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③自民を代表する“増税派” 柳沢伯夫元金融相

財政金融政策の中枢にいた重鎮は財務省の後輩たちへ厳しい言葉を送る。その思いとは

原真人 朝日新聞 編集委員

 

小泉政権時代、自民党の郵政改革関係合同部会に出席した与謝野馨政調会長と柳沢伯夫政調会長代理(右)=2005年4月14日、東京・永田町で

与謝野氏と並ぶ「社会保障と税の一体改革」の立役者

 政界で「財政のご意見番」と言ったら誰だろうと考えたら、すぐに柳沢伯夫さんの顔が浮かんだ。平成の30年間の後半にあたる2000年代以降で、政治家から「財政再建MVP」を選ぶなら、最有力候補の一人である。

 大蔵省出身の良識派。自民党内でも経済政策通として広く認められてきた。主催する勉強会には若い議員たちが集い学んだ。その実力は金融危機のさなか、初代金融再生委員長(金融再生担当相)として発揮された。このときの働きぶりは、海外経済誌から「アジアのパワフルな政治家」8位に選出されたことでもわかる。

 消費増税が封印された小泉政権以降の歴代政権のもとで、財政再建派の意見は抑え込まれた。そこで故与謝野馨氏とともに少しずつ布石を打ち、「社会保障と税の一体改革」につなげた影の立役者である。

 増税の必要性も政治的な難しさもすべてわかった政治家の過去の総括、そして現在の評価と未来への展望をぜひ聞いていただきたい。

柳沢伯夫さん。金融相、厚生労働相、自民党税調会長などを歴任した=2018年3月26日

財務省が正論を吐かなくなった。主計局の責任は大きい

 財政問題を現実的に、そして政治的に進めていくのはパズルのようにかなり難しい問題です。

 理屈のうえでは消費税を30%にすれば解決します。だが現実にはそんな大増税はできません。一方で不思議なことに、これだけ借金財政になっても政府の信用はなくならず、日本国債を買ってくれる人がまだいます。

 (借金財政を支える)日本銀行の異次元緩和は5年たっても、黒田東彦総裁が掲げたインフレ目標を達成するにはほとんど効果を生みませんでした。リフレ政策がなぜ効かないかを解明することに経済学者はもっと力を尽くすべきでした。

 我々の世代は単純化されたケインズ理論にかなり影響を受けていたかもしれません。故宮沢喜一元首相がそうでした。株価が下がると「政府が買えばいい」と言う。財政支出がオールマイティーだと思っていたみたいでした。あれほど頭のいい方がそう単純に考えるのが不思議でした。

 大蔵(財務)官僚の責任も大きいと思います。なかには村上孝太郎、大倉真隆両大蔵次官のように強く警鐘を鳴らした立派な官僚もいました。

 1968年就任の村上さんは初めて「財政硬直化」という言葉を使った人です。景気対策で実施される公共事業は一度始まるとずっとやめられない。「もっと柔軟に減らせるようにしよう」と運動したのが村上次官でした。

 大倉さんは1975年、主税局長になるとすぐ「減税」を主張する経団連に行って「景気を良くしても、これでは財政負担になる。だからできない」と大演説しました。

 この2人はガッツがありました。しかしその後、大蔵省(現財務省)は正論を吐かなくなった。みんな政治が要求することを受け入れてしまいました。

 政治はもともとレベルが低く、期待はできません。がんばらないといけなかったのは大蔵省と、その理論的支柱の学界です。彼らがもっとちゃんと論陣を張ってくれていれば……。八つ当たりになるかもしれませんが。

 自民党税制調査会の大重鎮だった山中貞則さんは、税調で国会議員たちからばんばん要求が出て紛糾すると、「ちょっと待て」と制して、「大蔵省主税局の諸君の意見をまず聞け。そうでないと国を誤るぞ」と怒鳴りつけた。最近の政治家には、山中さんのように官僚たちが日ごろ国のためを思って考えていることを聞かないといけないという意識がまったくなくなってしまった。

 今後は歳出をよく見直す必要があると思います。いくら消費増税をやっても、歳出がザル状態ではどうしようもない。毎年度の政府予算はいま100兆円規模ですが、そんなバカなと思うほどの規模です。そこまで膨らませてしまった財務省主計局の責任は大きい。

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