トヨタは新成長循環を正しく運用できているか
2016年08月19日
トヨタ自動車が再び「成長戦略のワナ」に陥り始めている兆候があるといえば、多くのリーダーが驚きを隠せないのではないか。
しかし、トヨタは先日発表された2016年世界販売台数の上半期実績で再び独フォルクスワーゲン(VW)の後塵を拝し、第一四半期決算では、前年同期から15%の営業減益に落ち込み、業界全体が9%の減益率の中で一人落ち込みが激しい。同時に通期業績の下方修正も発表した。為替前提の変更がこの背景にあるとはいえ、円高への抵抗力が弱まっていると言わざるを得ない。現在のトヨタが、新戦略の中でいかなる問題点に直面しているかを論考してみよう。
まずは、台数停滞が何を意味するかだ。
2016年上半期(1-6月)のトヨタの世界販売台数は前年比で0.6%減少し、499万台にとどまった。一方、昨年に排ガス不正問題を引き起こし、大幅な後退を余儀なくされると予感されていたVWは511万台(同1.5%)に達している。わずかに12万台とはいえ、昨年下半期の失速から切り返し、VWは上半期で世界トップに立っている。
VWグループの販売依存度が高い中国や欧州市場で、不正問題からの影響が限定的であることはすでに判明していた。不正影響を最も強く受けてきたのは、日本、米国、韓国の3カ国。それらの販売構成比が低いVWグループ全体で見れば、受けた影響が小さいということだ。
しかし、追い越されるとは意外である。
上半期の台数の明暗を分けた要素は大きく3点あるだろう。
第1は、両社の販売国構成の違いにある。自動車販売が好調な欧州、中国市場でVWは高い市場シェアを有することで、大きなメリットを享受している。一方、トヨタの市場シェアが高いASEANは経済成長の停滞を受け自動車販売が低調であり、トヨタはここで苦戦する構図となっている。トヨタの中核市場である米国は、市場のライトトラック比率が上昇し過ぎ、ここではトヨタは供給能力が足りない。
第2に、プレミアム市場での存在感の差異であろう。プレミアム構成比が高いVWグループは、アウディ、ポルシェが好調に牽引(けんいん)している。Lexusも世界販売台数は前年比5%増と健闘はしているが、全体に占める構成比が低い。
第3に、3月の愛知製鋼の工場火災、4月の熊本地震、5月のアイシン精機傘下のアドヴィックスの工場爆発事故が相次ぐなど、トヨタは異常とも言える国内工場の操業ロスに苦しんだ。これがなければ、もう少し台数的には善戦できたはずだ。
トヨタが台数を追わない経営戦略に立つことは広く知られている。台数数値自体の比較には意味がないのかもしれない。しかし、「台数を追わない」と「台数がついてこない」は意味が違う。結果として台数がついてこないのは問題である。トヨタの販売に勢いがないことは否定しがたく、連結出荷台数で見れば、15/3期の第3四半期から実に6四半期連続で減少を続けてきたのである。
かつて、世界ナンバーワンを目指し、規模を追っていた頃のトヨタの成功要因には、「原価低減」→「商品力向上」→「台数成長」→「原価低減」という、成功を再現する循環があったのだ。
循環起点は、お家芸とも言える「原価低減」だ。原価低減は「商品力向上」につながり、その結果として「台数成長」につながっていく。「原価低減」は台数成長に比例して拡大し、その力が商品力をさらに高め、さらに台数成長を加速化させていく。これが、三河の小さな日本メーカーが世界的な企業に成長した原動力である。
ところが、創業家以外のサラリーマン社長が結果を急ぐあまり、いつの間にか台数成長が目的化してしまった。この結果、品質は劣化し、リーマンショックに端を発した経済変動の中で、増大した固定費によってトヨタは多大な赤字企業に落ち込んだのだ。
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