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[10] 欺瞞の地方公務員法・地方自治法改正

格差是正につながらず、国・地方自治体は使用者としての責務を果たせ

上林陽治

 私は非正規公務員、ある自治体で働く臨時職員です。

 任期1年の有期雇用ですが、毎年更新して今年4月で5年目に入りました。しかし、勤めている自治体からは来年3月で辞めていただくといわれています。理由ははっきりしませんが、「そのようになっている」ということだそうです。

 1年任期といっても、丸々1年ではなく、期間は4月1日から翌年の3月30日までで、3月31日の1日だけ採用されていません。普段は健康保険加入なのですが、3月だけは国民健康保険に加入しています。先日、コンビニで保険料を支払いました。

 給料は、ここ数年で結構上がって今は時給850円になりましたが、昨年の源泉徴収票を見ると、年収170万円ほどでした。ボーナスはありませんし、通勤費もでません。フルタイム勤務で週5日働いていますし、子どももいますから、他の仕事を掛け持ちするわけにもいかず、勤務する自治体から頂く給料と児童扶養手当がすべての収入です。

1. 進展する官製ワーキングプア~とまらない非正規化、拡大する格差

(1) 非正規公務員は64万人、11年間で4割増

 総務省は、2017年3月31日、「地方公務員の臨時・非常勤職員に関する実態調査結果(2016.4.1現在)」を発表した。上記の臨時職員は、この調査結果から得られる平均的な非正規公務員像である。

 この調査で明らかになったことは、①全国の非正規公務員は64万3131人で、このうちフルタイム勤務の臨時職員が15万2670人で、4分の1以上を占める②非正規公務員の4人中3人にあたる48万1596人は女性である③継続雇用年数(期間更新回数)が一定数に達していることのみを捉えて、一律に応募制限を設ける自治体が1割ある④任期の更新にあたり、雇用されていない期間(空白期間)を置く自治体は、臨時職員の場合、約半数である⑤臨時職員の報酬水準は時給換算で845円。1日8時間、月20日、12カ月を休みなく働いても、年収で162万円にしかならない 。

 図表1をご覧いただきたい。総務省では、2000年代に入って臨時・非常勤職員調査を4回実施している。1回目の調査は2005年で、臨時・非常勤職員の数が全国で45万人であることが明らかになった。3年後の2008年に2回目の臨時・非常勤職員の調査を実施し、臨時・非常勤職員数50万人という数字を出している。3年間で5万人増、1割増えたという結果であった。2012年には3回目の調査が行われ、臨時・非常勤職員の数は60万人となり、2005年からの7年間で15万人、3割以上も増加した。そして、このほど公表された2016年調査では64万人で、2005年比で19万人、4割以上も増加したことになる。

 職種別にみると、最も人数が多いのは一般事務職員で16万人、次が消費生活相談員や女性相談員などの各種の相談員で構成される「その他」に分類される非正規公務員で、12万人、保育士も10万人である。2005年からの11年間で最も人数が増えたのは教員・講師で、倍増している。

 2005年から2016年にかけて、正規公務員は304万人から274万人へと30万人減少している。特に一般行政部門で14万人、教育部門12万人、合わせて26万人が同期間で削減された。このふたつの部門は、非正規公務員の大半が属するもので、同期間で19万人増加した非正規公務員が正規公務員の減少分を代替してきたとみなすことができる。

 代替とは、置き換わることである。したがって、どの職種をとっても非正規公務員が占める割合(=非正規率)が高まっている(図表2参照)。

 2016年4月1日現在でみると、公立図書館に勤務する図書館員の65.3%は非正規公務員である。ここには民間事業者が運営している指定管理者館は含まれず、いわゆる直営館の状況であり、パートの図書館員が大半を占める指定管理者館を含めると、非正規率は7割を超える。さらに給食調理員の60.4%も非正規であり、人手不足が著しい保育士等も、その半数以上が非正規公務員である。

 全体合計で見ると、非正規率は約2割、5人に1人と見られるが、これは「過少算定」といえる。なぜなら総務省調査は、調査時点を2016年4月1日現在とし、その時点で在籍している者しか把握しておらず、調査対象は任用期間が6月以上または6月以上見込み、かつ、1週間当たりの勤務時間が19時間25分以上のものという要件を付しており、調査対象から漏れる臨時・非常勤職員が少なからずいるからである。

 たとえば臨時職員の1回の任用期間が2カ月の東京都や4カ月の佐賀県は、臨時職員の人数がカウントされていない。また、4月1日を雇用しない期間(いわゆる空白期間)として運用している自治体では、たとえば臨時教員のように1回の任期を6カ月で運用していても、在職していないことになる。臨時教員の任期のうち春休み期間を空白期間としている東京都は、今回の総務省調査でも、臨時教員を含む臨時職員は「0人」だと報告しているのである。

