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仮想通貨の巨額流出問題で、金融庁が強権発動

「仮想通貨バブル」崩壊ののろし? マウントゴックス事件の教訓生きず

深沢道広 経済・金融ジャーナリスト

激震が走った金融庁

コインチェック本社が入るビルの玄関。金融庁が立ち入り検査に入った=2月2日午前、東京都渋谷区拡大コインチェック本社が入るビルの玄関。金融庁が立ち入り検査に入った=2月2日午前、東京都渋谷区

 仮想通貨取引所大手のコインチェック社から仮想通貨(NEM)5億2300万XEM(約580億円に相当)が外部流出した問題で、金融庁に激震が走っている。

 金融庁は他の関係業者31社に対し、顧客資産の管理状況などについて緊急の一斉調査に乗り出さざるを得なくなった。コインチェック社にも早期の業務改善命令に加え、実態把握のため検査局が異例の立ち入り検査を始めた。同社の財務状況の確認や内部管理体制を常時監視する必要があると判断した。コインチェック社が特殊な事例なのか、ずさんなセキュリティーや資産管理の取引所が他にもあるのかに注目が集まっている。

 金融庁がしびれを切らしたのは、同社からの報告が不十分で、返金原資や内部管理体制の実態がつかめないからだ。流出発覚を契機に、仮想通貨全体の信頼が揺らいでおり、価格は乱高下している。

 仮想通貨の情報サイト「コインマーケットキャップ」によると、1月上旬に過去最大だった仮想通貨全体の時価総額は約96兆円から、2日正午時点で46兆円と半減。6日午後には30.9兆円まで急減した。この1週間で、時価総額の半分が吹き飛んだ。日本発の流出問題を契機にこれまで世界的に熱狂が続いていた仮想通貨市場にも影響が出るのは必至だ。

法規制から1年立たず、限界露呈

会見の冒頭で謝罪するコインチェックの和田晃一良社長(手前)、大塚雄介取締役(中央)ら=1月26日、東京都中央区拡大会見の冒頭で謝罪するコインチェックの和田晃一良社長(手前)、大塚雄介取締役(中央)ら=1月26日、東京都中央区

 2017年4月、仮想通貨を円やドルといった法定通貨に準じる決済手段と定めた改正資金決済法が施行され、仮想通貨を取り扱う取引所が金融庁や財務局に「仮想通貨交換業者」として登録する制度が設けられた。金融庁が取引所を運営する関係業者を監督する体制が法令上初めて整った。

 改正法では、コインチェック社など以前から取引所を運営していた業者は「みなし業者」となり、9月末までの経過措置で「みなし業者」として業務運営が可能だった。改正法による業登録が義務付けられることを受け、取引所を運営する業者のうち一部は9月末までに廃業した。

 コインチェック社は、14年から取引所を運営してきた大手の一角。それでも12年8月に設立されたベンチャー企業で従業員数は71人(17年7月末)、資本金は9200万円の新興企業。外国為替証拠金取引など金融庁登録もなければ、バックに巨大資本がついているわけではない。

 同社は17年10月以降も取引所運営を継続するため、金融庁へ仮想通貨交換業者として登録申請をしていたが、金融庁側からは登録要件を満たしていないと判断されていた。金融庁が登録を認めるか、登録を拒否するまでの間は「みなし業者」として運営可能だったため、取引所を運営することができた。

メンツ丸つぶれの金融庁専門チーム

 ある金融庁幹部は「本登録前のみなし業者であったから、まだ助かった。本登録した後であれば、金融庁に批判の矛先も向けられていた」と胸をなでおろすが、関係者の心中は穏やかではない。

 金融庁は昨夏以降、監督局内に仮想通貨モニタリング長を置くなど、検査局や財務局を含む約30人の横断的な専門チームで登録業者の監督・検査(モニタリング)を始めようとしていた矢先、今回の巨額流出事故が発覚したためだ。さらに同社の事後対応についても「とにかく最悪だ」という。

 仮想通貨をめぐっては、世界最大のビットコイン取引所だったマウントゴックス社の事案が教訓になる。14年2月に85万ビットコイン(当時のレートで約470億円相当)が消失した同社の事案などがあったものの、4年後、コインチェックの顧客資産が再び消えた。

 マウントゴックス社の消失は、警視庁の解析の結果、サイバー攻撃による消失は全体の約1%で、残り99%はシステムの不正操作、つまり内部犯行によって消失した可能性が高いと結論付けされ、同社のマルク・カルプレス社長が逮捕。顧客資金の一部も着服したとして再逮捕された。今も刑事裁判が継続中である。

 当時は金融庁などへの登録制度自体もなかったうえ、マウントゴックス社の顧客約12万7000人の大半が外国人で、日本国内で問題は大きく広がらなかった。しかし、今回のコインチェック社の流出は違う。同社は現時点で「みなし業者」とはいえ、金融庁への登録申請中の正規の金融業者で、しかも同社の顧客の大半は日本人なのだ。

 ある金融庁幹部は「事後チェック型行政の弊害がまた出てしまった」と頭を抱えていた。銀行などからの過剰な接待で揺れた旧大蔵省への風当たりもあり、行政が許認可を与える従来の行政方針から転換し、業界やビジネスの発展に水を差さないよう規制の在り方を改めた。この結果、顧客資産が消失するような問題が起きて初めて規制当局は被害状況を把握できるに過ぎなくなった。

 顧客資産が消失した後の事後対応はどうしても後手に回ってしまう。 ・・・続きを読む
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筆者

深沢道広

深沢道広(ふかさわ・みちひろ) 経済・金融ジャーナリスト

1978年生まれ。慶応大学商学部卒業後、編集者として勤務。05年青学大院経営学研究科会計学専攻博士前期課程修了。格付投資情報センター(R&I)入社。R&I年金情報、日本経済新聞の記者として勤務。12年のAIJ投資顧問による2000億円の巨額年金詐欺事件に係る一連の報道に関与し、日経新聞社長賞を受賞。24億円の巨額横領、贈収賄事件など年金ガバナンス、資産運用の諸問題を明らかに。17年7月退社。

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