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コメの自由市場を認めない人たち

先物取引反対は、農家の利益ではなく、JA組織の利益を守るための主張に他ならない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 コメの先物取引市場の正式認可が、JA農協と自民党の反対により再び延期された。2011年試験的な市場が認められてから3度目の延長である。

世界最初の先物市場は大阪堂島のコメ市場だった

 先物取引とは、商品を将来の時点である価格で売買することを、現時点で約束する取引のことである。今では先物取引は農産物だけでなく金、原油から通貨、指数まで広範な商品について認められている。我々が国際的な穀物相場と言っているのは、シカゴ商品取引所(Chicago Board of Trade)の先物価格である。

 実は、世界で初めての先物市場は、1730年に開設された大阪堂島のコメ市場である。しかし、1939年、戦時経済の中で食料不足が起こり、政府が直接コメ市場を統制するようになって、自由なコメ市場は閉鎖された。

 1996年コメの価格や、流通を統制していた食管制度が廃止され、先物市場復活の可能性が出てきた。2005年に東西の商品取引所がコメの先物市場を農林水産省に申請した。しかし、JA農協との結びつきの強い自民党政権の下では認められなかった。

2011年にコメ先物取引が復活した背景

 2005年、JA全農秋田県本部によるコメの不正売却事件が発覚した。この事件では、農家のコメを横流して補助金を不正に受け取ったほか、公正なコメの価格形成の場として作られた全国米穀取引・価格形成センターの公的な入札制度を利用し、子会社を使った架空取引によって米価を高く操作した。

 その後、米価を維持したいJAは、全国米穀取引・価格形成センターを利用するのをやめ、卸売業者との相対取引に移行した。JAが5割を超える市場占有力を持って、卸売業者と相対取引をすれば、米価に強い影響力を行使できる。このため、同センターの利用が激減し、センターは2011年3月廃止となり、農林水産省は天下りポストを失った。

 しかし、これはJAに裏目に出た。民主党が2010年度に導入した戸別所得補償は、一定の生産費と市場価格との差を補てんするものだ。その算定の基礎となる市場価格は、当事者によって操作されない客観的なものでなければならない。

 商品取引所は、米価の客観的な指標を提供するためとして、再度コメの先物市場の試験上場を申請した。JAの相対取引への移行がこのような申請を行う口実を与えた。自民党から民主党に政権が移った2011年、農林水産省は申請を認可した。実に72年ぶりのコメ先物取引の復活だった。

 天下り先が細っている農林水産省にとっても、商品取引所が活性化すれば、多くのOBの再就職先を確保できるという思惑があった。農林水産省は2007年東京穀物商品取引所に次官OBを送り込み、コメの先物市場復活をもくろんだ。

先物取引は悪者なのか?

 先物取引は投機というイメージが強い。しかし、本来生産者にとって、将来価格が変動することのリスク回避の行為を行い、経営を安定させるための手段である。具体的に言うと、作付け前に、1俵1万5千円で売る先物契約をすれば、豊作や消費の減少で出来秋の価格が1万円となっても、1万5千円の収入を得ることができる。

 JA農協は、先物価格が高くなると、農家がコメを作る意欲が出て、減反に協力しなくなるとか、投機資金によってコメが投機的なマネーゲームの対象となり、価格が乱高下することは望ましくないと主張する。

 しかし、投機資金で先物価格が2万円に上昇することは、農家にとっては良いことである。先物価格が上がり、農家が減反に参加しないでコメを作るとしよう。これで出来秋に実現した米価が下がっても、実質的に農家が受け取る米価は先物価格であって、出来秋の現物市場での米価ではない。また、4千億円の財政負担でコメを減反させ、高い価格を実現して6千億円もの消費者負担を強いる減反は、廃止したほうが、国民経済にとって利益となる。

 そもそも、農家にとって、先物取引は経営安定のための方策であって、減反に参加するかどうかとは関係ない。先物取引を行っているアメリカでは、1995年まで減反政策がとられていた。また、先物価格が上昇すれば、生産者は生産を増やそうとするので、将来実現する現物価格は低下する。これは市場を安定させるという効果を持つ。JAが反対する理由こそが、国民経済的には先物市場のメリットなのである。

 〝コメを投機の対象とするな〟と言うが、現在と比較にならないほど、コメが日本人の主食としての重要性を持っていた時代ですら、200年の長きにわたりコメの先物市場は認められていた。JA農協の主張には何らの根拠もない。

投機・マネーゲームに走るJA農協

 JAは投機を批判する。しかし、JAバンク(農林中金)の預金はとうとう百兆円を超えた。このばく大な資金を背景に、ニューヨークのウォールストリートで、我が国最大の機関投資家として、有価証券に投資をして莫大(ばくだい)な利益を上げている組織は、他ならぬJAバンクである。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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