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人工知能は人間の仕事を奪うか?

汎用AIの出現で、多くの雇用が消滅する可能性

井上智洋 駒澤大学経済学部准教授

ホンダが家電・技術見本市「CES」で公開した人工知能(AI)を搭載する試作車=米ネバダ州ラスベガス
 人工知能(AI)はこれから多くの失業をもたらしていくだろう。だが、「AIは人間の仕事を奪わない」という盲目的な楽観論がいまだに根強く残っている。一体何を見過ごして盲目的になっているのかというと、一つには、AIに限らず新しい技術が絶えず人間の仕事を奪ってきたという歴史的事実である。

イノベーションは仕事を奪ってきた

 1800年頃の産業革命期には、「織機」(しょっき・布を織る機械)が、「手織り工」(手で布を織る職人)の仕事を奪っている。19世紀末に登場した自動車は、ほどなくして馬車を操る「御者」(ぎょしゃ)という職業を駆逐していった。

 「コンピュータ」という言葉は元々、職業として計算を行う人を意味していた。日本語では「計算手」と言われるこの職業は、機械のコンピュータが普及することで消滅した。

 2020年の日本で確実に無くなる職業もある。それは、メータを見て電力使用量をチェックする「検針員」という職業だ。2020年に「スマートメータ」が日本の全家庭に普及し、自動的に電力使用量を電力会社に送信するようになるからである。

 AIはどうかというと、アメリカでは既に弁護士助手やコールセンター係、証券トレーダーなどの雇用を減らしている。日本ではAIを含めたITの導入が遅れているのでアメリカほど顕著ではないが、今後は同様のことが起きるだろう。

ITの発達がトランプ大統領を誕生させた

 AIを含む情報技術(IT)が、そもそも雇用破壊的だという点も度々看過されてきた。ITは、多くの場合既存の商品やサービス、仕事を代替する。フェイスブックなどのSNSは既存のサービスとの代替性は低いものの、ショッピングサイトは実店舗の、旅行サイトは旅行代理店の、経理システムは経理係のあからさまな代替物である。

 スマートフォンはその観点から言うと最悪であり、電話だけでなく、カメラや音楽プレイヤー、パソコン、アドレス帳、地図帳など数多くの商品を代替している。

 他方でITは、システムエンジニアやWebデザイナーからユーチューバーに至るまで多くの職業を生み出してきた。しかしながら、経理システムを構築するエンジニアの人員の方が、削減される経理係の人員よりも少ないからこそ、私達はこうしたシステムを導入するのではないだろうか?

 つまりITは、本質的に雇用を増やす以上に減らしてしまうのである。それゆえ、ITに仕事を奪われた人の多くは、グーグル社やフェイスブック社などのIT企業ではなく、清掃員や介護スタッフのような昔ながらの職業に「労働移動」(他の業種へ転職)するのである。

 アメリカでは近年、そのような労働移動が中間所得層の低賃金化を招いている。それは統計にも現れており、2000年以降アメリカ経済は年率平均2%ほどで成長しているにもかかわらず、所得の中間値は横ばいないし下降気味である。

 こうして起こった中間所得層の崩壊が、トランプ大統領誕生の背景にあるとも考えられる。トランプ大統領とその支持者は移民を敵視しているが、経済学的な分析では、移民がマクロ的に失業率を上昇させるという結果は得られていない。

 すなわち、彼らの真の敵は移民ではなく、ITでありAIである。しかし、労働移動することで職にありつけるだけ、今はまだマシな状態だとも言える。未来にはそれすらかなわぬ夢となるかもしれない。

汎用AIは人間それ自体を代替する

 人間の知性は汎用的であり、潜在的にはいかなる作業もこなし得る。したがって、新しい機械に職を追われたとしても、労働移動することで他の職にありつける。

 「織機」と「手織工」が代替的であっても、「織機」と「人間」が代替的なわけではない。実際、

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