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「反アベノミクス」で何が起きるのか?

日本経済は再びデフレに陥り、名目GDP成長率がマイナスに至れば、財政破綻に近づく

吉松崇 経済金融アナリスト

アベノミクスの「本質」とは?

 今年3月に始まる「森友学園問題」以降、支持率の低下に歯止めがかからなくなった安倍政権が内閣改造に追い込まれた。内閣改造で取りあえず支持率の低下は収まったかのように見えるが、もちろん、「政治の一寸先は闇」だから、これから先、何が起きるかはわからない。

 私は経済アナリストであり、政治評論は専門外だが、政局が大きく流動化すれば、経済も大きく変動する可能性がある。その限りで、今年3月以降に起きた政治の変化がもたらすかも知れない経済への影響を考えておきたい。

 とりわけ安倍政権の場合、もしも安倍首相が退陣するような事態に至ると、日本の経済政策が大きく変わる可能性がある。

 「アベノミクスの3本の矢は、①積極的金融緩和政策、②機動的財政政策、③成長戦略、である」と言われる。これはこれで正しいのだが、経済政策形成の本質を突いてはいない。アベノミクスの「本質」は、経済政策の決定権を財務省と日銀の官僚機構から首相官邸に移したことにある。

何故、長期政権になったのか?

安倍晋三首相との会談後、記者に囲まれる黒田東彦日銀総裁=1月、首相官邸拡大安倍晋三首相との会談後、記者に囲まれる黒田東彦日銀総裁=1月、首相官邸

 第2次安倍政権の発足当時を思い起こしていただきたい。2012年11月に衆議院が解散されると、当時の野党である自民党の政権復帰が広く予想され、さらに、当時自民党総裁であった安倍氏は、選挙期間中に当時の日銀の金融政策を厳しく批判し、「これまでにない大胆な金融緩和政策を行う」と主張した。

 この頃、安倍氏の金融政策についての発言は、メディアから「中央銀行の独立性を損なうものだ」と強い非難を浴びたが、金融市場は安倍発言を好感して、株価の上昇と為替の円安が始まった(5年前の拙稿、「安倍バッシングは見当違いだ!-総選挙はデフレ脱却のまたとないチャンスである-」2012年11月28日、を参照頂きたい)。

http://webronza.asahi.com/business/articles/2012112500002.html

 そして、安倍氏は首相となり、翌年4月に現在の黒田日銀総裁が誕生して、日銀は大胆な金融緩和にかじを切った。安倍首相は、第2次安倍政権の発足が日銀総裁・副総裁人事の時期の直前であるという幸運にも恵まれ、自らの主張を体現する日銀の体制を構築した。

 安倍首相はさらに、2014年11月、2015年10月に予定されていた消費税再増税(8%→10%)の延期を決断して、衆議院の解散・総選挙を行った。言うまでもないが、これは財務省事務当局の強硬な反対を押し切っての政治判断であった。

 私は、安倍政権が長期政権となった最大の理由は、最も重要な経済政策である金融・財政政策の決定権を、官僚機構の抵抗にもかかわらず、首相官邸が握り続けたことにあると考えている。

 この間、景気は総じて回復し、失業率は低下して雇用者数・就業者数も増えている。総務相の労働力調査によれば、最新時点(2017年6月)の完全失業率は2.8%で、「異次元金融緩和」導入前(2013年3月)の4.1%から1.3%も改善している。この間、就業者数は6,309万人から6,531万人へと220万人増加し、そのうちの雇用者数は5,538万人から5,826万人へと288万人も増加した。

 経済を見る限り、「安倍1強」を突き崩す要因が見当たらなかったのだ。

支持率下落の真因は何か?

 今年の3月以降、安倍政権の支持率が急低下した理由は複合的である。

 第一に、森友学園問題と加計学園問題では、安倍政権が「お友達優遇疑惑」を払しょくできなかったことだろう。これらの問題で、安倍首相やその周辺が贈収賄に問われるような決定的な証拠が出ている訳ではないが、ここまで大騒ぎになってはイメージの問題であり、決定的な証拠がないことは助けにならない。

 第二に、とりわけ金田法務大臣と稲田防衛大臣に顕著に表れた閣僚の資質の問題である(稲田氏の場合は、「お友達優遇」批判の対象でもある)。

 安倍政権への支持率の推移を見ると、どの世論調査を見ても6月15日の「テロ等準備罪」強硬採決の後で激減しており、7月の東京都議選の後でさらに大きく下げている。これらに比べると、4月、5月の支持率下落は政権が危機に陥るほどのものではない。

 「テロ等準備罪」は、これまでの刑法の基本原則を大きく変更する法案である。この難しい法案を、あの程度の答弁しかできない法務大臣の所管のもとで強硬採決したことが、有権者の目にはあまりに強引だと映ったのではないだろうか? 私自身は、何故、安倍政権がこの法案に政治的資源を浪費するのかが、全く理解できなかった。救済宗教が根付いていない日本で、テロが頻発するリスクが高いとは思えないからだ。

 7月の東京都議選の影響は、都議会自民党の敗北もさることながら、稲田防衛大臣のあまりにも非常識な失言であろう。

 そう考えると、第一の「お友達優遇疑惑」以上に、第二の閣僚の資質の問題が、大きかったのではないだろうか? 閣僚の資質の問題は、まるで第一次安倍政権の時代(2006~2007年)に起きたこととそっくりであり、何故、安倍首相が同じ失敗を繰り返したのか不思議である。

「反アベノミクス」実現の可能性

 8月3日の内閣改造では、安倍首相はこれまで必ずしも自身に近くはない政治家、野田聖子氏や河野太郎氏を閣内に取り込んで、「お友達優遇」批判を払しょくすると共に、「閣僚の資質」にも気を配っているように見える。

 また、安倍首相のライバルと目される自民党内の政治家のうち、石破茂氏を除いて、閣僚もしくは自民党の要職で遇している。これら閣内や党の要職にある政治家が離反しない限り、安倍政権が倒れることにはならないので、当面その確率は低いと言えよう。

 とはいえ、もしも安倍政権が倒れるようなことになった場合の経済への影響について頭をめぐらせておく必要はあるだろう。リスク・シナリオの検討である。

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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