営する場合には、許可が必要ということになる訳です。

無許可民泊の摘発相次ぐ

 仮に宿泊料を、体験料、室内清掃費などの名目で徴収したとしても、実質的に部屋の使用料とみなされるものは「宿泊料」にあたりますし、「土日限定」「夏季限定」などとしても、継続性があるとみなされます。そして、許可を受けずに旅館業を行った場合には、「6月以下の懲役又は3万円以下の罰金に処する」と規定されており、実際、こうした無許可民泊の摘発が近時相次いでいます。

 2014年5月に東京都足立区で自宅の一部を旅行客に提供していた英国籍の男性が旅館業法違反の疑いで逮捕されたほか、各地で摘発が行われ、今年7月には、ジャスダック上場企業とその子会社及び両社の社長ら計6名が警視庁により書類送検されています。

 こうした中、厚労省は、民泊における営業許可を取りやすくするため、 ・・・続きを読む
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筆者

蒲俊郎

蒲俊郎(かば・としろう) 弁護士・桐蔭法科大学院教授

1993年弁護士登録。2003年より城山タワー法律事務所・代表弁護士。 桐蔭法科大学院・大学院長、同教授(「インターネットの法律実務」「企業法務」ほか担当) 主な専門分野は、IT・インターネット、企業法務全般、コンプライアンス、労働問題(使用者側)。著書に「おとなのIT法律事件簿~弁護士が答えるネット社会のトラブルシューティング」(インプレスR&D刊)など多数。 その他:ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社(東証一部)社外監査役、 株式会社ケイブ(JASDAQ)社外監査役、株式会社ティーガイア(東証一部)社外監査役、学校法人桐蔭学園理事、一般財団法人 東京都営交通協力会理事など