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[5]ハローワークで求職するハローワーク職員

笑えないブラックジョークに支配される現場

上林陽治

 「ハローワークに、2年間勤め、生活を守るために必死に働いてきましたが、それまで働いていた場所で一転して仕事を探す求職者となりました。これまでハローワークで勉強して取得した資格を活かせる求人もなく、なかなか思うようにいかない求職活動の時期を過ごしました。雇い止めは精神的苦痛を与えるだけでなく、家族にも影響を及ぼします。日々の業務の中で築き上げた知識、経験を持った職員を公募によって雇い止めにしないでほしい。」(ハローワーク勤務 職業相談員 女性)

期間業務職員制度と公募試験

 ハローワークのカウンターの向こう側で、求職者の相談にのっていた非正規相談員の彼女は、翌日、カウンターのこちら側で失業者となって、向こう側の非正規相談員に求職相談をするという、こんな笑えないブラックジョークのようなことが本当に起こっている。

ハローワーク拡大ハローワークの就職支援コーナー=名古屋市
 冒頭のハローワーク勤務の女性職業相談員の叫びは、厚生労働省の労働組合である全労働が収集した(2015年10月)、ハローワークで働く非正規相談員238人から寄せられた手記のひとつである。この報告書には、非正規相談員が置かれた想像を絶する過酷な職場環境が描かれていた。

 「同じ部門で働く二人の方が公募対象となり、一緒に働いていた方が競わされることとなり、一人の方がメンタル不全となってしまいました。(公募試験の結果)この二人が採用されたのですが、結果的には多数の一般求職者が不採用となった上に、メンタル不全となった方は、結局働くことができず退職されてしまいました。採用されたもう一人の方は、自分が紹介した一般求職者が不採用になったこと、今回は採用されたけれど、3年後にまた同じ思いをするのはどうしても耐えられないとの思いから、退職をしてしまいました。優秀な能力を持った方に公募のストレスによる精神疾患を患わせ、社会に放り出している現状を、厚労省はどのように考えているのでしょうか。」(ハローワーク勤務 就職支援ナビゲーター 男性)

 ハローワークに勤務する非正規相談員は、制度上、国の非常勤職員制度の一つである期間業務職員に位置づけられている。

 期間業務職員制度とは、2010年10月から始まったもので、それまでは日々雇用職員と称され、あらかじめ定められた任用予定期間内で毎日任用されるという、およそ現実離れした制度だったが、実質上、期間の定めなく任用されてきていた。日々雇用職員の任免を定めていた改正前の人事院規則8-12(職員の任免)の(旧)52条第2項でも、「日々雇い入れられる職員が引き続き勤務していることを任命権者が知りながら別段の措置をしないときは、従前の任用は、同一の条件をもって更新されたものとする」と定めていた。

 これに対し期間業務職員制度は有期雇用であることを明確にしている。すなわち1回の任期は1年以内で、連続2回までは勤務実績に基づき継続雇用されるものの、3回目には一般求職者と一緒に公募試験を受けなければならないとしている。つまり期間業務職員の制度化とは、非常勤の国家公務員に、任期と任期の更新という考え方を新たに導入するというものだった。そして実質的な無期雇用とならないよう、任用の継続に対して厳格な規制として作用する公募試験制度を規定した。

 この結果、先の就職支援ナビゲーターの男性の非正規相談員の例にみたように、自分が就いていた仕事が今後も恒常的に継続するのがわかっていながら、3年ごとに職場の同僚ならびに一般求職者とともに公募試験という競争を強いられ、雇止めの危機にさらされ、失職の恐怖に襲われ、メンタルヘルス不全に陥り、職場から放り出されてしまうのである。

仕事と切り離された資格

 「私は日々、目の前の求職者の早期就職のため、支援をしています。自分の雇用が不安定でメンタルを整えながら相談に応じることはとても苦しく、涙が出そうになることもあります。やりがいのある仕事で、求職者の方から『仕事が決まった。ありがとう』といわれるその一言に働き甲斐や誇りを感じています。」(ハローワーク勤務 早期再就職支援ナビゲーター 女性)

 任期が更新される毎年1、2月になると職場に独特の雰囲気が漂う。

 3月には、公務員関係の求人が大量にハローワークに出される。一般求職者はこの求人をみて公募に応ずる。この一般求職者に、ハローワークの相談員の求人内容を説明し、書類を渡し、「就職できるといいですね」と励ましているのは、公募試験による失職の恐怖に慄いている当の期間業務職員の相談員自身である。

 3年目に必ず晒される公募試験を勝ち抜くために、非正規の相談員は、働きながら、産業カウンセラー、キャリアコンサルトなどの資格の取得を目指す。

 産業カウンセラーとは、心理学的手法を用いて、働く人たちが抱える問題を、自らの力で解決できるように援助することを主たる業務とするもので、産業カウンセラー協会が実施する講座を修了し、毎年3月に実施される試験に合格して取得できる民間資格である。20万円超の受講料を要する。一方のキャリアコンサルタントは、労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行う資格を有するもののことで、2016年4月から国家資格となった。受講料は30万円を超える。非正規の相談員には福利厚生としての研修費はないので、資格取得にかかる費用は、自ら支払う。