 非正規率は、自治体階層別でも異なり、非正規公務員の約7割にあたる43万288人が勤務する市区町村の非正規化率は3割以上に及ぶ。つまり、「過少算定」の総務省調査でも、最も住民に身近な基礎自治体といわれる市区町村の職員の3人に1人は、非正規公務員なのである(図表3-1参照)。

 東京都の市部並びに23区の状況をみると、東大和市、国立市、東久留米市、清瀬市、葛飾区で、「過少算定」の総務省調査の数字を使っても、非正規率は4割を超えて5割に迫ろうとしている。実人員では、おそらく、半数を超えていると考えられる。

 

⑵ 広がる格差、官製ワーキングプアの進展

 逼迫する地方財政と小さな政府への指向性の下で、正規公務員の定数削減が推進され、非正規公務員へと置き換えられていった。

 置き換えが進むのには、それなりの理由がある。最大の理由はやはり賃金の相対的低さだろう。

 2016年の総務省調査結果では、一般事務職員、教員・講師、保育所保育士の報酬額を採用種類別に紹介している。図表4の「職種別正規・非正規年収格差(2016.4.1現在)」は、これら職種の非正規公務員の平均時間単価に、1日8時間、月20日、年間12月をフルに働くものとして単純に乗じて年収換算額を求め、正規公務員で相当する職種の年収換算額と対比させたものである。

 一般事務職員で見ると、特別職非常勤が年収207万円、一般職非常勤が176万円、臨時職員が162万円である。これに対し、正規公務員の年収は663万円程度。つまり、非正規公務員の一般事務職員は、休みなくフルに働いたとしても、その年収は正規公務員の4分の1から3分の1程度なのである。

 他の職種でも、同様の傾向がみられる。小中学校に勤務する非常勤講師は、正規教員の4~5割水準で、臨時教員は3分の1程度となる。働き手不足が露呈している保育士では、非正規保育士の年収はいずれも200万円前後。一方の正規保育士は、正規公務員の中では相対的に低い賃金水準だが、それでも560万円程度である。非正規保育士の賃金水準は正規保育士のそれの3分の1から4割の水準なのである。

 臨時教員や臨時保育士のなかには、クラス担任を務める者もいる。とりわけ公立保育所に勤務する保育士の半数以上は非正規で、その年収は200万円前後で、正規保育士と同様の勤務につく。

2.格差是正につながらない欺瞞の法改正

 ところで政府・総務省は、2017年3月7日、地方公務員法と地方自治法の改正案を閣議決定した。今次通常国会での成立を目指し、3年後の2020年4月1日に施行する。

 法改正の目的は、地方自治体で働く非正規公務員の採用根拠を明確にし、勤務条件を確保するために期末手当(賞与)を支払えるようにすると喧伝されている。また、3月28日に政府の働き方改革実現会議が決定した「働き方改革実行計画/同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備」のなかでも、「(地方公務員の)非常勤職員制度を整備し、任用・服務の適正化と期末手当を支給可能とすることを一体的に進めるため所要の法改正を図」り、「各地方公共団体における適正な任用・勤務条件の確保を推進する」という文言を挿入した。

 地方公務員法改正案のポイントは、同じ事務職員でも「臨時職員」「特別職非常勤職員」「一般職非常勤職員」というように自治体ごとにばらばらで、制度の趣旨に合わない不適正な採用実態であったものを、「会計年度任用職員」という採用類型を新設し、これに統一するといものである。そして地方自治法改正案では、会計年度任用職員に期末手当を支払えるとした。

 今回の法改正の契機は、安倍政権が「働き方改革」の重要な柱として「同一労働同一賃金原則」に基づき正規・非正規間の格差を是正するとし、これを国・地方の公務員でも実行することが求められたからである。

 だが、政府・総務省が用意した今回の地方公務員・地方自治法改正案は、「同一労働同一賃金」原則から大きく逸脱した、政府方針に反したものとなってしまっている。したがって、この法改正で住民に最も身近な市区町村で働く職員の3人に1人、総務省調査で64万人にまでに至った非正規公務員の処遇が改善すると考えるのは早計である。

 それは、今回の法改正が欺瞞だからである。

(1) 判例法理から逸脱する常勤・非常勤の区分

 今回の法改正では、地方公務員法に22条の2を新設し、フルタイムとパートの2種類の会計年度任用職員を位置づけるとしている。問題は、フルタイムとパートで処遇に関する規定が異なる点である。「1週間あたりの通常の勤務時間に比し短い時間であるもの」=パートタイム会計年度任用職員には、地方自治法で、従前通りの生活保障的な要素を含まない報酬と費用弁償に加えて期末手当を支払うとしたのに対し、「一週間当たりの通常の勤務時間と同一の時間であるもの」=フルタイム会計年度任用職員には、これも従前通り、地方自治法で、生活給としての給料と、扶養手当や退職手当等の手当を支払うとしている。

