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少子社会の処方箋

子どもを社会全体で支えることが必要だ

土堤内昭雄 公益社団法人 日本フィランソロピー協会シニアフェロー

世界一の少子化国「日本」

こどもの日のイベントで長い坂を駆け上がる小学生たち=5月5日、長崎市
 今年も「こどもの日」にちなんで、総務省統計局が統計トピックス『我が国のこどもの数』を公表した。2017年4月1日現在の子どもの数(15歳未満人口)は1,571万人、1982年から36年連続の減少だ。都道府県別では東京都の子ども数だけが前年に比べて増加した。男女別では男子805万人、女子767万人。子どもの人口性比(女性100人に対する男性数)は105.0と、社会全体の高齢化が進むなかで、総人口の人口性比94.8とは対照的だ。

 2017年の子どもの割合は12.4%、1975年から43年連続の低下だ。1997年に子どもの割合が65歳以上の老年人口割合を初めて下回り、2017年には高齢化率の半分を大きく割り込んでいる。都道府県別の子どもの割合は、沖縄県が17.2%と最も高く、秋田県が10.3%と最も低い。東京都は11.3%と全国平均を下回る。国別の子どもの割合をみると、日本は最も低い水準で、世界一の高齢化国であると同時に世界一の少子化国なのである。

子どもを忌避する社会構造

 現代社会の少子化の主な要因は、婚姻率の低下と夫婦一組当たりの出生数の減少だと言われる。背景には非正規雇用の増加や仕事と子育ての両立の難しさなどの社会経済的要因もあるが、少子化が進むさらに「根深い」理由は、現代の子どもを忌避する社会構造にあるのではないだろうか。

 お茶の水女子大学名誉教授の本田和子さんは、『子どもが忌避される時代~なぜ子どもは生まれにくくなったのか』(新曜社、2007年)のなかで、『日本では「家制度」の崩壊とともに「子どもを産み育てる」営みが、成人になるための基礎条件から計画と選択の可能な私的行為になり、子どもを持つことが費用対効果で評価され、非効率な子育てを忌避することも当然になった』と述べている。

 本格的な人口減少時代を迎えた今日、国をはじめとして多くの地方自治体が人口減少への危機感を露わにしている。しかし、少子化を食い止めるために、社会全体で出産や子育てを支援しようという雰囲気があまり感じられないのは何故か。夏休み恒例のラジオ体操なども、早朝の子どもたちの歓声が騒音とみなされ、存続が危ぶまれる地域もある。

 通勤電車などに小さな子ども連れの人が乗車してくると、車内には迷惑そうな気配が漂う。まちや建物のバリアフリー化が進み、小さな子ども連れにとっても外出しやすい物理的環境は整いつつあるが、駅のエレベーターなどもベビーカー利用者がいつも優先的に使えるとは限らない。

 厚生労働省の「21世紀成年者縦断調査」(平成27年7月)によると、独身者が子どもを希望しない割合は、過去10年間に男性は8.6%から15.8%に、女性は7.2%から11.6%に上昇している。意識のバリアフリー化があまり進んでいない状況下では、若者たちが子どもを産み育てようと思わないのも当然かもしれない。

 「子どもを産み育てる営み」が大きなリスクをはらむ今日、子どもの存在意義は曖昧になり、時に子どもは忌避される存在になった。しかし、学校の校庭に響く子どもの歓声を聞くと、われわれ大人は大きな希望と責任を感じる。対症療法的な少子化対策ではなく、子どもが社会の構成員として大切に包摂される社会を目指さなければならない。

法律婚にこだわる日本社会

 日本女性の嫡出第1子の出産時期は、90年代半ば迄は結婚後10カ月目が最多だった。しかし、近年では結婚後6カ月目が最多で、いわゆる「できちゃった婚」ベイビーの誕生が増えている。嫡出第1子に占める割合は、1980年は12.6%だったが、2000年には26.3%と4人にひとりにのぼり、その後も同程度の水準で推移している。

 「できちゃった婚」が多い背景には、日本の伝統的な法律婚への強いこだわりがある。そこには

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