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訪日外国人誘致へ国立公園をどう生かすか

観光資源としての魅力アップと、自然保護のための「過剰利用」回避の両立を

柘植隆宏 甲南大学経済学部教授

訪日外国人と国立公園

拡大草紅葉の赤と秋の青空が鮮やかなコントラストを織りなす秋の小田代原=日光国立公園

 南北に長い国土と起伏に富んだ地形を持つ日本には多様な自然が存在する。また、ほとんどの土地を国が所有するアメリカなどの国立公園と異なり、4分の1以上の土地が私有地である日本の国立公園では昔から人が生活してきた。そのため、日本の国立公園では、優れた自然だけでなく、その土地特有の歴史、文化、食などが楽しめる。このような日本の国立公園は、外国人にとって魅力的な観光地になりうると考えられるが、これまではその魅力を外国人に伝えられておらず、ポテンシャルを活用できていなかった。

 この状況を改善するため、環境省は2016年に「国立公園満喫プロジェクト」を開始した。このプロジェクトでは、外国人の受け入れ態勢を整備するとともに、海外向けのプロモーションにより日本の国立公園の知名度を向上させることで、訪日外国人(インバウンド)の国立公園利用者数を、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年には年間1000万人(2015年の年間490万人の2倍以上)に増やすことを目指している。

 政府は、2016年に「明日の日本を支える観光ビジョン」において、訪日外国人を2020年までに4000万人(2015年の約2000万人の2倍)に増加させるという目標を設定した。国立公園満喫プロジェクトは、その目標を達成するための施策の1つに位置づけられている。このプロジェクトには、2016年度と2017年度の関連予算で計約200億円が計上されている。

国立公園満喫プロジェクト

 海外での日本の国立公園の知名度は高くない。また、日本の国立公園は外国人の利用を想定して整備されていないことがほとんどである。そのため、外国語で利用者への対応ができるスキルを持ったスタッフは限られており、案内表示なども外国人への配慮がなされていないものが多い。外国人向けのイベントやツアーも多くない。

 国立公園満喫プロジェクトでは、多言語による情報の提供、外国人が楽しめる滞在プログラムやツアーの提供、ビジターセンター等の施設整備、上質なホテルの誘致、海外に向けたプロモーションなど、これらの問題を改善するための取り組みが行われている。

 また、計画的、集中的に取り組みを実施する8つの国立公園(阿寒摩周、十和田八幡平、日光、伊勢志摩、大山隠岐、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島)が選定されている。これらの国立公園では、具体的な取り組み方針を記載した「ステップアッププログラム2020」に基づき、魅力向上につながる様々な取り組みが行われている。例えば、大山隠岐国立公園では、廃屋を撤去し、跡地にはカフェや物販機能を備えた施設を整備する予定である。利用者に廃れたイメージを与える廃屋などを撤去する「引き算の景観改善」は、十和田八幡平国立公園や日光国立公園などでも実施が予定されている。

 ビジターセンターや展望台などの公共施設の民間開放も行われている。例えば、伊勢志摩国立公園では、英虞湾の美しい景色を一望できる展望台に民間のカフェを導入する。さらに、8つの国立公園での成果や知見を全国の国立公園に展開することを目的として、インバウンドの拡大や利用の質の向上を図る事業に取り組む地域や団体を支援する「国立公園満喫プロジェクト展開事業」も始まった。

 国立公園管理事務所の設置をはじめとした管理体制の強化や、プロモーションを目的とした企業とのパートナーシップの締結、国立公園統一マークとブランドスローガン「その自然には、物語がある。」の設定、SNSを利用した情報発信なども行われている。

観光資源としての国立公園

 2018年1月現在、日本には34の国立公園が存在する。国立公園は、優れた自然の風景地を保護することと、その利用の増進を図ることを目的として作られた「自然公園法」に基づき指定される。このため、国立公園は自然の風景地の保護と利用の増進という2つの役割を担ってきた。2009年の自然公園法改正では「生物の多様性の確保に寄与すること」が法の目的に追加されたため、現在は国立公園もその役割を担っている。

 国立公園は利用も目的としているため、訪日外国人を呼び込む国立公園満喫プロジェクトは、その趣旨に反するものではない。より多くの外国人が国立公園を訪れるようになれば、 ・・・続きを読む
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筆者

柘植隆宏

柘植隆宏(つげ・たかひろ) 甲南大学経済学部教授

1976年生まれ、奈良県出身、神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。高崎経済大学講師、甲南大学准教授などを経て2014年から現職。専門は環境経済学。主著『初心者のための環境評価入門』(共著、勁草書房)、『環境評価の最新テクニック』(共編著、勁草書房)。