 しかし、パートとフルタイムで処遇を違えるという考え方は、法改正に先立ち総務省に設置されていた有識者研究会が昨年12月にまとめた報告にはなく、「常勤職員と同様に給料及び手当の支給対象とするよう給付体系を見直すことについて、立法的な対応を検討すべき」とのみ記されていた(図表6参照)。この報告書を受けて今年1月に与党や地方団体等の協議に付された地方自治法等改正案原案でも、「会計年度任用職員など労働者性が高い一般職の非常勤職員について、常勤職員と同じく、給料・手当の支給対象とする」としていた(図表7参照)。

フルタイムとパートで処遇を違える

 ところが国会に上程された成案は、原案を大きく変更して、フルタイムには給料と期末・勤勉手当を含む諸手当を支払い、パートには報酬と費用弁償を支払い、期末手当を支払うことができるとしたのである。

 すなわち、勤務時間を唯一の要件として処遇を違えたのである。

 会計年度任用職員という有期雇用職員のなかに、フルタイムとパートという概念を持ち込み、処遇を違えるという取り扱いは、この間の裁判例からも逸脱したものである。

 たとえば、枚方市非常勤職員一時金等支給事件(大阪高判平22・9・17)では、「常勤職員の週勤務時間[38時間45分]の4分の3に相当する時間以上」勤務している非常勤職員について、これを「常勤の職員」と判定し、給料と手当が支給される対象とした。また、東村山市事件(東京高判平20・7・30)では、「東村山市の嘱託職員は勤務時間のみならずその職務内容も常勤職員と同様であり、勤務実態からみて常勤職員に該当する」とし、常勤職員と同じ仕事をしていれば「常勤の職員」と判定している。

 さらに総務省自身が、国会で、東村山市事件を取り上げ、「非常勤の職員と常勤の職員の区別に当たって、勤務の内容、態様あるいはその役割、また待遇等の取扱いなどの諸事情を総合的に考慮して常勤の職員に該当するかどうかということを認めることが相当であると、このような趣旨の判示がなされているところでございます」と答弁している(2012年8月28日、参議院総務委員会、政府参考人(三輪和夫総務省公務員部長<当時>発言)。

 成案では、判例上、「常勤の職員」と認められてきたパートの非正規公務員から、将来においても退職手当をはじめとするさまざまな手当が支給される権利を奪うことになる。

 なぜ、成案は、報告書や原案から逸脱していったのか。

 第1に、地方団体から、「手当支給による財政負担の増加が見込まれる中、議会等の理解が得られるためには、国レベルで支給されている手当に限定すべき」という意見が寄せられたからである。第2に、パートの会計年度任用職員に支給される賃金を、給料と手当ではなく報酬と費用弁償のままとしたのは、これまで通り非正規公務員への賃金を、人件費ではなく消耗品代である物件費に計上し、給与関係経費を見かけ上、低く見せるためである。

 すなわち正規公務員と同様に、住民福祉の向上のための公共サービスを担う労働者性ある非正規公務員の処遇を改善する必要性は顧みられることなく、これまで非正規公務員をワーキングプアの賃金水準で使ってきた地方自治体の使用者の意向を優先し、人件費を見かけ上も抑制するという、他事事項を考慮したものだったのである。

(2)格差是正につながらない法改正

 今回の法改正は、政府方針としての「同一労働同一賃金原則」に基づき、正規・非正規間の格差を是正するとされてきたことを契機とする。昨年末の厚生労働省及び内閣官房の「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」中間報告(2016年12月16日)では、ガイドライン案に基づき民間事業者が具体的に取り組むにあたっては、「比較的決まり方が明確であり、職務内容や人材確保の仕組みとは直接関連しない手当に関しては、比較的早期の見直しが有効かつ可能と考えられる」とされ、手当の見直しに優先的に取り組むべきことを指摘されている。

 しかしながら国会に上程された地方公務員法・地方自治法改正案は、政府方針の一環をなす上記ガイドラインからも逸脱している。なぜなら、勤務時間が短いという要件のみに基づいて、期末手当以外の諸手当を支払えないものとしたからである。

 民間労働者の正規・非正規間格差は、非正規の賃金水準は正規の6割程度と言われる。これに対し、地方公務員の正規・非正規間格差は、先に記したように、一般事務職員の場合、正規公務員の4分の1の水準に過ぎない。このような絶望的な格差は、期末手当の支給を3年後に認めるというだけでは是正できない。

