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もうやめて!「減反廃止」の“誤報”

安倍首相が振りまいたフェイクニュースの連鎖が止まらない。NHKも……

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

拡大安倍首相は昨年の総選挙で刈り取り目前の田んぼを背に第一声をした=2017年10月10日、福島市

 NHKが5月9日に放送した特集「"減反廃止"でもコメの生産が増えない」を見て、私は「またか」と力が抜ける思いがした。

 その内容は「減反政策が今年廃止された。しかし7割を超える都道府県が前年並みの作付けで生産を増やそうとしていない」としたうえ、北海道の米農家を登場させて「高齢化・人手不足」を理由に挙げるものだった。他方、「飼料用米に国から手厚い補助金が出るため、弁当などの業務用の米が不足し、価格が上昇している」とも報じた。

 私がWEBRONZAの「アベノミクスが壊す〝みずほの国・日本〟」(2018年1月9日)「減反は廃止されるどころか強化されていた」(2016年12月19日)で繰り返し指摘してきたように、「減反廃止」は安倍晋三首相が自ら振りまいたフェイクニュースである。

 補助金を与えて減反させるという基本的な仕組みは何も変わっていない。にもかかわらず、日本のマスコミは「減反廃止」を既定路線のように報じ続けているのだ。

「挙国一致」のフェイクニュース

 減反とは、価格の維持を目的とした生産調整である。

 減反政策の見直しにほとんど関与しなかった安倍首相が2014年に「40年間誰も出来なかった減反廃止を行う」と大見栄を張った時、減反政策の見直しを行った自民党農林族幹部も農水大臣以下の農林水産省の担当者も「減反の廃止ではない」と明白に否定していた。

拡大NHK放送センター=東京都渋谷区

 トランプ大統領が原稿なしの不規則発言をし、政府高官がその内容を否定するという今の米国とまるで同じ状況である。

 米国と違うのは、日本のマスコミが裏付け取材をしないでこのフェイクニュースに飛びつき、大々的に報道した結果、安倍首相がその後に国会で発言を撤回したにもかかわらず、フェイクニュースが訂正されないまま今日まで来てしまったことだ。安倍首相自身は、撤回後は減反廃止という発言はしていないようだ。

 正確な報道をしたのは、農協の機関誌である日本農業新聞だけだった。こうして行われもしない「減反廃止」が定着した。「挙国一致」のフェイクニュースと言って良い。

 減反が廃止されたら生産が増えて価格が低下するはずだが、実際には逆の現象が起きているため、NHKの特集はその理由として「高齢化・人手不足」を挙げていた。そう位置づければ、安倍首相が掲げた「減反廃止」による政策効果(生産の増加)がなかったことにはならないと考えたのだろうか。NHKが安倍首相を忖度したかのようである。

飼料米が増え、「減反」は強化された 

 事実関係を整理しよう。水田面積10ヘクタールの米農家は、6ヘクタールで米を作り、4ヘクタールで麦や大豆など他の作物を作っている。この他作物の作付けを「転作」または「減反」と言う。

  主食用(家庭用と業務用の合計)の米の価格は他作物に比べて高いため、他の作物を作っても主食用米の水準の収益が得られるよう、政府は農家に補助金を与えて転作・減反を実施させてきた。同じことを逆の側面から言うと、補助金を与えて転作・減反させることで主食用米の供給を減少させ、主食用米の価格を高く維持してきたのである。

拡大山形県酒田市の美田地帯(本文とは関係ありません)

 これに対し、多くの兼業農家が他の作物を植え付けても収穫しないという”捨て作り”という対応をしてきた。それでも米を作らないという減反政策の目的は達成できるため、政府は見て見ぬふりをしてこうした兼業農家にも補助金を支給してきた。

 だが、これは褒められたことではない。そこで、米農家なのだから麦は作れなくても米は作れるはずだとして導入したのが、主食用米とは用途が違うだけの飼料用米を転作作物として認める減反補助金だった。

 安倍総理が「減反廃止」と大見栄を張った政策の見直しは、この飼料用米を対象とした減反補助金の大幅増額だったのだ。

 増えたのは主食用の米ではなく、市場での価値はタダ同然の飼料用の米である。減反は廃止されていない。それどころか逆に強化され、米価は上昇しているのだ。

「人手不足で米を作れない」のまやかし

 さりとて、NHKとしては今さらフェイクニュースを訂正できない。「高齢化・人手不足」のため主食用の米の生産を増やしたくても増やせないという理屈をとってつけるしかなかったのではないか。 ・・・続きを読む
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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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