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深刻な人手不足の宅配業界、省人化が急務

消費者は「利便性はタダではない」ことの認識を

土堤内昭雄 公益社団法人 日本フィランソロピー協会シニアフェロー

 

ヤマト運輸のチーム集配=東京都八王子市

拡大するネット通販

 近年、われわれの暮らしにおけるネット通販の利用が急拡大している。日本通信販売協会によると、2015年度の通販売上高は前年度比5.9%増の6兆5100億円にのぼり、全国の百貨店売上高6兆1453億円を上回った。その結果、同年度の宅配便取扱個数は前年度比3.6%増の37億4493万個となり、トラック運送が全体の98.9%を占めている。

 私が最もよく利用するネット通販は書籍の購入だ。その理由は3つある。ひとつはかなり専門的な本でも在庫があること。2つ目は発注すると翌日には手に入ること。3つ目は価格にかかわらず配送料無料であること。その上、購入履歴が残り、年間の書籍代を把握でき、ポイントをためたり使ったりすることもできる。

 このように便利なネット通販の拡大は、高齢化の進展や共働き世帯の増加などを背景にした消費者行動やライフスタイルの変化によるものだ。そのネット通販を支えているのが、高度に発達した全国の物流網だ。東京圏では圏央道や湾岸エリアに超大型の物流センターが次々と建設され、即日配送に向けた物流拠点の整備が進んでいる。

 また、商品の発注手段が拡充され、商品はパソコンのほかタブレット、スマホなどを使って24時間どこからでも注文できる。これらモバイル端末が高齢者にも普及したため通販利用者の年代が大幅に広がっている。ネット通販のホームページも充実し、利用者の声を掲載することなどで、ネット取引の安心感や信頼性も増している。

 商品の受け取り方法も変化している。最近建設される多くのマンションなどでは宅配ボックスを備えていたり、近所のコンビニや駅にも宅配用ロッカーが設置されていたり、荷物を受け取る手段が多様化している。また、きめ細かい配送時間帯の指定により、自宅に不在がちの人も都合の良いときに商品を入手することができるようになった。

長時間労働と人手不足

 急拡大する宅配便だが、ここへ来て大きな危機を迎えている。増加する一方の取り扱い貨物数に対して、トラックドライバーや配達員などの人手不足が深刻になっているのだ。業界最大手のヤマト運輸では、人手不足を解消するために荷受総量の抑制や配達時間の見直し、従業員の長時間労働の改善など、現行事業の抜本的な改革を迫られている。

 2017年ヤマト運輸の春季労使交渉では、通販大手のアマゾン・ドット・コムの当日配送サービスから徐々に撤退する、「正午から午後2時」の時間帯指定サービスを廃止する、再配達受付の締め切り時刻を午後8時から7時に繰り上げる、退社と出社の時間間隔を10時間以上とする「インターバル制度」を10月から導入する、などを決定した。

 オフィス街や住宅街など、街のあちこちで宅配便のトラックを見かけない日はない。エンドユーザーに荷物を届ける膨大な数のトラックが市街地を走り、たくさんの配達員がカートを押しながら駆け回っている。それに拍車をかけているのが、近年では2割を超えている再配達への対応で、年間に約9万人の労働力が余分に費やされているという。

 マンションなど集合住宅が多くなった現在、

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