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今やらなくていつやるの?イノベーションの勧め

「とにかく動く人」(Doer)になろう。本気で世界を変えていこう!

梅田実 朝日新聞総合プロデュース室主査

「やりたいことをやってる?」

イノベーションの聖地、米国・シリコンバレー拡大イノベーションの聖地、米国・シリコンバレー

 「あなたが今やりたいこと、将来実現したい夢は何ですか」

 2年前、シリコンバレーのネットワーキングで、初めて会った現地企業のアメリカ人事業部長から、開口一番にそう切り出された。私が胸ポケットの名刺入れに触れたときだった。そして矢継ぎ早に「創り出したい世界は何ですか」と聞いてきた。

 当時私は、出向先でコーポレートベンチャーキャピタル=ABCドリームベンチャーズ(株)=の投資家として、また出資したベンチャーと協働する事業開発担当として、イノベーションの最先端の地、シリコンバレーを訪問していた。目の前の仕事をこなす忙しい日々を送っていた私にとって、夢や創り出したい世界などまったく考えたこともなかった。

 日本ではイノベーションと聞くと、誰の口からもGoogle、アップル、Facebookなどの会社が出てくる。言わずもがな、私も社内では「世界をリードするGoogleやアップルはこういう考え方なんだぞ」と豪語していた。一方、アメリカでは個人一人ひとりが夢を実現できたり、やりたいことができたりする会社が、偶然Googleだった、アップルだった、ベンチャー企業だったという考えが一般的。会社名は二の次だ。

イノベーションが壁にぶちあたっている

スタンフォード大学dスクール=2017年1月、米国で木村優紀子撮影拡大スタンフォード大学dスクール=2017年1月、米国で木村優紀子撮影

 翻って、日本はどうか。

 自前主義で成長を続けてきた大企業を中心に、ここ数年「オープンイノベーション」がいたるところで叫ばれている。シリコンバレーをまねて、外部企業や起業家とアイデアコンテストを行ったり、起業家とコラボレーションするオシャレなスペースを作ったり、ベンチャー投資を行ったり、現地を表敬訪問したりする。イノベーションに興味、関心を持ち第一歩を踏み出した感はある。

 しかし、外に踏み出した一歩がすぐに壁にぶつかる、と私の周りの企業人は一様に話す。いわゆる「大企業の壁」だ。

 海外でインスピレーションを受けたのに、日本に戻ると何もできない、人と違うことをやるのが難しいと嘆く声を聞く。海外は楽しかっただろうと揶揄(やゆ)されたという声までも。組織の壁、意識の壁、年代の壁などが立ちはだかる。一方、大企業と連携するベンチャーからは、大企業はスピードが遅い、アイデアが盗まれた、本気度が感じられないなどの声があがる。相思相愛の声はほとんど聞こえない。

 私も世間から斜陽産業と言われる新聞業界で、オープンイノベーションで新たな収益事業を生み出す部署に所属する。ベンチャー投資の経験からベンチャー側の気持ちが痛いほどわかるため、「案件を持ち帰らせてください」「上司の確認がないと判断できない」「まだ社内調整中です」といった言葉を発することが本当につらい。

シリコンバレーがすべてではない

数々の起業家を輩出するスタンフォード大学拡大数々の起業家を輩出するスタンフォード大学

 「日本はシリコンバレーになれるか、なったほうがよいか」と大企業の新規事業担当者から質問を受けることが多い。

 シリコンバレーから見習うべきことは山ほどある。例えば、2時間後に返信したメールが相手からすると2日前のように感じるほどのスピード。世界トップレベルの大学や起業の環境が整ったエコシステム、オープンな大企業、再挑戦に寛容な社会など考え方から実践方法まで多岐にわたる。

 もともと、環境、人、考え方など日本と異なる点が数多くある。シリコンバレーのすべてを日本で適用して、失敗するケースも多く見てきた。

 ただ、シリコンバレーで感じたのは「日本らしさ」が多くの場合、強みでもあることだ。現地でも、日本人の性格や考え方はまねできないと聞いた。例えば、相手の心理を読み取り行動する姿勢や、おもてなしの精神、遅れることのないスケジュール管理など。シリコンバレーから良いものは盗み、捨てるべきものは捨て、残すべきものは残す見極める力をつけ、イノベーションに臨むべきだ。

いまやらなくて、いつやるの?

大企業の若手有志団体のプラットフォーム「One JAPAN」=2017年4月、代表撮影拡大大企業の若手有志団体のプラットフォーム「One JAPAN」=2017年4月、代表撮影

 オープンイノベーションの渦中にいる私が、シリコンバレーでの体験や、大企業で実際にイノベーションを行う数多くの人間と交流するなかで痛感するのは、個々人が動くこと、Doer(実行する人、考える前に手足を動かす人、とにかく動く人の意)となることの必要性だ。それが、大企業の壁を崩しイノベーションへと繋(つな)がる。

 大企業には、いわゆる「ヒト・モノ・カネ・情報」が潤沢に存在する。なのに、十分活用できていないことが散見され、もったいない。海外から見ると日本は安全でテロもなく、リスクを取って挑戦できる環境が世界一整っている、とシリコンバレーでは聞いた。