(3)事業主たる地方自治体に処遇改善の義務付けなし

 最大の問題は、事業主たる地方自治体に、非正規公務員の処遇改善を義務付けていない点である。

 民間労働者に関しては、「同一労働同一賃金」の実現に向け、正規と非正規の労働者間に待遇差を設ける場合、企業の説明義務を法律で明記する方針を政府は固め、3月8日に開催された有識者検討会において、労働契約法、パート労働法、労働基準法の改正に向けた論点整理案を示し、3月28日に開催された第10回働き方改革実現会議で決定した。

 一方、非正規公務員には、これら非正規労働者の処遇改善法制が非適用であるために、事業主たる地方自治体の使用者は、非正規公務員を何年使用しようが無期雇用に転換することも、雇用期間を長くすることも義務付けられず、恒常的な業務に従事させているにもかかわらず、必要以上に短い期間を定めて非正規公務員を採用し、その有期雇用を反復更新し、いざとなったら解雇に類すべき雇止めを行うという、およそ民間労働者に適用される法環境では許されない行為を「適法」に執行してきた。

 そして、パート労働法が非適用なため、絶望的な格差を埋める義務も免れてきた。さらに、民間の事業主に今後課される待遇差の説明義務さえ免れ、非正規公務員をワーキングプア水準の賃金で働かせることについての異議は、「問答無用」とばかりに受け付けられない。

 現行の非正規公務員の勤務条件の改善のための法環境は、民間に比べて、2周回も遅れている(1周遅れは非正規国家公務員)。もしかしたらスタートラインにも立てていない。

3 欺瞞を生んだ絶望的な格差

 無期雇用の正規公務員と同一の職務に就いていたとしても、会計年度職員のような有期職員が就く仕事は「非常勤の職」「臨時の職」だとして、その処遇に格差があることを許容し、あるいは、常勤か非常勤かという勤務時間の長短だけに依拠して、支払う給与の種類を違えることは、明らかに「同一労働同一賃金の原則」に反する取り扱いだ。これでは、地方公務員の正規・非正規格差は解消しないどころか、固定化しかねない。

 なぜ、こんなことになってしまったのか。筆者は、地方公務員における絶望的なまでに拡大した格差状況が、日本社会全体の格差解消への取り組みの足を引っ張りかねず、したがって、地方公務員における格差状況の「隠蔽」が行われ、問題解決に向けた処方箋作りが、途中で諦められてしまった結果だと見ている。

 2016年9月27日に発足した「働き方改革実現会議」の第1回会合で、日本経団連の榊原会長は、「働き方改革は官民共通の課題でして、議論の対象を公務員まで広げることを提案したいと思います」と発言した。この発言の意図するところは明確ではないが、同年7月にすでに発足していた総務省の有識者会議に激震が走ったことだけは確かだった。この発言がきっかけになって、総務省の研究会は開店休業になり、1カ月半後の12月5日にようやく再開したからである。

 再開されたときに総務省有識者会議の委員から、「なんで予定を変更して、研究会を開催しなかったのか」と問われ、総務省研究会の事務局である公務員課は「働き方改革室からは地方公務員の検討状況は周回遅れで、民間と比べてもレベルが低過ぎるとの指摘を受けています」と発言している 。

 地方公務員における正規・非正規格差は、「同一労働同一賃金」政策実現の道筋の障害物になっている。だから格差状況は隠蔽され、官製ワーキングプアが放置されてきた。また、国・地方自治体の使用者は、民間事業者であれば当然の雇用上の改善義務も免れている。それは、公務員の勤務関係の法的性質は民間の労働法制とは別体系の公法上のものであり、雇う者と雇われる者との関係は労使対等の雇用契約ではなく、使用者の意思が優先する任用行為によるものと考えられているからである。だから、国・地方自治体の使用者は、非正規公務員を長期にわたって雇用しても無期転換させる義務はなく、勤務条件を改善すべき責任も生じない。

 今日、正規公務員の賃金水準の4分の1から3分の1というワーキングプアレベルの非正規公務員が、地方自治体で働く職員の3人に1人という状況までに悪化した。少なくとも、労働契約法やパート労働法に準じ、非正規公務員の使用者たる責務を果たさせることが、国・地方自治体に求められている。


筆者

上林陽治

上林陽治(かんばやし・ようじ) 地方自治総合研究所研究員

1960年、東京都生まれ。1985年、國學院大學大学院経済学研究科博士課程前期修了、2007年より現職。主要著書に『非正規公務員』(日本評論社、2012年8月)、『非正規公務員という問題』(岩波ブックレット、2013年5月)、『非正規公務員の現在』(日本評論社、2015年11月)など。共著に『自立と依存』(公人社、2015年5月)。

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