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たかがスメハラ、されどスメハラ

個々人の臭いに対する自覚や認識を改めることが必要な時代に

金子雅臣 一般社団法人職場のハラスメント研究所代表理事

 

拡大開発中の「Kunkun body」をスマホと無線で接続し、脇の臭いを測定する男性=コニカミノルタ提供

 近年、夏場になると決まって話題になるハラスメントがある。それは、スメルハラスメント、略してスメハラなどと呼ばれているものである。臭いが周囲にもたらす不快感を指し、いわゆる臭いを気にする人たちによって多用される言葉である。対象となる臭いは、体臭や口臭、更には香水、柔軟剤の臭いまで幅は広い。

 ㈱マンダムの調査によれば、「職場のみだしなみ」で「どうにかして欲しいこと」で過去連続3年、1位が「ニオイ(体臭)」だという。そうした臭いが頭痛やめまいを引き起こしたり、その臭いで仕事に専念できないなどという苦情や訴えが確かに増えている。職場では、時にはそれが理由で退職するという深刻な問題も起きていることなどから無視できないテーマとなってきている。

 通勤電車や買い物など個人的な行動範囲で起きる場合には、一時的で回避行動も可能だが、職場となると深刻である。その場から逃げ出すこともできないし、まして相手が上司や隣席の同僚だったりすれば最悪である。

自覚が難しい「臭い」

 しかし、こうした臭いについては、受け止める側の個人差もあり、臭いを発している本人はまったく無自覚であることもあるので扱いが難しい。特にわきがなどは、自分の臭いとは長年の付き合いで「嗅覚の鈍化」が起きてしまい自覚するのが難しいとも言われている。

 さて、こうしたスメハラであるが、ハラスメントを苦しめること、悩ませること、迷惑行動という広義でとらえるとすれば、ハラスメントに該当することになる。しかし、ハラスメントといえるとしても、そこに悪意がないことや、本人がまったく無自覚であるケースが多いことも含めて考えると悩ましいテーマである。

 この問題をどのようにとらえて、どのように対処すればいいのか、以下では、私どもの研究所に寄せられた相談などを中心に対策を考えてみたい。

1 基準は「平均的労働者」の受け止め方

 スメルハラスメントでは、行為者と名指しをされる人に意図的とか悪意があると判断されるケースは少ない。しかし、まれとはいえ、ないわけではない。

 具体的には、①上司の加齢臭についてうっかり指摘したら、逆切れされて「部下なら俺の臭いに慣れろ」と言われて、わざと身体を寄せてくるようになった。(女性・団体職員)②始業時前にジョギングをしているが、一度だけシャワーを浴びる時間がなく仕事に就いたら「臭い」と言われ、その後周囲から「汚い」とか「臭い」とからかわれるようになった。(男性・営業)などというケースは、まさに臭いに絡む悪意やからかいのハラスメントと言える。

 こうした行為者に明らかな悪意やからかいの意図があるスメハラの対極にあるのが、被害者が明らかに過剰反応と思われるケースである。

 具体的には、①私は無香料派なので、臭いはすべからくダメで、隣の席の同僚の柔軟剤の臭いが辛くて仕方がない。(女性・公務員)②同僚の女性の香水の臭いが私の趣味と違うので生理的に受け入れられない。(女性・販売)などの訴えである。

 この種の訴えになると行為者に悪意がないことはもちろん、被害を訴える側の個人的な嗜好の領域でもありデリケートな問題になる。さて、こうした様々なケースについて、一体どのように判断したらよいのかであるが、ハラスメントにはすでに幾つかの判断基準ができている。

 これらのケースがハラスメントになるかどうかを判断するには、例えばセクハラ判断で確立されている「平均的労働者の受け止め方を基準とする」(その職場の多くの人たちの受け止め方)という解釈基準がある。こうした点から判断すれば、前者は明らかにハラスメントではあるが、後者についてはハラスメントとはいえない。

2 マネージメントの問題として対応する

 さて、こうした両極端な事例はさておき、スメハラとして問題とすべきは臭いに悩まされて仕事に集中できないなどというごく一般的なケースということになるだろう。

① 同僚のわきががきつく、彼がトイレに入った後はしばらく誰も入れない。(男性・システムエンジニア)②口臭のきつい上司が話し出すと、みなハンカチを口に当てるが本人はまったく自覚がないようだ。(女性・保険事務)③香水のきつい女性社員がいて、みな閉口しているが、本人はおしゃれだと思っているらしく、まったく意に介しない。(女性・不動産事務)

 こうした事例は本人に自覚がなく、周囲の大勢の人たちは閉口しているというケースだと言える。他のハラスメントと比べて、 ・・・続きを読む
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筆者

金子雅臣

金子雅臣(かねこ・まさおみ) 一般社団法人職場のハラスメント研究所代表理事

東京都庁にて長年、労働相談に従事。労働ジャーナリストとしての執筆のかたわら、’08年に一般社団法人職場のハラスメント研究所を立ち上げ、企業向け講演、DVD制作などを手がける。現在は、研究所所長の他、葛飾区男女苦情処理委員、日本教育心理学会、成蹊学園のスーパーバイザーなどを務めている。主な著書には「壊れる男たち」(岩波新書)「部下を壊す上司たち」(PHP)「職場いじめ」(平凡新書)「ホームレスになった」(筑摩文庫)、DVD監修としては、「マタハラのない職場づくりのために」(ASP)「なくそう!職場に潜む心の病」(映学社)などがある。