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トランプには法的手段で対抗せよ!

北朝鮮が「核のならず者」なら、米国は「貿易のならず者」だ

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

拡大ホワイトハウスで記者からの質問に答えるトランプ米大統領=ワシントン、2018年5月25日

2国間交渉で「貿易赤字縮小」迫る

 米国のトランプ大統領が安全保障を理由に、鉄鋼やアルミに続いて自動車についても関税の一方的な引き上げを検討するよう商務長官に指示した。

 日本政府は鉄鋼やアルミについて日本を適用除外とするよう米国に働きかけてきたが、失敗した。米国が適用除外にしたのは、米国が貿易黒字となっている国と自由貿易協定交渉を行っている国だった。鉄鋼やアルミの関税引き上げを交渉材料として、対米貿易が黒字(米国にとっては赤字)の国にその縮小策を提示するよう2国間交渉で迫る米国の狙いが明らかになったのだ。

 2国間の自由貿易協定交渉を拒んでいる日本に対し、鉄鋼やアルミの関税引き上げの適用除外をしてもらいたいのなら2国間交渉に応じろと要求しているのである。

 中国に対して知的財産権の侵害等を理由とした通商法301条に基づく関税引き上げを行おうとしているのも、結局は中国の対米貿易黒字を縮小することが狙いである。

 自動車についても、米国の交渉ポジションは鉄鋼やアルミの場合と同じだろう。安全保障を掲げつつ、実際は米国の貿易赤字を縮小するよう、日本に2国間交渉を求めているのである。

自動車関税「10倍の25%」の衝撃

 日本の鉄鋼業界にとって、対米輸出はそれほど大きなものではないが、自動車業界にとって対米輸出は極めて重要である。輸出額の約4割、4.6兆円にも上るのだ。

拡大北米国際自動車ショーで登壇したトヨタ自動車の豊田章男社長=2017年1月9日、米ミシガン州デトロイト

 米国の現在の自動車関税は2.5%であるが、トランプ政権はこれを10倍の25%に引き上げる検討をしているという。2.5%は小さい数字に見えるかもしれないが、フォードなど米国自動車業界にとっては極めて重要なものだ。

 TPP交渉でこの関税を撤廃することに対し、フォードは日本の自動車業界に10億ドル(1000億円超)の贈り物をするようなものだと言って強く反対した。なぜなら、日本の自動車業界は、普及車は米国で現地生産し、高級車(トヨタならレクサス)は米国に輸出してきたからである。高級車は単価が高く、低い税率でも関税は大きなものとなる。

 TPP交渉では、日本が農産物の関税を維持することと引き替えに、自動車の2.5%の関税は25年という信じられない期間をかけた後にやっと撤廃されることになった。

 それを10倍の25%に引き上げるというのである。1円でもコストを下げるよう日々努力している日本の自動車業界にとって、とんでもない打撃だ。

 高関税によって米国内で販売される日本産の自動車価格が上昇すれば、日本の自動車業界は需要の減少と米国車の競争力向上の二重の影響を受ける。

 トランプ政権は、鉄鋼やアルミの関税引き上げで日本政府は動揺しないだろうが、自動車の高関税なら日本政府を2国間交渉に引き出せるとみた。日米自由貿易協定交渉に持ち込むことができれば、米国は自動車の高関税を取引材料にするだけでなく、農産物関税の撤廃も要求して、日本政府に圧力をかけることができる。その結果として、トヨタにレクサスの生産ラインを米国に持ってこさせれば、貿易赤字解消と雇用増大の一挙両得の結果になる。

米朝は瓜二つ「国際ルール破り実利」

 米国の措置は、約束した(ここでは2.5%)以上の関税を課さないとするWTO協定違反である。

 安全保障を理由にしているものの、それとは全く別の基準や理由で適用除外国を認めており、安全保障を理由にしたWTO協定の例外規定を援用することはできない。措置の根拠となった米国の国内法にも違反している。

 ここで問題なのは、WTOはドーハラウンドという貿易自由化交渉に失敗し、WTO違反の行為を是正出来ない場合もあって、権威が低下していることだ。

 国家よりも反社会的組織が力を持つ国を想定しよう。この国で反社会的組織が民間人所有の土地に了解も得ずに建物を作った。所有者が建物撤去を要求したら逆に巨額の金銭を要求された。所有者は裁判所に訴えて原状回復を求めたいのだが、国家は反社会的組織より弱く、言いなりになるしかない。反社会的組織を米国、裁判所や国家をWTOに置き換えるとうまく当てはまる。

拡大並んで歩くポンペオ米国務長官(左)と金正恩朝鮮労働党委員長=労働新聞ホームページから

 同じことを行っているのが、北朝鮮だ。核拡散防止条約に違反して核兵器を保有し、その核兵器をなくすことを条件に米国をはじめ国際社会から体制保証など自国に都合の良いものを引き出そうとしている。

 私には、トランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長とが、ダブって見える。似たもの同士なので米朝首脳会談でも波長が合うかもしれない。

米国に「適用除外」を求めるな

 米国に適用除外を求めたら、米国の思うつぼだ。適用除外を求めることは、米国の自動車関税引き上げが正当であると認めたことになる。日本はこれ自体が不当であると主張すべきだ。 ・・・続きを読む
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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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