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MRJの最大のライバルはブラジル機

重工各社の再結集、部品国産化が中長期的な課題

吉川忠行 航空経済紙「Aviation Wire」編集長

拡大県営名古屋空港の滑走路を離陸するMRJの飛行試験初号機=2016年8月28日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
 三菱航空機が開発を進めている国産初のジェット旅客機「MRJ」が、10月から米国での飛行試験を始めた。天候に恵まれている米ワシントン州モーゼスレイクのグラント・カウンティ国際空港を拠点に、2018年まで飛行特性など、さまざまな項目の試験を重ねていく。機体を最初に発注した、全日本空輸(ANA)を傘下に持つANAホールディングスには、2018年中ごろに量産初号機を引き渡す計画だ。

これまでに4度、納入を延期

 本格的な飛行試験が始まった一方で、納入遅延が心配されている。MRJは2008年3月27日、ANAが確定発注15機を含む25機をオーダーしたことで開発が始まり、当初の納入時期は2013年だった。

 その後2014年4-6月期、2015年度の半ば以降、2017年4-6月期とずれ込み、三菱航空機が現在公表している「2018年中ごろ」とする納期は、2015年12月24日に示されたものだ。この4度目の延期を発表した際、MRJのチーフエンジニアである同社の岸信夫副社長は、「50年ぶりの(旅客機)開発のため、知見や経験が足りない部分があった」と理由を述べた。

 MRJの受注状況は確定発注が233機、オプション(仮発注)が170機、購入権が24機で最大427機。日本の航空会社ではANAのほか、日本航空(JAL)が32機を確定発注している。確定発注以外の契約は、今後の開発状況により取り消される可能性があるものだ。

 米国での飛行試験が始まったMRJ。燃費の良さや客室の快適性を売りとしてきたMRJにとって、今後の課題やビジネスとして成功させる条件は、どのようなものなのだろうか。

安全性証明へ

 MRJは試験機が7機ある。実際に飛行して試験を実施する「飛行試験機」が5機、地上で強度を試験する「強度試験機」が2機で、それぞれ異なる内容の試験を行う。三菱航空機は、飛行試験機のうち4機を年内に米国へ持ち込む計画。しかし、米国へ現在到着している機体は初号機と4号機で、2号機と3号機の到着は、年を越す可能性が出てきた。

 最初に海を渡った初号機も、スケジュール通りの空輸(フェリー)ではなかった。国内で試験を実施してきた県営名古屋空港から米国へのフェリーフライトは、幾度となく延期された。

 8月に出発した際は、27日と28日に2日連続で空調システムの監視装置に不具合が発生し、名古屋へ引き返した。その後、8月27日から数えて3度目の出発となる9月26日のフライトが成功し、現地時間9月28日にモーゼスレイクへ到着した。3度目で成功したとする報道が多くみられるが、あくまでも8月27日から数えた回数に過ぎず、それ以前にも何度か出発を試み、断念した上での成功だった。

 経験不足を克服しながら開発が進むMRJ。次の山場は、機体の安全性を証明する、国土交通省による型式証明の取得だ。民間航空機の安全性は、製造国の航空当局が保証しなければならない。機体の構造だけではなく、コンピューター制御など、多岐にわたる部分について、安全基準と照らし合わせて審査が進められる。型式証明を取得しない限り、MRJは民間機として乗客を乗せた商業運航ができない。

 三菱航空機は、2500時間の飛行試験で型式証明を取得できると見込む。天候に恵まれているモーゼスレイクでは、4機体制になると1日3回から4回の飛行試験が出来る見通しだ。一方、飛行試験結果を地上で分析する必要もあることから、常に1日4回実施することは難しい。また、高高度や寒冷地など、さまざまな気象条件での試験も求められる。

 通常では起こりえないことも想定し、安全性を評価しなければならない型式証明。通常の飛行試験だけではなく、さまざまな条件下での試験結果も、機体に反映させていかなければならない。

 5度目の納期見直しがささやかれる中、今のところ三菱航空機は計画を変更していない。親会社でMRJを製造する三菱重工業は11月に入り、宮永俊一社長兼CEO(最高経営責任者)直轄の「MRJ事業推進委員会」を設置した。開発課題の整理や対応策の推進などの重要事項について意思決定し、全社的に支援していく。

 型式証明取得に向けて飛行試験が本格化した今、予期せぬトラブルが生じても迅速に対処し、試験だけではなく量産機の製造も進めていく必要がある。そして、航空会社へ納入後のカスタマーサポートも、就航前に体制を整えなければならない。旅客機は20年程度は使われるため、サポートの善し悪しも機体を評価する指標のひとつになるからだ。

追い上げるライバル

拡大県営名古屋空港の滑走路へ向かうMRJの飛行試験初号機=2016年9月25日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
 順調に開発が進んだとして、MRJは世界のライバルと戦っていけるのだろうか。

 MRJのように地域間輸送を担う機体は、「リージョナル・ジェット機」と呼ばれる。これを手掛けるのは、ブラジルのエンブラエルとカナダのボンバルディア、ロシアのスホーイ、中国のCOMAC(中国商用飛機有限責任公司)の4社。旅客機2強のボーイングとエアバスは、100席未満が中心となるこのサイズの機体は製造していない。

 4社の中で最大のライバルとなるのが、エンブラエルだ。1969年に国営企業として誕生したものの赤字続きで、1994年に民営化された。ブラジル政府が航空機産業育成のために立ち上げた企業とも言える。自国の軍用機や他国の旅客機をライセンス生産することで力を付けた同社は、自社開発に乗り出していく。民営化前の1992年に開発を始めたリージョナル・ジェット機ERJ145(50席)が世界的に大ヒットしたことで、徐々に市場での存在感を増していく。

 現在の主力「Eジェット」は、基本型となるE170(1クラス70-78席)の開発発表が1999年。2016年9月末の確定発注はシリーズ合計で1746機、オプション(仮発注)が615機、納入が1267機にのぼる。世界でもっとも売れているリージョナル機だ。国内でもJALグループで地方路線を担うジェイ・エアや、鈴与グループのフジドリームエアラインズ(FDA)が運航しており、リージョナル機のベストセラーになった。

 2018年には、MRJと同じ燃費の良い新型エンジンを搭載し、3つの機体サイズで構成する次世代機「E2」シリーズの納入が始まる。座席数は最初に引き渡しが始まるE190-E2は1クラス106席、2クラス97席で、続くE195-E2は1クラス132席、2クラス120席とやや大きく、最後に登場するE175-E2は1クラス88席、2クラス80席だ。

 MRJは飛行試験を現在実施しているMRJ90が2クラス88席、開発が進むMRJ70が同69席。MRJと座席数が近く、低燃費のエンジンを搭載するE2シリーズが最大のライバルと言える。

 前述の通り、旅客機は引き渡し後のサポートが重要だ。特にMRJのようなリージョナル機を運航する航空会社は、大手と比べて整備体制が整っていないことが多く、 ・・・続きを読む
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筆者

吉川忠行

吉川忠行(よしかわ・ただゆき) 航空経済紙「Aviation Wire」編集長

1972年東京生まれ。音楽制作ソフトの輸入代理店に勤務後、2004年ライブドア(現LINE)入社。同業初の独自取材部門「ニュースセンター」立ち上げに参画し、経済・政治・社会分野を取材。2007年に退職後は仏AFP通信社等で取材を続け、2012年に航空経済紙「Aviation Wire」創刊。タイの航空当局が抱える安全性問題などをスクープ。