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「夫婦関係」で読み解く現代社会

「死後離婚」「夫婦別姓」……、「絆」のバランスを探し求める人々

土堤内昭雄 公益社団法人 日本フィランソロピー協会シニアフェロー

 事実婚や同性婚、共働き世帯の増加など「夫婦関係」が多様になっている。「男女による法律婚に基づく専業主婦世帯」といったステレオタイプな夫婦像は、既に過去のものかもしれない。「夫」と「妻」の経済力の変化に伴い夫婦の関係性やそれぞれの役割にも変化が生じている。新たな「夫婦関係」から現代社会の諸相をみてみよう。

増える「死後離婚」

 近頃、「死後離婚」という聞きなれない言葉がある。配偶者が亡くなった後に、結婚によって生じた義理の両親や兄弟姉妹などの『姻族』との関係を断絶することを意味する。「死後離婚」は「姻族関係終了届」を提出することで成立し、近年、その件数が著しく増加しているという。

 法務省の戸籍統計によると、2015年度の同届は2,783件と10年前の1.5倍にのぼる。「死後離婚」に踏み切る人は、夫の死後は家制度のもとで強いられてきた「嫁の役割」から解放されたいと願う人が多いようだ。今後、夫に先立たれて老後をひとりで過ごす女性が増え、新たな家族問題としても注目されるだろう。

 嫁姑問題は永遠の課題だ。妻が死後に夫の「累代の墓」に入ることを望まず、樹木葬や共同墓に埋葬されることを願う場合もある。夫と一緒に埋葬されたいと願い、夫婦だけの墓をつくる人もいる。「死後離婚」は従来の墓の承継にも影響を与え、今後は墓も家系単位から個人単位で考えられる時代がくるかもしれない。

 2017年版の総合結婚情報誌「ゼクシィ」のCMのキャッチコピーは、『結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです』だ。「女性の幸せは結婚すること」と言われた時代もあったが、他にさまざまな選択肢がある中で、『結婚したい』というメッセージは力強い。自ら選択した「つながり」は主観的幸福度も高いのだろう。

 夫婦より「個」を優先する生き方が広がる現代社会だが、「夫婦別姓」について尋ねると「夫婦同姓」を望む人が案外多い。人は強く束縛されたくはないが、いつもだれかとつながっていたいのだろうか。結婚自体も法律婚に限定せず、事実婚や同性婚、通い婚のような多様な人間関係を受け入れる寛容な社会が求められているのかもしれない。

 東日本大震災を機に親子の絆、夫婦の絆、地域の絆など、さまざまな「絆」の大切さが再認識された。これまで日本の家族や地域には強い絆があり、互いに助けあって生きてきたが、時には互いの自由を束縛して息苦しさを覚えた人もいるだろう。「つながりたい」のか、「つながれたくない」のか、多くの人は「絆」のバランスを探し求めている。

「夫婦別姓」導入で割れる賛否

リビングでくつろぐ夫婦=仙台市
 現在の民法によると、男女が婚姻関係を結ぶ際には、夫か妻のいずれかの姓を選ばなくてはならない。つまり他方は改姓が求められるのだ。夫婦のいずれの姓を選ぶのかは夫婦間の協議によるが、実際には96%の夫婦が夫の姓を選択しており、夫婦同姓を定めた民法は男女差別を助長しているのではないかとの批判もある。

 1998年、法務省法制審議会は選択的夫婦別姓制度の導入を答申したが、『伝統的家族観が崩れる』などの世論もあって法改正には至らなかった。その後、日本は国連の女性差別撤廃委員会から繰り返し法改正の勧告を受けているが、2012年の内閣府「家族の法制に関する世論調査」でも、同制度の導入に向けた法改正に関する賛否は割れていた。

 夫婦別姓のメリットは、結婚後も自分のアイデンティティとなっている姓を男女が共に維持できることだ。少子化に伴い実家の姓を残すことを希望する人も大勢いるだろう。一方、デメリットとして、「子どもにとって好ましくない影響がある」や「家族の一体感を損なう」と指摘する意見も聞かれる。

 選択的夫婦別姓制度は、婚姻による同姓を強制するのではなく、希望する夫婦に別姓を認めるという新たな選択肢だ。世界的に同性婚の広がりなどがみられるように結婚観が多様になり、家族のあり方として夫婦が同じ姓を名乗ることをすべての夫婦に対して法律が一律に規定することが妥当なのだろうか。

 夫婦同姓は、夫か妻の一方は、自らのアイデンティティを失う可能性がある。夫婦として同姓を名乗ることが自らのアイデンティティにつながる場合は、特に問題はない。しかし、自己のアイデンティティを守ることで配偶者のアイデンティティを損なうことになれば、夫婦が相互の人権侵害をすることになりかねない。

 夫婦のいずれか、もしくは双方がアイデンティティを喪失しないためには、

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