「キャッシュ王国」日本の「現金信仰」が強い中高年層は変わるか
2016年11月18日
アップルは10月から、iPhoneをかざすだけで簡単に支払いができるApple Pay(アップルペイ)を日本でスタートした。金融業への進出はアップルの長年の悲願だ。消費者はクレジットカードを持ち歩く必要がなくなり、カードの存在感は薄らぐ。ところが、日米のカード会社はこぞってアップルペイを支援し、提携に走っている。水面下で一体何が起きているのだろうか。
アップルペイは、手持ちのクレジットカードをあらかじめ iPhone7やApple Watchでスキャンし、情報を登録しておく。店頭で支払う時は、iPhoneのボタンを押して、指紋認証をしながら読み取り機に近づければ完了だ。
これがアップルのいう「スマート」なやり方。カードを取り出して暗証番号を入力したり、お札や小銭を計算したりするのは「ダサい」のだ。
レストランで隣のカップルがアップルペイで支払うのを見て、自分もそうしなければと焦(あせ)る向きも出てくるだろう。
アップルペイにはSuica(JR東日本発行の電子マネー)も登録することができる。カードの代わりだけでなく電子マネーにもなるのは、日本向けの特別仕様だ。
iPhoneにカードを登録した時点で、カード番号は別の数字に暗号化(トークン化)されており、iPhoneも店側もカード番号に触れることはない。カード情報の漏えいや不正利用を防ぐ優れたセキュリティー機能である。
しかし、現状では使い勝手がいいとは言えない。使える場所が一部のスーパーやコンビニ、家電量販店、各種チェーン店など、QUICPayやiDが使える店に限られているからだ。
iPhoneは日本のスマホの7割を占める人気機種だ。しかも音楽や映画を楽しむiTunesにカード登録しているユーザーは全世界に8億人以上もいる。
これをアップルペイの会員獲得に活用すれば、アップルペイが使える店はこれからどんどん増えるだろう。
アップルペイでは、カードはiPhoneの中に電子情報として隠れ、店での支払いはまるでiPhoneが行っているように見える。有名カードといえども存在感やブランド感は薄くなる。
これはカード会社にとって脅威になるはずだが、カード会社は逆に、新規参入者であるアップルペイの開発や普及に全面的に協力している。実際にはカード会社こそアップルペイを作り上げた陰の主役と言ってもおかしくないほどだ。
アップルペイの開発では、VISAなど米国のカード各社は数百人規模の人材をアップルのプロジェクトに送り込んで手助けした。2014年にアップルペイが米国でスタートしたとき、VISAやMasterCardは自分の費用でアップルペイのテレビCMを放映している。
日本ではJCBや三井住友カードが協力した。久保健・三井住友カード社長は9月に記者発表した際、「アップルペイという素晴らしいサービスをご案内できる日を心待ちにしていました」と、率直に喜びを語っている。
カード会社がこれほどアップルペイに肩入れするのには理由がある。
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