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高騰する看護職員紹介手数料

厳しい人手不足の解消、ハローワークとナースセンターの強化が必要だ

堤信之 日本医師会総合政策研究機構 主任研究員

 厚生労働省「平成28年度職業紹介事業報告書の集計結果」によれば、看護職員(看護師、准看護師、保健師、助産師)の採用に関して医療機関が有料職業紹介事業者(以下「人材紹介会社」)に支払った紹介手数料総額は、年間360億円超に上る。医療関連職種の職業紹介に関わる規制緩和の後、同事業の市場規模は急拡大し、看護職員不足を背景にした人材獲得競争の激化に伴い、紹介手数料は毎年増大している。

 言うまでもなく、その支払い原資の大半は公的医療保険の主たる財源である税金と保険料であり、その貴重な財源が、国民に還元できない形で医療以外の業界に流出することは望ましいことではない。日本医師会をはじめ各病院団体では従前から強い問題意識を持ち、調査を通じて、医療機関が人材紹介会社に依存せざるを得ない実態を明らかにし、労働行政に対して強力にその是正の申し入れを行ってきた。

 しかし、日本医師会総合政策研究機構で全国4,000の医療機関を対象に実施した2017年調査(有効回答数844;ワーキングペーパーNo396「看護職員等の医療職採用に関する諸問題:アンケート調査の分析と考察」、以下「本調査」)では、依然として上記実態の改善には至っていないことが明らかになった。

 そこで本稿では本調査結果を交え、看護職員がどの程度不足しているのか、そして看護職員採用に関して各医療機関でどの程度の額の紹介手数料を支払っているのかの実態を確認したうえで、看護師紹介手数料が高騰化してしまう背景および今後の見通しについて考察し、最後に、今後の対策として考えられることを提示した。

看護職員の要員不足状態は解消せず

1.看護職員は現状および中期的な見通しにおいても、要員不足状態が解消せず、2025年までに約3万人~13万人の需給ギャップが生じると指摘されている。(図表①、②参照。出典;厚生労働省・医療従事者の需給に関する検討会 第1回看護職員需給分科会 資料3)

図表①:看護職員の需給に関する基礎資料「第七次期間の看護職員需給見通しと就業者数」
 
図表②:看護職員の需給に関する基礎資料「2025年に向けた看護職員の推計」
 本調査でも、看護職員が「不足している」または「不足することがよくある」と回答した医療施設の割合は、民間施設・公的施設別、病床規模別、立地条件別を問わず高く、全体では約2/3を占め、逼迫(ひっぱく)度合いの高さが確認された。

紹介手数料は年々大きく増加

2.看護職員採用に関する紹介手数料は、厚生労働省(出典;職業紹介事業報告書集計結果)によれば、下表の通り年々大きく増加し、2016年度には360億円を突破した。

看護職員採用に関する紹介手数料の推移

 本調査によっても、人材紹介会社の利用率、1医療機関が全職種・全雇用形態の職員採用に関して支払った紹介手数料総額や1医療機関当たり平均支払額ともに増加傾向が確認された。また他方では、紹介会社経由で採用された看護職員の早期(採用後半年ないし1年以内)離職率が、全体に比べ明らかに高く、何らかの問題の内在を示唆する結果となった。

紹介手数料高騰化の背景に需給のアンバランス

3.看護職員紹介手数料高騰化の背景および今後の見通しであるが、(1)需給のアンバランスを背景に、(2)民間有料事業者がメインプレーヤーとして営業活動を行い、(3)求職者の支持がそこに集まり、(4)求人者がそれに頼らざるを得ない、という諸条件が成り立つ限り、紹介手数料の高騰化は解消されないと考える。

(1)需要が供給を上回るアンバランスは、このまま手をこまぬいていては解消できない。
①「人口構造の変化=高齢化」と「医療制度の変化」が需要に影響を及ぼす2大要素である。高齢化が着実に進む(=需要増)のに比べ、医療制度としては、需要緩和の方向性(看護配置基準7対1の施設基準の厳格化、地域包括ケア病棟等への転換等による10対1以下の看護配置基準への政策誘導)は示されているが、

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