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ヨーロッパの事例から考える「日本のソーハラ」

働く環境や文化が異なる日本と欧州、フランスでは「オフラインになる権利」も

佐藤仁 情報通信総合研究所 副主任研究員

 「ソーハラ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。「パワハラ」(パワーハラスメント)や「セクハラ」(セクシャルハラスメント)は有名で、一般的に使われるようになっている。だが、まだ「ソーハラ」と聞いてもピンとこない人も多いかもしれない。

1.「ソーハラ」の何が問題なのか?

 「ソーハラ」とは「ソーシャルメディア・ハラスメント」のことで、厳密な定義はないもののFacebookやTwitter、Instagram、LINEなどいわゆるソーシャルメディアSNSにおいて、職場の上司と部下との関係を背景に行われる一種の嫌がらせ行為だ。

1-1.上司からの「友達申請」やコメントの強要

 例えば、上司が職場の部下に「友達申請」を要求して繋がりを求め、自分の投稿に「いいね」を押すようにと強要したり、「コメントしてよ」と迫ったりする行為が挙げられる。あるいは、部下の投稿をチェックし、部下が嫌がるようなコメントをしたりすることだ。一例として、休日に部下がプライベートで遊んでいる写真を投稿しているのに「僕は仕事で忙しいのに・・」などとその投稿にコメントをする行為があげられる。

 SNSの中でもTwitterやInstagramはハンドルネームなどでやっている人が多いが、Facebookはほとんどが実名で登録している。しかも多くの人が卒業した学校名、会社名、自分の写真まで、多くの個人情報を登録しているので、簡単に個人を特定されてしまう。そのため「SNSをやっていません」という言い訳も難しい。たとえ上司の側に「ハラスメント」の意識がなかったとしても、部下から見ると、上司からの「友達申請」を無視したり、「コメントしてよ」という依頼を断ったりすることは勇気がいることだ。また、上司には「嫌がらせ」やハラスメントの気持ちがなく、何げなく「友達申請」をしたり、部下の投稿にコメントをしたりすることも部下にとっては心の負担になる場合もある。

1-2.LINEで仕事の連絡

 また、職場の人同士がLINEやFacebook Messengerなどで仕事の連絡をすることも「ソーハラ」の1つと言えるだろう。現在では多くの人が電話やメールの代わりにLINEを利用している。そして上司からLINE交換を要求されて、断れない部下がLINEで繋がってしまい、そのLINEに仕事の連絡が来てしまうことがある。

 特にLINEなどのメッセージアプリは、読んだ際に「既読」マークがついてしまうため、従来のメールのように「読んでいません」という言い訳もできない。仕事終了後や休日などでもLINEなどで連絡が来てしまい、見てしまった以上、「既読スルー」(読んだのに無視)することもできないという人が多い。送る側は「ただ連絡として送っただけ」で、時間外での仕事を強要するつもりがなかったとしても、受け取った部下は終業後や休日のプライベート時間でも仕事内容の返事をせざるを得ないという状況になることがある。

 スマホやソーシャルメディアの普及に伴って、多くの人がインターネット上で情報発信をしたり、学生時代の友人や趣味が合う人など誰とでも簡単に繋がれる時代になった。従来のような電話やメールだけでなく、SNSではメッセージ機能が充実しているため、コミュニケーションの利便性も向上した。だが一方で、職場の上下関係や仕事が、個人のプライベート領域まで浸食してくるような新たな問題が起きている。

2.ヨーロッパに「ソーハラ」はあるのか?

 では、「ソーハラ」は日本だけのものなのだろうか。ここでは欧州を例にして見ていきたい。現在、日本だけでなく世界中でスマホが普及し、多くの人がSNSに登録している。欧州の人々もほとんど全員がスマホを所有し、FacebookやInstagramなどのSNSも利用している。バカンス中でも写真撮影のためにスマホは必需品になっているし、いつもニュースやSNSをチェックしていないと不安に駆られてしまう依存症のような人も多い。歩きスマホの事故やトラブルも発生している。だが、欧州では職場での「ソーハラ」問題をほとんど聞かない。職場での「ソーハラ」よりも、SNSによるいじめ問題やヘイト発言、フェイクニュースの拡散などの方が問題になることが多い。

2-1.働き方が異なる日本と欧州

 まず、欧州には日本のように上司が部下に「友達申請」したり「いいね」を強要するような職場での「ソーハラ」は、ほとんど見られない。もちろんハラスメントは本人が「嫌だ」と思ったら成立するので、皆無ではないだろうが、日本のように職場での「ソーハラ」が問題になることはほとんどない。

 この背景には働き方の違いがある。日本の職場は、仕切りのない島のようなデスク配置が一般的だが、欧州の職場は、個室で2人か3人で働くのが普通で、たとえ広いオフィスでもパーテーションで区切られていることが多い。そのため、周りに気を使って遅くまで残業することはほとんどなく、日本のような「つきあい残業」はみられない。また、欧州では夜や週末、休暇中など労働時間以外には、仕事の電話やメールの対応などはほとんど行わない。

 また、考え方の違いもある。欧州では「上司から友達申請来ちゃったけど、どうしよう?」といった考えは、ほとんどない。SNSが好きな上司から「友達申請」が来ても放置して無視している人も多い。また転職して仕事を辞めると、同僚や上司をFacebookの友達から削除するということもある。逆に、仕事をしている間は「友達」ではないが、転職したら「友達」となり、情報交換をしたり、仕事をもらうなど、後腐れなく辞めた人同士がSNSで繋がっているという使い方をしている人も多い。

2-2.休暇中なら仕事のメッセージも無視

 欧州でも、仕事でSNSやメッセージアプリを使用することが多い。従来はメールが中心だったが、Facebook MessengerやLINEに似たサービスでWhatsAppというメッセージアプリがよく利用されている。これはグループ機能が便利なことから、 ・・・続きを読む
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筆者

佐藤仁

佐藤仁(さとう・ひとし) 情報通信総合研究所 副主任研究員

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割などに関して研究しています。例えば、情報通信技術や国際秩序や安全保障体制をどう変化させたのか、そして新たなデジタルメディアやポップカルチャーなどコンテンツによって人間の行動パターンと文化現象はどのように進化してきたのかを解明していきたいと思っています。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。