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英国のファーストレディーは公人と私人が混在

暗黙の了解として政権や首相の政策を批判するような言動はしないことが求められる

小林恭子 在英ジャーナリスト

 日本では、学校法人「森友学園」の国有地格安払い下げ問題をめぐって国会での議論が続く。安倍首相の昭恵夫人が公人として学園施設を訪問したのかなどが問われている。首相夫人は果たして公人なのか、それとも私人なのか。英国の例を紹介したい。

英メディアの注目点とは

日の丸の旗の前に並ぶ塚本幼稚園の児童の姿(英エコノミストのウェブサイトより)拡大日の丸の旗の前に並ぶ塚本幼稚園の児童の姿(英エコノミストのウェブサイトより)

 森友学園問題については、2月末ごろから英国でも複数のメディアが継続的に報道している。

 焦点は大きく2つに絞られる。

 1つは森本学園が運営する塚本幼稚園の愛国的教育方針だ。もともと、安倍首相は平和憲法を改正しようとする〝タカ派〟として認識されており、塚本幼稚園の教育方針と安倍氏自身の思考に一定の共通点がある、という見方だ。

 ガーディアン紙(3月15日付)は学園の教育方針をこのように紹介している。児童は「皇室の写真の前でお辞儀をする」ことが必須とされるような「愛国主義を吹き込むカリキュラムが設定されている」。毎朝、国歌を歌い、「1890年に発布された教育勅語を覚えさせられている」。この教育勅語とは、戦後、「米進駐軍が戦前の軍国主義を扇動したとして禁じた内容である」。そして、安倍首相の昭恵夫人が2015年の動画の中で、園児の親に向けて夫は「ここの教育方針は素晴らしいと思っています」と述べた、と付け加える。

ガーディアン記事
Ultra-nationalist school linked to Japanese PM accused of hate speech
https://www.theguardian.com/world/2017/mar/15/ultra-nationalist-school-moritomo-gakuen-linked-to-japanese-pm-shinzo-abe-accused-of-hate-speech

 ニュース週刊誌「エコノミスト」(3月4日付記事)も塚本幼稚園の愛国主義的教育方針を紹介した後で、安倍首相が過去に森友学園の理事長に向け、教育に関して「素晴らしい情熱がある」と述べ、首相と同氏は「同じイデオロギー」を共有していると述べた、と「エコノミスト」は書いている。

エコノミスト
An ultranationalist kindergarten in Japan
http://www.economist.com/news/asia/21717996-embarrassingly-it-has-links-prime-minister-ultranationalist-kindergarten-japan

 もう1つの焦点は、この事件が安倍首相の進退問題につながるかどうか、だ。BBCニュース(14日付)は、あるオンライン世論調査では安倍首相の支持率が63.7%から36・1%に下落したと指摘する。

◆BBC
A scandal over schools, land and nationalism in Japan
http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-39252192

 経済紙フィナンシャル・タイムズは、安倍政権が崩壊した場合の予測を立てている。20日付の動画によると、もし安倍首相が森友学園問題で急に辞任した場合、「直後に株価が20%下がる」と予測する。アベノミクスを主導した安倍首相が政権トップの座から消えることで、経済の先行きにも暗雲が垂れ込めかねないという。

フィナンシャルタイムズの動画
Abe's kindergarten crisis
https://www.ft.com/content/f6f32c35-8011-39af-b737-f38a43cc579e

英国の「ファーストレディー」の身分は?

 すでに述べたように、安倍首相夫人の昭恵氏が公人として学園にかかわったのかどうかが日本では問われているが、英メディアではこの点に特化した報道は今のところない。ただし、安倍首相と夫人が並ぶ写真が頻繁に報道に使われている。

 英国での首相夫人の身分はどうなっているのか?

 政治のトップの座(大統領、首相など)の妻を「ファーストレディー」と呼ぶ習慣はもともとは米国で生まれたもので、英国ではこの呼称を使うことは本来はなかった。しかし、米国からの影響で近年はこの言葉を目にするようになった。

 英国の首相の配偶者(妻あるいは夫)は、原則私人である。したがって公務はなく、給与も支払われない。しかし、首相と共に官邸に住み、自分専用のスタッフを公費で雇用している。

 私人でありながらも、公務に近いお務めは少なくない。英国を国賓として訪れた人を出迎えたり、首相が出席する国内外の公的儀式に夫婦として出席する必要がある。海外で開催される会議、例えば先進国首脳会議がその一例だ。

 英国の場合、首相は与党の党首になるが、毎年開催される党大会では党首が締めのスピーチを行う。スピーチの後で、首相の配偶者が舞台に出て夫婦で喝采を浴びた後、出席者の拍手と軽快な音楽が流れるなか二人で会場を後にする。これが近年のパターンとなっている。

 公の席に夫と共に出席することが多いので、女性の配偶者のファッションは国民の大きな注目の的となる。こうした時に英国製デザイナーによる衣服を身にまとったかどうかも観察される。

 そのほか、買い物やジョギングなど外出時にスナップ写真を撮られ、メディアで報道されることも多いので、常に気が抜けない状態となる。

 暗黙の了解として、首相の良き伴侶であることが期待されており、何らかのスキャンダルにつながるような、あるいは政権あるいは首相の政策を批判するような言動は一切しないことが求められる。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

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