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「軍事力より外交力、人材育成で協力を」

南スーダンからの日本に向けたメッセージを肝に銘じておきたい

竹内幸史 ジャーナリスト

 平和維持活動(PKO)に派遣されている陸上自衛隊の撤収が決まった南スーダン。この国の人々は、日本の関与についてどう受け止めているのだろうか。

 日本では、多くの人が南スーダンに抱くイメージは「自衛隊が派遣されているアフリカの紛争国」という程度だが、対照的に、彼らが日本に抱くイメージは「政治、経済、技術ともに巨大な力を持つ平和主義の大国」である。

 しかも、彼らの日本への期待は、必ずしも軍事力ではない。外交力を使って平和構築に向けた対話を促し、長期的な人材育成など民生分野での協力を進めることである。

母国の家族を案じる青年たち

来日した南スーダンの研修生たち=2016年9月7日、東京都内で開かれた歓迎式典で、竹内撮影拡大来日した南スーダンの研修生たち=2016年9月7日、東京都内で開かれた歓迎式典で、竹内撮影

 3月下旬、東京・蒲田で開かれたセミナーの会議場に300人以上のアフリカの青年たちが集まっていた。日本政府が3年前に始めた「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)」という奨学金制度で、日本の大学院に留学している研修生たちだ。

 その中に南スーダンから来た11人がいた。首都ジュバなどで働く政府の官僚、大学教員、電力公社の職員、IT技術者、建築士など30歳前後の青年たちである。

 このうち1人は、2016年7月に首都で起きた戦闘で8歳年長の姉が巻き添えになり、亡くなった。他の2人は隣国ウガンダに一時避難した。留学が内定していた11人全員が何とか8月末に来日したが、それ以来、みんな母国には帰っていない。ニュースを聞いては家族を案じ、SKYPEなどで連絡を取って来た。母国の混乱が続けば、帰国後に元の仕事に戻れるのか、職場事情も気が気でない。

 セミナーの休憩時に集合した彼らの一番の話題も、母国の情勢だった。そして、国連の関与や日本の自衛隊の撤収にも話が及んだ。主な意見だけ匿名で紹介するが、興味深いのは、自衛隊の撤収を当然のように受け止めていたことだ。

歴史上で「最も危険なPKO」

 ジュバで活動する自衛隊の印象について、彼らが口をそろえるのは「施設部隊の道路補修や水路建設などインフラ整備の質が高い」ということだ。その一方、「現地政府を通じて実施する他の援助は、汚職が起きやすいが、自衛隊が直接実施するインフラ整備なら、汚職が起きる心配がない」という評価もあった。だが、その自衛隊の撤収について、残念がる声は少なかった。

 研修生Aさんは言う。

 「日本が南スーダンに自衛隊を派遣したのは、国際社会への軍事的な貢献を内外に示す政治的な計算もあっただろう。だが、日本にとってアフリカは遠く、経験も足りない。今起きている政府—反政府の対立は二つの部族だけの争いではない。南スーダンには60もの部族がいて、その全てがミリツィア(民兵組織)を有し、複雑に絡んでいる。日本には隊員の安全を尊重する国民世論が強くあるから、撤収は仕方のない判断だった」

 現在の紛争は、キール大統領の出身母体である最大勢力のディンカ族と、二番目に多いヌエル族の争いが中心にある。彼らは、古くから牛など家畜の奪い合いをして対立してきた歴史があるが、現在は武装した軍閥の利権争いにも似た構図になっている。

 Bさんは、PKOを指令する国連南スーダン派遣団(UNMISS)の問題を指摘した。

 「UNMISS のPKOは開始から6年になるが、軍事的な効果はさっぱりだ。多くの犠牲者を出したルワンダ内戦以降、PKOは住民を守ることが重要任務になってきたのに、UNMISSは国連基地内に逃げ込んだ住民を守ることができなかった。国連はPKOの再構築だけでなく、外交に重点を移し、南スーダン政府と反政府勢力が対話を深めるよう、圧力をかけるべきだ」

 昨年7月に起きた政府−反政府勢力の戦闘の際には、UNMISSの中国部隊に2人の死者が出た。国連はこの戦闘時のUNMISSの対応が不十分だったとしてケニアの司令官を更迭したが、ケニアはこれを「スケープゴートだ」と批判し、自国部隊を引き揚げてしまった。

 国連はUNMISSの兵力を3割増強し、1万7000人体制に拡充しているものの、その後も戦闘や民間人への暴行を制圧しきれずにいる。しかも、UNMISSの犠牲者は2011年の発足から2016年末までで計48人となり、南スーダンの任務は「PKOの歴史で最も危険」と言われている。

撤収の理由は「一定の区切り」

 安倍政権は結局、5月末で自衛隊を撤収する方針を決めた。その理由として、派遣開始から5年を越え、自衛隊の道路整備などの活動に一定の区切りがつき、政府と反政府勢力の間に対話の進展がある−−ことを挙げている。だが、現状がどの程度、危険と判断しているのか、十分な説明責任を果たしていない。

 また、紛争当事者の対話もまだおぼつかない現状だ。すったもんだの安保法制論議の末に自衛隊の駆けつけ警護に任務拡大までした割に、まったく中途半端な「出口戦略」になった。

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筆者

竹内幸史

竹内幸史(たけうち・ゆきふみ) ジャーナリスト

慶大卒業後、朝日新聞社に入り、ニューデリー、バンコク特派員、編集委員などを務め、2011年に退社。米ライシャワー東アジア研究所客員研究員、東京財団アソシエイトを務めた後、2014年から国際協力専門誌の月刊誌『国際開発ジャーナル』編集委員。主な専門分野は開発問題と国際協力、南アジア・東南アジア地域研究。岐阜女子大学南アジア研究センター客員教授、拓殖大学大学院国際協力学研究科講師、立教大学アジア地域研究所特任研究員を兼務。共著書に『脱原発の比較政治学』(法政大学出版局)など。

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