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パウエルFRB議長で何が変わるのか

FRB議長の真価を問われるのは危機対応だが、次の危機にうまく対応できるかは未知数

吉松崇 経済金融アナリスト

金融政策は当面イェレン路線を踏襲

FRB次期議長指名の発表をするトランプ大統領(右)と指名を受けたFRB理事のジェローム・パウエル氏=ワシントン、ランハム裕子撮影 拡大FRB次期議長指名の発表をするトランプ大統領(右)と指名を受けたFRB理事のジェローム・パウエル氏=ワシントン、ランハム裕子撮影

 11月2日、トランプ大統領は、来年2月に退任予定のイェレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長の後任にFRB理事のジェローム・パウエル氏を指名することを発表した。FRB議長への就任には議会の承認が必要だが、承認は確実だと見られている。

 パウエル氏が指名されたことで、米金融機関を始めとする金融市場関係者は胸をなでおろしていることだろう。パウエル氏はFRBの現任の理事であり、さらに2012年の理事就任以来、FRBの金融政策決定機関であるFOMC(連邦公開市場操作委員会)で、主流派であるバーナンキ前議長やイェレン議長が主導する金融政策に一度も反対していないからだ。

 つまり、パウエル氏であれば、FRBの金融政策はこれまでイェレン議長が主導してきた路線から大きく変わることはないだろう、というのが市場関係者の見立てである。

 パウエル氏の他にFRBの議長への就任が取り沙汰されていたのは、テイラー・ルールで有名なスタンフォード大学のジョン・テイラー教授や前FRB理事のケヴィン・ウォーシュ氏であったが、この二人はFRBの現在の金融政策に批判的であり、いずれがFRB議長になっても金融政策の方針が大きく変わり、はるかに厳しい金融引き締め策が採られるのではないかと懸念されていた。

 トランプ大統領は就任後、選挙期間中の前言を翻して、イェレン議長の金融政策を高く評価する発言を繰り返して来た。だから、イェレン議長の再任も取り沙汰されていたのだが、「オバマ前大統領の決定事項は全て覆す」というのがトランプ大統領のアジェンダだから、オバマ氏が指名したイェレン議長の再任などあり得ない、ということなのだろう。トランプ氏は「私が新たな議長を指名することが重要だ」と語っている。

 とは言え、FRBの金融政策が大きく引き締めにシフトするのは困る、ということでパウエル氏の指名に落ち着いた、という話である。

パウエル氏とはどんな人物なのか?

 ジェローム・パウエル氏はエコノミスト出身ではなく、弁護士出身である。これはFRB議長の経歴としては特異である。イェレン現議長やバーナンキ前議長は、もとはアカデミズムの経済学者であり、その前任のアラン・グリーンスパン氏は在野のエコノミスト出身であった。そのまた前任のポール・ヴォルカー氏もニューヨーク連銀のエコノミストとしてそのキャリアを開始している。

 弁護士出身のFRB議長となると、1978年にカーター大統領が指名したウィリアム・ミラー氏にまで、つまり40年もさかのぼることになる。

 ミラー氏は、それ以前から昂進(こうしん)していたインフレの「火に油を注いだ」FRB議長として悪名高い。わずか1年半で、政権内から不満が噴出して実質的にクビになったことでも有名だ(「実質的」というのは、誰もFRB議長をクビにすることは出来ないので、形式的には自発的な辞任となったからだ)。弁護士出身で、大手コングロマリットのテクストロンの会長を務めていた人物であるが、「金融政策に関しては何の知見も持ち合わせていない人で、カーター大統領の指名はただのお友達人事だった」というのが定説である。

 FRBの歴史にはこういう不幸な出来事があったので、私は、FRB議長にはエコノミストが就任するのがアメリカの不文律だと思っていたのだが、トランプ大統領にとっては不文律を無視することなど大した問題ではないのだろう。トランプ大統領だから、別に驚きはない。

 パウエル氏は、ニューヨークの大手弁護士事務所を経て、1984年から1990年まで、ウォール・ストリートの投資銀行、ディロン・リードに勤務している。その後、1990年に財務省に移籍しているが、これはおそらく、当時(ジョージ・H・W・ブッシュ政権)のニコラス・ブレイディー財務長官がディロン・リードの出身であることが関係しているものと思われる。財務省を離れた後は、幾つかの金融機関勤務を経て、投資ファンド、カーライル・グループのパートナーを務めている。

 弁護士出身とは言っても、その経歴はウォール・ストリートや財務省なので金融のプロであることは間違いない。その意味では、ミラー氏と比較するのは失礼なのかも知れない。だが、金融のプロであることと金融政策のプロであることは大きく違う。経済学のアカデミック・トレーニングを受けていないことを不安視するのは、私だけではないだろう。

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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