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文書の改ざんは森友事件の本質的な問題ではない

〝もやもや感〟が残る国会―真の政治リーダーがやるべきことは何か

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 森友事件の真相解明を目指して、国会では証人喚問などが精力的に行われている。おそらく証人の範囲を広げても、野党が望むような成果は得られないだろう。しかし、仮に財務省が安倍夫妻に対する忖度(そんたく)を認めたとして、どうなるのだろうか? 安倍内閣の退陣につながるだけで、忖度を生む土壌はなにも変わらない。マスコミも識者も野党も表面上の事態究明を求めるだけで、本質的なものの究明・解決を求めていないような気がするのである。

事務方が自発的に行う改ざん

衆院予算委での証人喚問を終え、国会を出る佐川宣寿・前国税庁長官(中央)拡大衆院予算委での証人喚問を終え、国会を出る佐川宣寿・前国税庁長官(中央)

 文書の改ざん問題を聞かれた役人OBの多くは、「あってはならないこと」だと答える。面と向かって聞かれると、そう答えるしかない。

 しかし、10年前に制定された公文書管理法の公文書の定義(行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの)は広範で、官報に載る法令、告示など公になっている文書のほかに、昔だったら役所組織の内部文書に過ぎないと理解されているようなものまで含まれる可能性がある。

 今回も決裁の添付文書である。心の中では、「あの状況だと、普通の役人ならやっただろう」と思っているのではないだろうか。同じような考えを持つ役人OBもいる。

 財務省や佐川元理財局長が答弁しているように、文書の改ざん自体について、総理や財務大臣など財務省事務方以外からの指示がなかったことは事実だろう。改ざんは、佐川元理財局長が含まれるかどうか不明だが、事務方が自己の判断で自発的に行ったのである。世の期待を裏切るかもしれないが、おそらく、これが真実だろう。

問題は値引き売却の妥当性

 しかし、今回の事件で重要なことは、改ざんを誰が指示したかではなく、安倍夫妻と森友学園との特殊な関係を財務省が特別に配慮(忖度)して、国有地を不当に安く売却したかどうかである。

 また、安倍総理は夫人ともども直接関与(口利き)していないと主張しているが、そのこと自体も事実だろう。問題は安倍夫妻の関与の有無ではなく、財務省が安倍夫妻の気持ちを忖度して、森友学園に便宜を講じたかどうかである。

 本件には、忖度があったことをうかがわせる状況証拠が揃っている。これが国民の疑惑を生んでいる。

 まず、森友学園と安倍夫人との間に、安倍夫人が名誉校長となるなどの特別な関係が存在している。次に、森友学園の理事長は、財務省と折衝する過程で、安倍夫人との特別な関係や「安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから、前に進めてください』とのお言葉をいただいた」という話を強調して、圧力をかけている。

 さらに、同理事長から依頼を受けた安倍夫人付きの公務員が、安倍夫人の了解の下で財務省に案件処理の照会を行っている。また、財務省側もこれらを記録に残している。つまり財務省側は、安倍夫妻と森友学園との間に特別な関係があること、したがって本件が通常の国有地売却と異なる特殊な事案であることも認識している。

 このような事情の下で、役人が本件を通常の案件と同様に処理できるだろうか?

 民間の場合でも、例えば、人気のある芝居の興業を行っている人が、重要な取引先または親会社の社長から、「頼むから切符を融通してほしい」と言われたとき、「ルールですから普通の人と同じように列に並んでください」と言えるだろうか? 古いセリフだが、「あなただったら、どうする?」

忖度だらけの霞が関

 このような忖度は、霞が関の行政では異常なことではない。政治家が口利きをしなくても、重要な政治家だったら当然のように忖度が行われる。

 行政には役人の裁量範囲が広いものが多い。例えば、有力な政治家の地元から補助金の申請があれば、政治家が発言しなくても、裏側で〝特別の配慮〟がなされやすい。裁量の範囲内なので、違法とは言えないし、AよりもBの案件の方がよかったなどは、後付けでいくらでも理由を考えられる。

 今回の事件が問題化したのは、裏で処理しようとしたものが、朝日新聞によって表に出てしまったためである。

 私の経験を紹介しよう。

 ある国際機関の場で、ある国から〝環境に優しい物品〟についての関税を撤廃しようという提案がなされた。ところが、この〝環境に優しい物品〟には、有力農林族議員の地元農産物が含まれる可能性があった。このため、農林水産省は外務省とともに、この農産物が対象とならないよう、他の案件はそっちのけで、大変な努力を傾注することになった。霞が関が忖度したのだ。

口利きもある

 もちろん政治家からあからさまな働きかけが行われることもある。口利きである(今回の事件では、これは否定されている)。 ・・・続きを読む
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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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