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エアラインを脅かすリチウムイオン電池の発火事故

生活が便利になればなるほど潜在的に抱え込むリスクの大きさに目を向けよう

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

発火・爆発事故を起こすリチウムイオン電池 

 サムスンが8月に新発売したスマホ「ギャラクシーノート7」のリチウムイオン電池が、相次いで発火・爆発事故を起こしている。米国では車の運転席で充電中に発火して車が全焼。オーストラリアではホテルの寝具などが焼けた。

 この電池は、子会社のサムスンSDIが韓国でセル(電池本体)を生産し、それを中国に送ってパックに詰め、再び韓国に戻してギャラクシーに装填(そうてん)していた。おそらくサムスンSDIの生産工程のどこかにミスがあったと思われる。

 これを受けて米連邦航空局(FAA)は9月8日、全エアラインに対して、航空機内ではギャラクシーノート7の電源を必ず切って使用せず、充電もしないよう求める緊急通達を出した。日本、欧州、カナダ、インドなどの航空当局もこれに追随。事態は単なる電池の問題から航空機の安全問題に広がってきた。

カンタス機では今年2回の発火事故が発生

 FAAが緊急通達を出したのには理由がある。旅客機内や貨物機内では2000年以降、リチウムイオン電池の発火事故がかなり高い頻度で起きており、安全上無視できない問題になっていたからだ。

 一例だが、今年5月と8月にも、カンタス航空機の客室内でリチウムイオン電池が発火した。オーストラリア運輸安全委員会(ATSB)は焼け焦げた電池の写真をネット上で公開して世界のエアラインに警戒を促した。

リチウム電池(写真1)拡大リチウム電池(写真1)
リチウム電池(写真2)拡大リチウム電池(写真2)

 5月の発火(写真1)は、カンタス機が米ダラス空港に着陸する2時間前に、8月の発火(写真2)は、シドニー空港から離陸する直前に起きた。ともに客室内で白煙が立ち込めたので調べると、乗客が持ち込んだ電子機器のリチウムイオン電池が火災を起こしていた。

「過去6年間に17件の発火事故」と豪州当局

 ATSBは「2つの事故では乗務員が教科書通りに適切な措置を取り拡大を防いだ」と称賛する一方、「我々は過去6年間に同じような発火事故の報告を17件受けている」と明らかにした。メディアでいちいち報道されないリチウムイオン電池の発火が、実はかなりの頻度で起きていることが分かる。

 貨物機では過去2回、荷物のリチウムイオン電池が発火して墜落事故を起こしている。1件は2010年、米UPS航空機がドバイ空港から離陸した直後に墜落し、もう一件は2011年に韓国アシアナ航空機が飛行中に墜落した。パイロットが計4人死亡した。

 事態を重視した国際民間航空機関(ICAO)は今年4月、乗客が持ち込むリチウムイオン電池の容量に制限を加える新たな基準を決定した。今回、FAAがギャラクシーノート7の機内での使用を一切禁止したのは、ICAOの基準のままでは危ないと判断したからだ。

従来の電池より2~5倍も強力なリチウムイオン電池

 リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高い、高電圧、軽量などの優れた特徴がある。従来のニッケル電池などに比べるとエネルギー密度が2~5倍高く、ハイテク製品の必需品になっている。生産量は増加の一途で(グラフ)、将来は更に低コストになる可能性がある。

リチウム電池生産量拡大リチウム電池生産量

 一方、この電池は高エネルギー密度ゆえに、小さな製造ミスでも発火事故につながりやすく、高度な製造技術や品質管理を必要とする。利便性とリスクが背中合わせの製品なのだ。

 特にスマホは各社が競って新機能を満載しており、電池への性能要求がきつくなっている。限られたサイズ内で仕様を実現するため、設計や製造にしわ寄せがきている。ギャラクシーの発火はそうした流れの中で起きたようだ。

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筆者

木代泰之

木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト

経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。

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