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中国経済の新しい芽「新・深圳モデル」

グローバル市場で台頭するイノベーション主導型の民間企業群

後藤康浩 亜細亜大学都市創造学部教授

 中国経済の現状に関する評価は「悲観論70%、楽観論30%」と大きく色分けできるだろう。政府や国有企業・銀行が抱える債務の膨張、鉄鋼、セメントなどの過剰生産能力は悲観論の有力な論拠となる一方、習近平政権の強引ともいえるテコ入れ策による持ち直しへの期待感も根強い。だが、そうした悲観論、楽観論はともに中国経済の旧来の構造に根ざしたものにすぎない。今、注目すべきはグローバル市場で台頭するイノベーション主導型の中国の民間企業群という新たな波であり、その舞台は奇しくも40年近く前、鄧小平氏が「改革開放」の拠点とすべく建設した深圳なのである。

世界の特許出願件数のトップは中国の華為技術

拡大中国を代表する半導体受託製造業者、中芯国際集成電路製造(SMIC)の深圳工場=深圳市内
 今なお模倣品、偽物が横行する中国だが、企業の研究開発の成果である特許出願に関してはこの数年、大きな変化が起きている。世界の特許出願件数の企業別ランキング(2015年)のトップは中国の華為技術(ファーウェイ)であり、2位の米半導体メーカーのクアルコムを挟んで、3位にも中国の中興通訊(ZTE)からである。今世紀初頭にはランキングの上位にはキヤノン、ソニー、パナソニック、日立製作所など日本メーカーが名を連ねていたが、今は5位に三菱電機、8位にソニーが入っているだけだ。もちろん模倣被害を避けるため、特許出願しない研究開発成果も多く、このランキングがすべてではない。だが、中国企業にイノベーションで成長しようという意欲が高まっていることは伺える。

 華為は柱のひとつであるスマートフォンで昨年の世界シェアがサムスン電子、アップルに次ぐ3位。サムスン追撃の急先鋒といえる勢いのあるメーカーだ。ZTEもスマホで6、7位のポジションにある。従来の中国メーカーであれば、低価格を売り物に先進国メーカーのデザインを真似た商品で、途上国、新興国市場でのし上がるというパターンだったが、両社は明らかに別の流れにある。

 第一に、両社の商品は欧米、日本など先進国市場で顧客を獲得しており、価格帯も上級機種であればサムスンなどと変わりはなく、スペック的にも遜色はない。低価格を強みにはしていないのだ。第二に、両社とも基地局設備、Wi-Fiモデム、サーバーなど幅広いハードに加え、「第五世代」など通信の最先端で地歩を築いている。華為は空港や鉄道の管制システムから電力、交通、メディアなどの制御すなわちICTを使った社会インフラに事業の軸足を移しつつある。価格の叩き合いで疲弊する商品分野に依存しない経営に向かっているのだ。

深圳は中国の「スタートアップの首都」

 華為、ZTEはともに深圳生まれのメーカーであり、中国の特許出願件数の企業ランキングではトップ10の6社が深圳の企業で、中国の特許出願の46%は深圳が占める。つまり、深圳は中国の「イノベーションの首都」なのだ。

 さらに注目すべきは深圳のスタートアップ企業だ。技術と商品アイデアを持つ若手起業家が深圳に集まり、 ・・・続きを読む
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筆者

後藤康浩

後藤康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学都市創造学部教授

1984年日本経済新聞社入社、社会部、エジプト留学、国際部を経て、バーレーンと欧州総局(ロンドン)に駐在。帰国後、東京本社産業部で国内ミクロ取材の後、中国総局(北京)に駐在。その後、産業部編集委員、論説委員、アジア部長、編集委員を務め、2016年3月末に退社。同年4月から現職。著書に『強い工場』『勝つ工場』『アジア力』『資源・食料・エネルギーが変える世界』『ネクスト・アジア』などがある。テレビ東京系列「未来世紀ジパング」にナビゲーターとして出演。