〝異見〟を尊重した対話型「チーム経営」、収益性を重視し目標に掲げる
2017年07月06日
ソニーの社長兼CEO・平井一夫氏が2012年に就任して、5年が経過した。ソニーの完全復活はなったのだろうか。
ソニーは今年度、「第二次中期経営計画」で目標として掲げた「ROE10%以上」「営業利益5000億円以上」を達成の見込みだ。5000億円の利益は、97年度以来だ。なぜ、復活できたのか。
ハワード・ストリンガー前社長の後任として平井氏が社長に指名された当時、正直、平井氏の評判は高くなかった。
なぜなら彼は、CBSソニーに入社後、音楽やゲーム分野の経験が長かった。つまり、本流ではなく、傍流出身だったからだ。逆に、それがプラスに働いた。「平井改革」が成功したポイントの一つだ。
平井氏が社長就任後に作成した、「第一次中期経営計画(12年度~14年度)」の狙いは、構造改革の推進だ。人員削減、資産や事業の売却など痛みを伴う改革に次々と取り組んだ。「ソニーを変える」として、利益、ROE重視を打ち出し「いたずらに規模を追わない」経営に舵を切るとともに、大量生産・大量消費型ビジネスモデルからの脱皮を図った。
構造改革の焦点は、不振を極めた中核事業のエレクトロニクス部門の再生にあった。なかでも、テレビ事業である。10年間にわたって垂れ流した赤字額は累計8000億円にのぼった。テレビ事業の「量」から「質」への転換を進めた。
「私は、社長に就任する前、副社長として、テレビ事業の責任者をしていました。調べてみると、販社のコストが高過ぎた。規模を追わないというと、『モデル数が減る』と営業部が反対しました。それじゃ、儲からないじゃないかといったんです」(平井氏)
テレビの販売台数は、かつて、「目ざせ4000万台」といっていたが、売れば売るほど赤字が膨れ上がった。コスト削減と高付加価値化を進め、徹底的に台数をしぼった結果、15年度、16年度と、およそ1200万台での黒字化を実現した。
これにより、黒字化はムリと思われていたエレクトロニクス部門も、15年度以降、2期連続で黒字化した。
また、「選択と集中」を進め、思い切ってPC事業を売却した。PCは差異化しにくいため、アジアの企業とのコスト競争で勝負にならないからだ。
さらに、特筆すべきは、各事業を「分社化」したことである。各事業の自立経営を目ざしたのだ。14年にテレビ事業、15年にビデオ&サウンド事業、16年に半導体事業、17年にイメージング・プロダクツ&ソリューション事業と、四つの分社化を行った。
「私は、ソニーの副社長になるまで、子会社のSCE(ソニー・コンピュータ・エンタテインメント)と、そのまた子会社の米国法人の社長をやっていました。つまり、一国一城の主ですから、それこそ自分でヒト・モノ・カネを責任を持って決めていました。吉田憲一郎(CFO)もソネットで一国一城の主でした。ですから、二人とも〝事業部〟と〝子会社〟では、トップの危機感がまったく違うということを、経験的に知っていたんですね。
厳しい環境のなかで、いかに会社を伸ばすか、自立経営によって危機感をもってもらう。本社に頼らず、自分たちで考えて、責任をもって経営指標のもとに責任を果たしてもらいたい」
と、平井氏はハッパをかける。
そして、四つの分社の社長、すなわち事業責任者4人を本体の執行役として起用した。
ソニーの執行役は従来、ソニー本体所属の人物に限られていたが、分社の社長を全員、執行役に加え、本社と分社の両方に責任をもたせる体制にした。
もっとも、「私は、構造改革をやるために社長になったのではない」として、平井氏は15年、「第二次中期経営計画(15年度~17年度)」を発表した。「第一次中期経営計画」の〝構造改革フェーズ〟に対し、「第二次中期経営計画」は、〝利益創出と成長への投資フェーズ〟と位置付けた。そして、目標として、冒頭で述べたように「17年度にROE10%以上」「営業利益5000億円以上」――を掲げた。
「平井改革」の成功は、ズバリ「チーム経営」の実践にある。
平井氏は、17年5月23日の経営方針説明会において、プレゼンテーションの最後に次のように語った。
「分社化と、昨年行った役員制度の変更により、私に直接レポートする執行役9名がそれぞれの担当領域について明確な経営責任を果たすとともに、ソニーグループ全体の企業価値の向上を目ざし、『SONY』の共通アイデンティティのもとで連携、協力する体制が確立しました」
つまり、「チーム経営」の実践のための「経営チーム」をつくり上げたのだ。「SONY」4文字の共通アイデンティティのもとに連携、協力する優秀な「経営チーム」の構築である。
ソニーは創業以来、井深大、盛田昭夫、大賀典雄と、カリスマ経営者が続いた。しかし、技術およびグローバリゼーションの進展により、複雑化、高度化、スピード化する経営環境に対応するには、「チーム経営」が求められる。その点、平井氏は、「俺についてこい!」型のワンマンでも、カリスマ経営者でもない。フェアかつフランクで、ノリがいい。「チーム経営」にもってこいのリーダーだ。
「経営チーム」のメンバーは、平井氏を含めて10人である。代表執行役副社長兼CFOの吉田憲一郎のほか、執行役副社長の鈴木智行、執行役EVPの神戸司郎、今村昌志、安部和志、ゲーム事業のソニー・インタラクティブエンタテインメント社長兼グローバルCEOのアンドリュー・ハウス、ソニービジュアルプロダクツとソニービデオ&サウンドプロダクツ社長の高木一郎、ソニーイメージプロダクツ&ソリューションズ社長の石塚茂樹、ソニーCSOでソニーモバイルコミュニケーションズとソニーネットワークコミュニケーションズ社長の十時裕樹の諸氏の陣容だ。
このうち、62歳の鈴木氏を除いて、平井氏の56歳をはじめ、52歳から58歳とほぼ同世代だ。もともとソニーの経営チームは、他企業に比べてやや若いが、それにしても平均56歳は、日本企業の中では若い印象だ。
平井氏は、コミュニケーション重視の対話型の「チーム経営」を目ざしている。例えば、平井氏と分社トップとの1to1ミーティング、各分社トップが一堂に会して議論する事業運営は、月一回のペースで行っている。
平井氏の「チーム経営」の特徴は、若いだけでなく、ROE重視である。
ROEとは、株主から得た資金を使い、企業がどれだけ収益をあげたかを測る指標(株主資本利益率)だ。東証1部上場企業の16年度のROEは、少し上昇し、平均8.7%といわれている。しかし、欧米の主要企業は、10%以上だ。かねてから指摘されているように、日本企業は世界の企業に比べて資本効率が低い。ソニーもそうであるが故に、「第二次中期経営計画」で「ROE10%以上」を打ち出したのだ。これは、ソニー復活の要因のポイントである。
それを裏付けるのが、
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