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英国は性差別的広告を禁止へ

性別によるステレオタイプな広告に対する反感が非常に強い社会的風潮が背景に

小林恭子 在英ジャーナリスト

性別のステレオタイプを表す広告が禁止に

 男性は家事がうまくできない、女児はピンクを好む――など性別のステレオタイプを表す広告が、英国では来年から禁止される見込みだ。広告業界の自主規制組織「英広告基準協議会(ASA)」が7月18日、性差別的な広告の実態について報告書を発表し、これをもとに新たな広告規定の作成作業が始まる。

 最近、日本でも性差別的とみなされた広告が炎上し、広告主が問題となった広告を取り下げる事件が相次いでいる。7月上旬には、サントリーが新商品となるビール系飲料「頂(いただき)」のPR動画『絶頂うまい出張』が「下品で差別的」とされ、公開後わずか1日で中止となった。日本の主要都市に出張した男性が、現地の女性と居酒屋にいるという設定で、頂を飲んだ女性が「コックゥ〜ん! しちゃった」などの感想を述べる。これに対し、「男性にとって都合がいい女性像を性的に表現している」などの批判が相次いだ。

 英国でもこうした性にまつわる差別的、あるいは侮辱的と思われる広告に注目が集まっており、英広告基準協議会(ASA)が新たな指針作りに動き出すことになった。

「性のステレオタイプ化」による広告を問題視

 英国では雇用法(2010年)で年齢、障害、結婚、妊娠、人種、宗教、性、および性的志向による差別を禁じている。英国の広告業界では、ASAの姉妹組織「広告実践委員会」が策定する広告実践規定4-1条で、広告に「重大な、または広範な侮辱を引き起こすと見られる要素が入ってはいけない」と定めている。さらに、特別の配慮が必要とされる項目として「人種、宗教、性、性的志向、障害、年齢」が挙げられているのだ。

 こうした規定に沿って、ASAはこれまで、性差別を助長するような表現を使った広告に異議を申し立て、時には禁止措置を取ってきた経緯がある。広告実践規定に違反したと見なされれば、それだけで悪評がつくため、広告主側は修正や取り下げを余儀なくされる。また、たびたびの違反があれば、ASAは政府の取引基準局や情報通信庁(オフコム)に介入を依頼することができる。場合によっては罰金、禁固刑、放送業であれば放送免許の取り消しにつながる可能性がある。

 最近、問題視されるようになったのが「性のステレオタイプ化」による広告だ。男性とはこんなもの、女性はこんなものというステレオタイプ的な見方による表現を含む広告のことだが、現行の規定では十分に対処できない事案が連発した。

男の子はエンジニアや登山家、女の子はバレリーナ……

アプタミル社による女性の赤ん坊がバレリーナになるという広告(ASA/アプタミルより)拡大アプタミル社による女性の赤ん坊がバレリーナになるという広告(ASA/アプタミルより)

 例えば、調整粉乳の会社アプタミルが、3人の赤ん坊が成長していく様子を描いたコマーシャルを作った。3人のうちの2人は男の子で、1人はエンジニアに、もう1人は登山家になっていく。残りの1人の女の子はバレリーナになるが、女性がエンジニアや登山家ではなくバレリーナとなるという設定に視聴者から苦情が出た。

 女性でもエンジニアや登山家になる人はいるので、この広告の描写では、女性ができる仕事をステレオタイプに沿って限定している、女性軽視だと言う主張である。しかし、ASAは「性をネガティブな視点から見た」表現にはあたらないとして、調査を開始しなかった。

 衣料ブランド、ギャップによる子供用衣料の広告を出した際にも苦情が出た。

衣料ブランド「ギャップ」の男児と女児の広告(ASA/ギャップより)拡大衣料ブランド「ギャップ」の男児と女児の広告(ASA/ギャップより)

 科学者アインシュタインのTシャツを着た男児は「小さな学者」として紹介され、「将来はここで始まる」というメッセージが出る。女児は「社交家」とされ、キラキラ光る猫の耳を頭に付けた格好をしており、将来は「遊園地の花形になる」と予想されている。

 男児が社会的にインパクトを与える人物に育つことが示される一方で、女児はせいぜいが「遊園地の花形」である。女性を低く見ていると感じた市民が苦情を寄せたが、ギャップが広告を中止したため、ASAは動かなかった。

規制対象にはならなかった広告

 ロンドンの地下鉄に貼られた広告が批判の対象になったこともあった。

 オンラインで物件を売買できる不動産会社の広告で、軍服を着てヘルメットを被った男性のクローズアップ写真の横に、こんなメッセージが書かれていた。

 「私はデーブだ。マンチェスターの兵隊だ。だが、今日は不動産代理店だ」という自己紹介の後、オンラインのサービスを使ったので物件をより高く売ることができた、という。「これで、妻に新しい台所を買ってやれる」

 広告に苦情を寄せた人によると、この広告は男性が財政管理をし、「妻に新しい台所を買う」という設定で、男性=お金を稼ぎ、養う人、女性=養ってもらう人という性のステレオタイプが見えるという。

 ASAはこの広告が「重大で、広範な侮辱をもたらす」とは見なさず、規制対象にはしなかった。

 同様の理由でASAが規制の対象としなかったのが、ケンタッキー・フライド・チキンのコマーシャルだ。

 2人の男性がどちらがより大きな画面のテレビを持っているかで口論になる。1人の男性は自分が「男だから」大きな画面のテレビを持っていると言い、相手の男性が香りつきろうそくを持っていることを馬鹿にする。「ろうそくを持っていると心配が和らぐんだ。お前は怪物みたいだな」とこの男性が答える。

 このコマーシャルに対し、精神的な障害を持っている人を馬鹿にしたという苦情が出たと同時に、心配性の男性を「男らしくない」として描写することで、精神的に不安定な男性に対して本音を言わないように口を閉ざす圧力が働いた、として批判された。

 「女性をモノとして描いた」、「下品だ」という非難を浴びたポスターが、ロンドン東部のビルに貼られたことがあった。デザイナー、トム・フォードの香水の広告で、一糸まとわぬ女性が水の中にうつ伏せで横たわり、片手で香水の瓶を持っている。女性は顔をこちらに向けており、乳房の側面や臀部(でんぶ)が見える。

 ビルの壁面に貼られたポスターは、巨大な裸体の女性の姿を通りかかった人に見せることになった。

 ASAに寄せられた苦情は「モノとして描いた」、「下品だ」の他に、子供を含む広い範囲の人に見られしまうこと、教会やモスクが近くにあることを指摘し、禁止措置とするよう求めた。しかし、ASAは禁止にはしなかった。学校から100メートル以内の場所には出さないように、という条件を付けただけだった。

 上記のような広告は、来年以降、新たな広告規定の下で禁止になる可能性がある。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

秋田県生まれ。1981年、成城大学文芸学部芸術学科卒業(映画専攻)。外資系金融機関勤務後、「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て、2002年に渡英。英国や欧州のメディア事情や政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。「新聞研究」(日本新聞協会)、「Galac」(放送批評懇談会)、「メディア展望』(新聞通信調査会)などにメディア評を連載。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)。

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