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選挙で議席を減らしたメイ首相 経済に変調の兆し

ロンドンの国際金融市場としての地位は低下し、製造業は壊滅的な打撃を受ける可能性も

吉松崇 経済金融アナリスト

見事に外れたメイ首相の思惑

EU首脳会議の後に会見に臨む英国のメイ首相=ブリュッセルのEU本部拡大EU首脳会議の後に会見に臨む英国のメイ首相=ブリュッセルのEU本部

 6月8日のイギリス議会下院の総選挙では、メイ首相率いる保守党圧勝の予想に反し、保守党は過半数を獲得することすら出来なかった。保守党の獲得議席は総定数650のうちの318議席で、解散前の330議席から12議席減らしたことになる。解散前には議会で過半数を握っていたわけだから、この選挙結果は、事前の世論調査をあてにして解散・総選挙に打って出たメイ首相の大失態ということになる。

 昨年6月23日のEU離脱の国民投票を受けて辞任したキャメロン前首相からバトンを受けたメイ首相は、EU離脱交渉の方針に関して「クリーンブレグジット」を掲げ、移民流入の制限と欧州司法裁判所の管轄からの離脱を最優先する姿勢を鮮明にして来た。一方で、EU関税同盟から脱退するが、EUと新たな自由貿易協定を結ぶことで、摩擦のないEU市場へのアクセスを確保すると表明して来た。

 「EUからの移民は制限するが、EUとの自由貿易は維持する」というのは、明らかに「いいとこ取り」である。そもそも交渉相手のある話で、そのようないいとこ取りが通用するはずがない、と考えるのが常識だろう。だから、メイ首相の方針は「クリーンブレグジットではなく、ハードブレグジット(強硬離脱)」であると揶揄(やゆ)されてきた。実際、メイ首相は「EU離脱交渉で妥協はしない。不利な条件は受け入れない("No deal is better than bad deal")」と述べて「強いリーダー」を演じてきた。

 この選挙結果を受けて、メイ首相の政治的な立場が弱くなり、ハードブレグジット路線からソフトブレグジット路線への転換を余儀なくされる、という観測もある。「ソフトブレグジット」とは、EUとの自由貿易とEU市場へのアクセス確保を優先して、移民問題に関してはEUの基準をある程度受け入れる、という路線である。

 だが、イギリスの選挙結果がEUとの離脱交渉に影響を与える理由はない。メイ首相が選挙に勝とうが負けようが、EU、とりわけフランスとドイツにとって、EUからの離脱を決定したイギリスに対し、交渉で譲歩する理由がないからだ。

フランスとドイツの思惑

 イギリスの総選挙とは対称的に、フランスの国民議会選挙(6月11日、18日)では、マクロン大統領率いる共和国前進(REM)が577議席のうち305議席を占めて圧勝した。

 マクロン大統領にとって、イギリスのEU離脱は何を意味するだろうか?

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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