 国の後押しもある。経済産業省新規産業室・新規事業調整官の石井芳明氏は言う。

 「政府の成長戦略や審議会では、『イノベーションが生まれるエコシステムの形成』が常に大きな課題ととらえ、大企業がいかに変わっていくか、変化に対応するかが重要と言っています。そのためにも、大企業に属する個人がDoerとなることが大事だと考えています。国の支援策の一つとして、今年3回目を迎える『始動Next Innovator』というプログラムがあります。大企業、ベンチャー、大学、自治体などから行動プランを持つ人材を選抜し支援。若手イノベーターのコミュニティーを形成中です。小さくても一歩を踏み出すことができるよう国も支援しています」

 個人が一歩を踏み出す環境は整っている。せっかくイノベーションの一歩を踏み出せたのだから、大企業の壁にあたっても「次の一歩」もその次も、歩みを止めてはならない。私自身にも言い聞かせている。大企業に所属しているからといって決して安住してはならない。

 ただ、日本でも注目する動きがある。

 大企業の若手社員を横串にし、イノベーションを起こす活動「One JAPAN」だ。大企業に所属する若手社員が挑戦できる土壌を作り、彼らの手で大企業同士が協働し新規事業開発を行っている。One JAPAN共同発起人で代表の濱松誠氏によると、「若手が挑戦し失敗できる場所を作っています。打席に立ちその回数を増やす。空振りや失敗した経験を共有しています」。Doerへの一歩を踏み出し始めている。

「自分ごと化」する

 シリコンバレーのある日曜日。私はホテルの喫茶店で多くの中国人に囲まれながら朝食を取っていた。9時を過ぎると、Tシャツ、短パンのいでたちで目をギラギラさせた起業家が次々と入ってくる。そして彼らは中国人の向かいにそれぞれ座り始め、中国語で挨拶し始めた。よく見ると中国人はみな投資家だった。

 私は一人の起業家に声をかけてみた。すぐに中国語で話しかけられ、日本人と言うと興味なさげに席を立っていった。日本は世界でもまだ存在感があるというプライドを持っていた私は、失望感と焦りを抱きながら店を出た。

 戦後、解体された会社は一からスタートし、そこに属するハングリー精神を持った「個人」が動き、高度成長期を経て今の日本を築き上げてきた。日本の大企業はみなイノベーターであった。それから約30年。イノベーションの環境が整った今こそ、先輩から今の日本を受け継いだ20~40代が、再び世界を視野に次の日本を創りあげる時期だ。決して他人ごとにせず、「自分ごと化」する。

 その鍵は「Thinkerから真のDoerへ」。シリコンバレーで学び、大企業の新規事業担当の声を数多く聞いてきた経験からDoerとなる具体的な意識改革、実践方法についても語りたい。

失敗を恐れない

失敗に寛容なシリコンバレー拡大失敗に寛容なシリコンバレー

 「先週1週間、仕事でどれくらい失敗しましたか」

 シリコンバレーでの月曜日、訪問した現地企業の役員からの質問だ。もちろん答えに窮する。日本ではまずこんな質問はお目にかからない。シリコンバレーでは失敗していないことは恥ずかしいこと。失敗をしていないことは何も挑戦していないと言われる。例外なく私もそれまで、失敗しないよう仕事をしていたり、手の届く範囲の仕事だけをしたり何も挑戦していなかった。いわゆる無難に。

 私が感じるシリコンバレーと日本の唯一の違いは、試行錯誤して失敗している数と、それを寛容する風土があることだ。ホンダ創業者の本田宗一郎も「成功は99%の失敗に支えられた1%である」と言っていた。失敗から学ぶことは多い。

 これまでは大企業の個人がDoerとなる重要性を説いたが、このあとは私がシリコンバレーで学んだ、企業人がDoerとなる具体的な実践方法を紹介する。

夢を持ち続けているか

 あまた失敗するシリコンバレーの世界。失敗したベンチャーに面談する機会を得たのだが、何と声をかけるべきか私は悩んでいた。しかしそんな心配は不要で、会った瞬間からCEOの目は輝き続けていた。

 「お金ないけど、ビジョンを持ち、夢を追っていると人生って楽しいよ」と。夢に向かって挑戦もせず失敗していない人生はもったいなく、それ自体が失敗かもしれない。「人生一度きり」とよくいうがその意味をようやく理解できた気がした。

 続いて広大な敷地と多数の従業員を抱えるGoogle本社へ。そこで働くプロジェクトリーダーは「夢を追いかけ、それを実現する情熱だけは他の誰にも負けない自信がある」と語った。日本の企業人でこんな言葉を発せられる人はどれくらいいるのだろうか。少なくとも私は言えなかった。

 帰国後、自分にはどんな夢があるのか、どんな世界を創りたいのか、自分の考えをまとめることから始めた。 ・・・続きを読む
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筆者

梅田実

梅田実(うめだ・さとる) 朝日新聞総合プロデュース室主査

朝日新聞社入社後、マーケティング・ディレクター、広告営業などを経て、2014年から朝日放送に出向。CVC「ABCドリームベンチャーズ」の設立から国内外ベンチャー投資、協業による新規事業開発を経験。経産省の大企業イントレプレナー育成プログラム「始動」に選抜されシリコンバレーに派遣される。大阪市イノベーションハブ「大企業イントレプレナーミートアップ2017」プログラム講師・メンターも。2016年5月から総合プロデュース室価値創造チームイノベーションユニットの現職。

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