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「民泊」―問題の背景と適正化に向けた展望―

適正なルールづくりと運用を通じて、観光の質の担保を

東徹 立教大学観光学部教授

今なぜ「民泊」? その背景は

 近年、インバウンド(外国人の訪日旅行)が急増し、昨年は過去最高の1974万人に達した。これに伴い、東京や大阪など一部大都市の「ホテル」は稼働率が80%を上回り、これからますます成長が期待されるインバウンドにとって、宿泊施設の不足がボトルネックになるとの懸念が示されるようになってきた(※1)。

(※1)全国的に見ると宿泊施設の稼働率は60%程度であり、「旅館」や地方の宿泊施設ではそこまで稼働率は高くない。地方分散化を進めるという視点も必要であろう。

民泊・東原稿につく写真拡大東京都大田区の「民泊」の説明会。認定を希望する人たちが参加した
 そこで、近年注目されているのが「民泊」(ホームシェア)だ。民泊は、住宅(戸建住宅、マンション等)の全部または一部を利用して宿泊サービスを提供するもので、訪日客の急増に伴う「ホテル不足」を空き家や空き室を有効活用して解決しようというのである。一方で、インバウンドの急増に伴う宿泊供給の逼迫を懸念する政府、他方で、空き家・空き室を稼働させたい不動産ビジネス、両者の思惑が一致するというわけだ。

 もっとも、民泊には、訪日客の急増をビジネス・チャンスとみて、マンションの空き室等を利用した不動産ビジネスとして民泊を行おうとするもの(不動産ビジネス型)ばかりではなく、個人が自宅の空き室を活用して外国人旅行者を宿泊させ、収入を得るだけでなく、交流を楽しもうとするもの(短期ホームステイ型)もある。自宅に外国人旅行者を受け入れ交流を楽しみたいホスト、日本の日常の暮らしにふれたい旅行者、双方のニーズが一致するこのタイプこそ、「民泊本来の姿」との考え方もある。

仲介サイトの急速な普及とシェアリング・エコノミーへの期待

 また、Airbnbに代表されるように、住宅を宿泊施設として提供したいホストと旅行者を、インターネットを介してマッチングする仲介サイトが急速に普及し、その存在感を拡大してきたことも民泊が注目を集めている背景といえるだろう。

 政府は3月に「明日の日本を支える観光ビジョン」を発表し、2020年に4000万人、さらに2030年には6000万人にまで訪日客を増やすという新たな目標を掲げた。その現実味はともかく、政府が成長戦略、地方創生を実現させるうえで、インバウンドの成長に大きな期待をかけていることは明らかだ。政府が民泊を推進しようとするのは、単にインバウンド成長のボトルネックとなる宿泊供給不足を解決するのみならず、民泊を契機として「シェアリング・エコノミー」というニュービジネスを活性化させ、それが成長戦略の実現に寄与する経済効果を生み出すものと期待されるからであろう。

民泊をめぐる規制とその動向

 民泊をめぐっては、近隣住民の生活環境の悪化をはじめ、公衆衛生上の観点、テロや不法滞在など悪用防止の観点、他には無断転貸やマンションの管理規約違反、さらには所得隠しなど、様々な問題が指摘されているが、最も問題なのは、無許可で営業を行っている違法な民泊が少なからず存在していることそれ自体であろう。昨年、京都でマンションを利用して多数の外国人旅行者を繰り返し宿泊させていた無許可営業の違法民泊が摘発されたが、「氷山の一角」にすぎないといわれている。

 現在の法規制では、反復継続して対価(宿泊料)を得て人を宿泊させる場合には、原則として「旅館業法」に基づく許可が必要になる。京都の例ばかりでなく、本来許可が必要であるにもかかわらず、無許可営業を行っている民泊が少なくないといわれている(※2)。

(※2)現行制度上実施可能な民泊は、「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区民泊)」「農林漁業体験民宿業」「イベント民泊」であり、これ以外は旅館業法の許可が必要となる。

 民泊の広がりに伴って様々な期待や問題、賛否両論が渦巻く中、行政も昨年から今年にかけて相次いで対策を打ち出した。

旅館業法自体の規制緩和も

 最初の動きは「国家戦略特区」制度に基づく民泊条例の制定である。昨年10月には大阪府で、次いで12月には東京の大田区で民泊条例が制定され、民泊の適正化に向けたルールが定められた。ところが「6泊7日以上」という(実態に合わない)基準が設けられていることもあり、実際の申請はごく少数にとどまっているようだ。

 もう一つの動きは、旅館業法自体の規制緩和である。厚労省は今年の4月から、 ・・・続きを読む
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筆者

東徹

東徹(あずま・とおる) 立教大学観光学部教授

1962年3月、岩手県陸前高田市生まれ。 日本大学大学院商学研究科博士後期課程満期退学。 北海学園北見大学教授、日本大学商学部教授を経て現職。 2014年4月より立教大学観光ADRセンター副センター長、2015年4月より観光研究所長、2016年4月より観光学科長を務める(いずれも現在に至る)。 専門領域は商学・マーケティング。マーケティングの視点から、「観光」「サービス」「地域振興」に関する様々な問題に取り組んでいる。