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「中国」に惑わされず、RCEPよりTPP拡大を

参加国のGDP規模を重視する日本政府。大事なのは「規模」より「規律」だ

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 

拡大日中首脳会談に臨む習近平国家主席(右)と安倍晋三首相=2017年11月11日、ベトナム・ダナン

日中の主導権争いから生まれたRCEP

 7月1日に東京でRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の閣僚会合が開始される。RCEPとは、ASEAN10カ国に日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6カ国を加えた16カ国が、貿易の自由化や投資の保護を推進しようとする協定であり、2012年から交渉されている。

 WTO(世界貿易機関)での貿易自由化等の交渉が頓挫しているため、世界ではTPP、日EU、米EUなどの多くの国や大きな経済が参加するメガ・FTA(自由貿易協定)が結ばれたり、交渉が進んだりしている。RCEPもその一つ。APEC(アジア太平洋経済協力会議)では、TPPと並んで、アジア太平洋地域での貿易自由化などの経済統合を促進するFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)を実現するための方法であると位置づけられている。

 表向きは、RCEPはASEANの提案によるものだとされている。しかし、以前から東アジア地域の経済統合を推進するという観点から、ASEANプラス3(日本、中国、韓国)を唱える中国に対して、中国の影響が大きくなりすぎることを警戒する日本は、日中韓の3か国にインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えたASEANプラス6を実現すべきだと主張し、対立してきた。

 2010年アメリカも参加するTPP交渉が開始され、日本もこれに参加するという動きを示す中で、中国は東アジア地域の経済統合から取り残されるのではないかと焦り、日本のASEANプラス6の考えを受け入れ、2012年からRCEP交渉が立ち上げられたというのが、真実だろう。

世界GDPの3割

 7月1日からの閣僚会議を前に、日本経済新聞は6月20日、21日の「経済教室」で2回にわたりRCEPを推進すべきだという大学教授の主張を掲載している。

 アメリカが保護主義に走る中で、RCEPによって自由貿易体制を推進することには意義がある。アメリカが抜けたTPP11は世界のGDPの13%を占めるだけなのに、RCEP交渉参加国のGDPは世界の3割を占める。TPP11にはASEANの4か国が参加するに過ぎないのに対して、RCEPにはすべてのASEAN諸国が参加するので、東アジア地域の生産ネットワークの深化につながる。

 私は、これらの議論を否定するものではない。しかし、経済的側面に限っても、RCEPを推進することのマイナス面も存在する。

拡大北京には2014年11月、知的財産権を巡る訴訟を専門に扱う裁判所も新設された=2015年2月14日

中国の存在が「規律」を後回しにする

 まず、RCEP交渉自体円滑に進んでいない。交渉開始からすでに6年が経過している。

 物の貿易の自由化について、インドは関税の削減や撤廃に極めて後ろ向きである。知的財産権や電子商取引などのルール作りの交渉では、高いレベルのルールを求める日本、韓国、オーストラリアに対して、中国やインドは反対している。

 WTOのドーハラウンド交渉が頓挫した大きな要因は、貿易の自由化をさらに推進し、25年前の1993年に合意されたルールを時代に合ったものにしようとする先進国に対して、途上国の大国を自認する中国やインドが消極的な態度をとり続けてきたことである。これらの国が参加するRCEPに、TPP並みのレベルは期待できないだろう。

 さらに、一定の労働基準や環境規制の遵守を要求し、これを緩めることによって自国の産業の競争力を高めようとする、いわゆる“底辺への競争”(race to the bottom)という行為に規律を課そうとする “貿易と労働” “貿易と環境” という分野、さらには補助金や規制によって保護される国有企業が外国企業よりも有利に競争できることになっていることに対する規律など、これまでWTOではカバーされず、TPP交渉で合意された重要な柱は、RCEP交渉の対象になっていない。これらを交渉することに、中国は大きな困難を抱えるからである。

 日本の政府もマスコミもメガFTA参加国のGDP規模の大きさを強調してきた。FTAの対象となる市場が大きくなることは事実であるが、GDPの大きさだけがFTAの価値を決めるものではない。ほとんど関税も削減しない、WTO以上のルールや規律は設定しない、という内容の乏しいFTAでは、いくら参加国のGDPが大きかったとしても現状に大きな変更を加えるものではない。

スパゲッティボール効果

 さらなる問題は、複数のFTAが重複することによって、それぞれの関税、ルール、規則などがこんがらがったスパゲッティのように錯綜して貿易が混乱するという「スパゲッティボール効果」である。

 TPP11と日EUのFTAは対象となる地域が異なるので、このような問題は生じない。しかし、TPP11とRCEPの参加国には重複がある。スパゲッティボール効果を避けるためには、一つの大きなFTAに関係国すべてが参加することが望ましい。

 自由貿易の推進や新しいルールの設定の両面でレベルの高いTPPに、アジア太平洋地域の経済を統合すべきだろう。

拡大TPP首脳会合で発言する米国のオバマ大統領(右)と米通商代表部(USTR)のフロマン代表(左)=2014年11月、北京の米国大使館

TPP拡大こそ本筋だ

 アメリカのオバマ政権は、TPPを新しい通商・投資のルールを作る21世紀型の自由貿易協定だと誇らしげに語っていた。しかも、マスコミで報道されている内容と異なり、オバマ政権にとって、TPPは中国を排除しようとする仕組みではなく、この高いレベルの規律が適用されるアジア太平洋自由貿易圏に中国を取り込むための仕組みだった。

 TPPにおいて、中国と同じ社会主義国でありかつ多数の国有企業を抱えるベトナムと交渉することで、国有企業に対する高いレベルの規律を作る。将来TPPが拡大すると、中国もこれに参加せざるを得なくなる。そのときに中国に国有企業に関する規律を適用しようとしたのである。 ・・・続きを読む
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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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