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牛乳の規制緩和でバター不足が解消されるのか?

山下一仁

今回の規制改革で何が問題となったのか

 今回政府の規制改革で農協と並んで争点となったのが、牛乳の規制緩和である。これについても、多くのマスコミ関係者から、これで生乳の生産は拡大しますか、バター不足は解消しますか、という質問を受けた。

 まず、何が問題となったのだろうか?

 生乳の価格は、飲用向け生乳、バター、脱脂粉乳等に向けられる〝加工原料乳〟、チーズ向け生乳、生クリーム等向け生乳などの用途に応じて異なる価格が付けられている。一物一価ではなく、用途によって異なる価格が付けられる一物多価である。これを用途別乳価という。

 このうち加工原料乳については、ブロック単位(北海道、東北、関東等)で指定される農協の連合会(〝指定団体〟という)を通じて生産者が販売するときに限り、政府から補給金(補助金)が交付される。95%の酪農家が、指定団体を通じて生乳を販売している。

 規制改革会議は、生産者が多様な消費者ニーズに対応できるよう、指定団体を通じないでも生乳の販売ができるようにすべきである。このため、指定団体以外の農協等を通じて販売した場合でも、加工原料乳の補給金が出せるようにすべきであると提案した。

 これに対して、酪農団体や農林水産省は、現在指定団体を通じて行っている生乳の需給調整(〝計画生産〟という)が損(そこ)なわれると反論した。結局、生産者や農協等は、飲用乳、加工原料乳の年間の販売計画及び販売実績を国に報告することを条件に、規制改革会議の提案は認められることになった。これは本来加工原料乳として流通するべき生乳が飲用向けに流れて、飲用向け乳価が下がらないようにしようというものだろう。

指定団体制度とは?

搾乳にえさやり=写真は一部加工してあります拡大搾乳にえさやり=写真は一部加工してあります

 まず、加工原料乳の補給金制度、これを実施するための指定団体制度ができたのは1966年で、生乳の計画生産(需給調整)を開始したのは1979年であり、両者の間に制度的な連携はない。

 また、今は生乳が足りない状況で生産制限をするような時ではない。そもそも、なぜ酪農にだけ、特定の農協を通じてしか売れないという指定団体制度ができたのだろうか?

 生乳は一物多価制度となっているが、用途が異なるだけで、生乳自体に違いがあるわけではない。酪農家からすれば、自分が生産した生乳が、飲用牛乳向けに処理されるのか、加工原料乳向けに処理されるのか、あるいは、どのような比率で飲用牛乳向け、加工原料乳向けとなるのか、まったくわからない。たまたま飲用牛乳向けに処理された農家が高い乳代をもらい、加工原料乳向けに処理された農家が低い乳代しかもらえないのでは不公平である。

 このため、指定団体が、飲用牛乳向け、加工原料乳向けに販売して受け取った乳代と、加工原料乳の数量に応じて政府から受け取った補給金を合算して、これを全乳量で割ることで、1キロ当たりの乳価を決定し、これに各酪農家の乳量をかけて、酪農家に支払うこととした。これを〝プール乳価〟という。

 つまり、指定団体制度は一物多価制度の下で、生産者の取り扱いが不平等にならないようプール乳価を実現するために導入されたものである。一物多価制度でなかった1966年以前はプール乳価も指定団体制度もなかった。どの用途でも単一の乳価だったのである。

何が起きるのか?

 今回の規制緩和でどのようなことが起きるのだろうか?

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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