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減反は廃止されるどころか強化されていた

アメリカから言われなくても、減反は廃止すべきである

山下一仁

  12月13日の日経新聞の社説は「コメの減反廃止を看板倒れにするな」とする社説を掲載した。2018年から減反を廃止する予定なのに、減反を強化する政策を実行しようとしているのはおかしいという主張である。減反廃止は私の長年の主張であり、異存はない。ここで問題にしたいのは、政府が減反を廃止するという、この社説の前提である。

減反廃止は誤報だった

 2013年、政府与党は減反(生産調整)を見直した。これは、政権に復帰した自民党の農林族議員と農林水産省が合意したものだった。ところが、ある新聞が、農林族議員や農林水産省に照会もしないで、これを減反廃止と一面で報道し、他の主要紙もこの報道に追随した。

 安倍総理や官邸は、自民党の農林族議員と農林水産省による、この政策決定にほとんどタッチしなかった。しかし、安倍総理は、これを減反廃止だと打ち上げた。40年間だれもできなかったことをしたのだと胸を張った。国会の施政方針演説だけでなく、スイスのダボス会議にも出かけた際も、これをアピールした。

 減反廃止という報道が行われた直後、私が農林水産省の担当課長に「今回の見直しは減反廃止ではないではないか。なぜ間違ったことを言うのか」と問い詰めると、彼は「私たちは減反廃止など一言も言っていない」と、迷惑そうに反論した。

 農協の機関紙である日本農業新聞が、この問題では、最も正確で冷静な報道をしていた。

 同紙は減反(生産調整)が必要だとする林農林水産大臣(当時)の国会答弁をアンダーラインして紹介していた。当時私は、日本記者クラブで講演した際、司会者の方から「不思議なことがあるものです。今回の減反見直しについてだけは、農林水産省、農協と山下さんが一致しているのです」という、奇妙な紹介を受けた。

 後に、安倍総理は、2014年2月の衆議院予算委員会で、野党議員から生産調整(減反)の必要性を強調する自民党農林幹部や農林水産省の発言と自己の発言の食い違いを指摘され、一般の人にわかりやすく発言しただけだとして、減反廃止発言を撤回した。これは、安倍総理が国民に間違った発言をしていたことを国会の場で認めたことになるので、大きく報道されるに違いないと思ったが、そうではなかった。

 こうして、行われもしない〝減反廃止〟が定着してしまった。つい最近も、私がテレビで減反を廃止すべきだと主張すると、キャスターの方から減反を廃止することは決まっているのではないですかという発言をいただいた。

〝農政トライアングル〟にとって最も重要な政策

収穫期を迎えた米拡大収穫期を迎えた米

 2013年、減反廃止報道が飛び交う中で、私は著名な経済学者や官僚OBの人から、「あの報道は本当なのですか? 戦後農政の中核である減反・高米価政策が、簡単になくなるとは、思えない。株式会社の農地取得ですら認めない農政が、減反の廃止を進んで提案するなんて信じられない」と質問された。

 私の答えはこうだ。

 「その通りです。マスコミ報道は、完全に間違っています。食管制度が廃止されたのは、ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉があったからです。減反や高米価政策の廃止という農政の大転換を行うには、相当な環境変化がなければなりません。そんなものは、今ありません。TPP(環太平洋経済連携協定)で米の関税は撤廃しないというのだから、減反を廃止して米価を下げる必要はありません。減反は廃止するどころか、強化されます。一連の報道は、減反の本質が何かを全く知らないために起こった誤報です」。私の説明に彼らはうなずいた。

 減反とは、農家に補助金を与えて、米の供給を減少させ、米価を高く維持する政策だ。これこそ、農協、農林族、農林水産省の〝農政トライアングル〟にとって最も重要な政策だ。

減反廃止は農協改革よりはるかに大きな改革だ

 高米価でコストの高い零細な兼業農家が、米農業に滞留した。これは農業票を維持しただけでなく、兼業所得の農協口座への預金で、農協を日本第2位のメガバンクに押し上げた。

 減反廃止とは、供給の増加による米価の低下である。これは、農協を改革するより、はるかに大きな改革となる。もし、自民党・政府が減反廃止を提案したのであれば、農協や農村はハチの巣を突いたような騒ぎとなり、東京の永田町や霞が関には、ムシロ旗が立っていただろう。しかし、農協も農家も、極めて平穏だった。なぜか? 自民党・政府の見直しが減反廃止ではないことは、彼らには十分すぎるほどわかっていたからだ。

減反見直しとは何だったのか

 では、2013年の減反見直しとは何だったのだろうか?

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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