「情報製造小売業」への転換を目指すファーストリテイリング
2017年05月09日
ファーストリテイリングが、新たな挑戦を開始した。
国内アパレル市場は、少子高齢化や人口減少によって頭打ちだ。また、インターネットの普及にともなって、消費者の服との向き合い方は大きく変わった。スマートフォンで手軽に購入できるアパレルECサイトや、個人間取引のフリーマーケットアプリ、定額借り放題を謳(うた)うファッションレンタルなどの台頭も著しい。
そうしたなかで、成長を続けているのが、スペインのインディテックスが展開する「ZARA」と、スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツが展開する「H&M」である。ファストリ傘下の「ユニクロ」と同じ、SPA(製造小売業)と呼ばれる業態ながら、ファストリの売上高約1兆8000億円に対して両社は売上高が2兆円を超える。よく知られているように、SPAは、素材調達、企画、開発、製造、物流、販売、在庫管理にいたるまで、あらゆる工程を自社で管理する。中間コストを圧縮して販売価格を抑えられるほか、消費者の声を拾って商品に反映させやすいといったメリットがある。
「ユニクロ」もまた、SPAで成長拡大してきたにもかかわらず、なぜ両社との差が縮まらないのか。
柳井氏は、つねづね「世界一のアパレルSPA」を目ざすと語ってきたが、「世界一」どころか両社との業績の差は広がるばかりだ。
そこで、柳井氏が打ち出したのが、これまでの「製造小売業」から「情報製造小売業」への転換である。
「服は情報である」とは、柳井氏のかねてからの持論である。柳井氏は、グローバル化とデジタル化が進むなかで、「すべての産業は、情報を商品化する新しい業態に変わる」とする。したがって、「製造小売業」は、「情報製造小売業」へと変化しなければならない。
「変化を受ける側になると滅びる。世の中に変わらされる前に、自らが変わる。周囲を変える原動力になる。新しいテクノロジーを駆使し、組織そのものを大胆に変革していく。情報製造小売業とは、そのようなものだと思います」
と、柳井氏はいう。
ファストリは、今年2月、東京・江東区有明に、オフィス兼物流拠点の「ユニクロ・シティ・トウキョウ」を構えた。昨年4月に竣工した1フロア1万6500平方メートル、6階建ての巨大物流倉庫「有明物流センター」の最上階だ。「製造小売業」から「情報製造小売業」への改革と実践の場である「有明プロジェクト」の拠点である。
仕切りのないワーキングスペースのほか、カフェスペースや図書室、多機能スペースなどが設けられ、商品企画やマーケティング、生産など、ほぼすべての部署が集約されて、約1000人がシームレスに勤務する体制が整えられている。コミュニケーションをスムーズにし、意思決定をスピード化するためだ。
「企画から販売までの全プロセスを同時進行させ、社員一人ひとりの働き方、工場や生産そのもののビジネス構造も変革していきます」
と、柳井氏はファストリ公式Webサイトのトップメッセージで語っている。
従来、ユニクロは、商品の企画、開発、生産、販促などをリレーのように順番に進め、商品サイクルはおよそ半年ほどだった。シーズン前に生産を終える体制である。「大量生産・大量消費」時代であれば、それでよかった。ところが、
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