JAグループは政治への依存を減らし、「消費者に欠かせない組織」になるため変身せよ
2016年09月12日
農協(JA)改革で、この秋の焦点になっているのが農業資材の価格問題だ。環境が似ている韓国に比べて、JAが扱う肥料、農薬、農機具などが高く、引き下げるように努力するべきではないか、という話だ。関係者は、今年の11月ごろまでに、なんらかの方向性を導きだそうとしている。
旗振り役は、自民党農林部会長の小泉進次郎だ。農業については門外漢だったが、発信力や人気などを買われて2015年10月に農林部会長になった。環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意直後だった。
コスト競争力をつけるために、JAの資材問題も課題にあげた。農家が使う肥料の7割、農薬の6割、農機具の5割を農協が扱う。
コメの生産費(10㌃あたり)のうち農機具が約21%、肥料が8%強、農薬が7%弱を占める。
8月上旬には、日本農業法人協会が、韓国と日本の農業資材の価格について独自調査を行った結果を発表した。韓国は肥料は日本の半分、農薬については日本の3割ほど、という結果になった。
日本農業法人協会は、大規模な専業農家の集まり。どちらかというと農協に頼らず、販路拡大なども自分で行っていくという農業者の集まりだ。ただ、改革を迫る進次郎に対してJA側の動きは鈍い。
農業資材を扱うのは、グループで商社的な機能を持つ全国農業協同組合連合会(全農)だ。その全農の会長は中野吉実。地元は佐賀で、グループの実力者として知られる。
進次郎は、中野とじっくり話すために7月26日、佐賀県の農業現場の視察に訪れた。同行した同僚記者によると、その時の進次郎と中野の険悪なムードは尋常ではなかったという。視察のあとに、記者のぶら下がりに答えようと進次郎が中野を誘ったが、中野はバスに乗り込んででてこなかった。視察について記者向けのプレスリリースの発表も拒んだという。
「はたして全農は農家のための組織なのか、メーカーや流通企業の立場なのか」「これから建設的な対話ができるのか」。進次郎は苦笑いしながら記者団に不満をぶちまけた。
中野は、7月22日の会見で「これまでやってきたことは間違っていない」と何度も強調した。進次郎にとって、その発言にも不満を持っていたのだ。中野はその後、発言を修正した。
全農も何もしないわけにはいかない。8月15日には対策を発表し、韓国からこれまでより3~4割安い肥料を輸入するとした。また、コスト削減の取組を全農のホームページで公表することにした。9月5日には、全農の神出元一専務が前向きに取り組んでいくと語った。
新たな焦点として急浮上しているのが資材引き下げに向けた「新法」を政府がつくるかどうかだ。日経新聞が8月10日に報じた。農水省幹部は「やるともやらないとも決めていない」としながら、選択肢としてはありえることを示唆する。全農幹部は「寝耳に水だった」と驚く。
資材の価格は、基本的には民間同士の取引だ。全農が、価格引き下げ目標を示したり、努力目標を示したりすることで決着する可能性が高いとみられていた。
しかし、新法となれば話は違ってくる。強制力には限界はあるものの、法律に盛り込まれた文言をテコになんだかんだと政府に言われ続けることになる。
経済産業省が12年にまとめた調査では、韓国は、かつて政府が国策工場をつくり、アジアへの輸出を前提に大規模な生産体制をつくったことなどが低コストの原因としている。しかし、肥料のコストのうち、農協がとっている手数料は、韓国が9・2%なのに対し、日本は16%。また全農の決算でも、資材部門は他部門に比べて大幅な黒字を出している。農家に還元するのりしろはある、と見られている。
そもそも、なぜ農協は批判されるのか。
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