 キャリアコンサルタントは国家資格とはいえ、名称独占資格に過ぎず、ハローワークの相談員になるための必須の資格ではない。実際の公募試験も、筆記試験や面接で行われ、資格取得を要件としていない。それでも公募試験に際して提出する履歴書の資格欄を空白にしないために、業務遂行上の能力があると考慮されるであろうことを信じて、誰からの支援も受けず、資格取得に刹那的に対応する。

 一方で、ハローワークに勤務する正規職員には、資格を取得する動機は薄い。正規職員は無期雇用でめったなことでは解雇されず、何よりも数年経てばハローワークから別の部署に異動する。むしろ資格を持つことが異動の幅を狭めることになりかねない。

 したがって、正規職員より非正規相談員の方が有資格者は多い。公募試験会場では、資格取得に価値を置かない無資格の正規職員が、有資格の相談員応募者を面接し、合否を判定するという逆転現象が発生している。

 ここにもブラックジョークの芽が頭をもたげている。

ハローワーク職員の3人に1人は非正規公務員

 「いままで一緒にチームとして仕事をしてきた方と公募に応募しました。自分が採用されたことで職場を追われた方や、採用されなかった一般求職者の方の生活を思うと眠れないことがあります。公募があるために、同僚の雇止めの責任が、まるで採用された非常勤相談員にあるかのような雰囲気が作られています。今、職場で起こっている現状を受け止めてほしい。公募によってメンタル疾患となる非常勤相談員が発生し、治らないので辞める実態もあります。公募は公正な採用選考のためといいますが、内部も外部もその応募者を傷つける制度でしかありません。労働行政の職場実態がこのような状況であるにもかかわらず、厚労省は正社員への転換制度や正社員実現加速プロジェクトなどを、恥ずかしくもなく推進できるものだと思います。」(ハローワーク勤務 就職支援ナビゲーター 女性)

 都道府県労働局およびハローワークの非正規相談員は、2001年には既に全職員の約半数に及んでいた。この年の職員構成は、正規職員1万2692人に対し、非正規相談員は1万1068人で、比率は53対47である。

 その後も、正規職員は定員削減計画に基づき徐々にその人数を減らし、非正規相談員は反比例して増大する。2003年度には正規職員1万2446人、非正規相談員1万3165人で、非正規が正規を人数で逆転した。2006年~2008年度の3年間は、景気回復に伴う求職者減により非正規相談員は削減され、正規が非正規を人数で上回る状況が続いたが、2008年9月に発生したリーマンショックが状況を再び一変させる。

 リーマンショック以降の雇用情勢の悪化を受け、政府は緊急雇用対策の一環として、ハローワークの職員を大幅に増やし、2009年度には非正規相談員が約7600人増員、その後も、2010年度、2011年度に約1,500人ずつ増員され、2011年度には、全国のハローワーク(労働局を含む)に勤務する職員は、常勤職員1万1773人に対し、非正規相談員は2万1295人となり、職業相談や求人開拓業務などに従事する職員の3人に2人は非正規の相談員となった。 

非正規公務員5につく図1拡大図1 ハローワークの非常勤職員と非正規相談員数の推移

仕事は増えている中での非正規相談員の大量雇止め

 ところが、雇用対策関連予算が切れた2012年度から、非正規相談員の大量雇止めが始まった。公募試験も、雇止めの口実として利用される。削減された非正規相談員数は、2012年度1,119人、2013年度2,235人、2014年度1,204人、2015年度1,174人で、この4年間に5,732人、2012年比でみると、非正規相談員の4人に1人が雇止めされている。

 ハローワークの非正規相談員の大量失職の背景には、雇用情勢の回復と、それに伴う国の雇用対策事業費予算の削減があった。

 たしかにハローワークの一般職業紹介のうち新規求職者は、2011年度の721万件から直近の2015年度には551万件へと170万件減少している。

 だが実績を上げるためには時間がかかる困難事例に関しては、ハローワークによる職業紹介や就職件数は確実に増えている。

 たとえば、フリーター等の若者就労支援では、 ・・・続きを読む
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筆者

上林陽治

上林陽治(かんばやし・ようじ) 地方自治総合研究所研究員

1960年、東京都生まれ。1985年、國學院大學大学院経済学研究科博士課程前期修了、2007年より現職。主要著書に『非正規公務員』(日本評論社、2012年8月)、『非正規公務員という問題』(岩波ブックレット、2013年5月)、『非正規公務員の現在』(日本評論社、2015年11月)など。共著に『自立と依存』(公人社、2015年5月)。

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