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中国市場に日本企業はどう向き合うべきか(上)

桁違いの規模と猛烈な成長のスピード。えたいは知れないが、無視はできず

武田淳 伊藤忠経済研究所チーフエコノミスト

日中関係の風向きが変わった

米中首脳会談の冒頭、握手する中国の習近平国家主席(右)と安倍晋三首相=2017年11月11日、ベトナム・ダナン拡大米中首脳会談の冒頭、握手する中国の習近平国家主席(右)と安倍晋三首相=2017年11月11日、ベトナム・ダナン

 最近、日中関係の改善を肌で感じる機会が増えてきた。

 風向きが変わったのは昨年6月に、安倍晋三首相が中国の「一帯一路」構想への協力に前向きな姿勢を示してからであろう。

 その後、しばらく目立った動きはなかったが、11月にベトナムで習近平国家主席と、フィリピンでは李克強首相と日中首脳会談を実現、今年5月には李克強首相が来日するに至った。日中間での首脳公式訪問は実に8年ぶりである。さらに年内の安倍首相訪中も検討されるなど、日中関係は正常化に向かって着実に前進しているようである。

 こうした動きは、当然ながら、日本企業の中国ビジネスへの取り組みを後押しすることになるであろう。その「桁違いの市場規模」に魅力を感じる企業人は少なくないに違いない。だが、魅力の裏側にはまた、大きなチャイナリスクがあるのも事実である。

 日本企業はこの「商機」にどう向き合うべきなのか。「上」「下」の2回にわけて考えてみたい。 

ファッション誌の売り上げが10倍!

 日本企業にとって今、「中国ビジネス」はどのように見えているのだろう。

 企業の人たちからとにかくよく聞くのは、日本国内とは比較にならない「市場」の大きさである。

 とあるファッション系出版社から聞いた話が忘れられない。その出版社は、日本で数万部売れば上出来だったファッション誌を中国で発行することにしたが、中国の担当者が、「とりあえず数十万部を刷りましょう」というのを聞いて驚いたという。

 中国の読者の嗜好や習慣に合わせたアレンジはもちろん必要だが、日本で消費者を惹きつける内容が、消費者にとって容易に手が出せる価格の雑誌に出ていれば、中国人は間違いなく買うという。その結果、一桁大きい人口規模のメリットをフルに享受することが可能なようである。

「成長スピードの速さ」が魅力

 「成長スピードの速さ」も中国市場の大きな魅力である。それも、かつての高成長を牽引した重工業や電気機械、建設分野といった従来型産業だけではない。ベンチャー業界においても、中国におけるビジネス展開の想定以上の速さに驚愕の声が上がっている。

 たしかに、ここ数年で市場が急拡大したものを挙げるだけでも、スマートフォンを使った電子決済、シェアライド、レンタル自転車、ネット販売(EC)や外食の宅配サービスなど、枚挙に暇がない。最近では、コンビニやスーパーの無人店舗、電気自動車(EV)、人工知能(AI)など、中国が世界の最先端の一翼を担う分野も出はじめている。

えたいは知れないが、無視できない

 ただ私は、日本企業にとって中国市場を最も端的に表す表現は、「無視できない市場」ではないかと考えている。

 中国ビジネスについて尋ねたとき、ある日系自動車メーカーが口にした答えが印象に残る。

 「必ずしも大きな利益が期待できるわけではない。だが、この規模とこの成長スピードを持つ市場で、一定の存在感を維持しなければ、世界市場で争うことは難しい」

 えたいは知れないが、巨大で成長著しいこの市場を無視するわけにはいかない――。

 それこそが、多くの日本企業が持つ中国市場に対して抱く、率直な思いではないだろうか。

日本と中国の経済協力について話し合う日中の企業経営者ら=2017年12月、東京都文京区拡大日本と中国の経済協力について話し合う日中の企業経営者ら=2017年12月、東京都文京区

数値も示す成長率の高さ

 次に、企業が感じている、「えたいが知れない巨大で成長著しい中国市場」の実態を、各種の統計データで確認しておきたい。それぞれ企業が目にするのは、経済全体の一部に限られることが多いので、マクロ経済データで客観的に全体感をつかんでおくことに意味はあるだろう。

 まずは市場の成長のスピードから見てみよう。

 GDP成長率は、2011年まで概ね前年比10%前後の非常に高いペースを維持していたが、2012年以降は7%前後へと減速。2017年も6.9%にとどまっている。とはいえ、他国と比べると、せいぜい1~2%程度の先進国を大きく上回り、ASEANの成長頭を争うベトナムやフィリピン、ポスト中国の筆頭インドなどと同程度の数値を維持。依然、高成長国と言っていい。

 中国の統計については、その信憑性を疑問視する声があり、一部の地域でGDPの改ざんが発覚しているのは事実である。だが、実際に現地を訪れると、高速鉄道や高速道路網、地下鉄など交通インフラの整備が急速に進み、賃金はいまだ毎年10%近く上昇。小売店や飲食店も次々と建てかわるなど、街がみるみる近代化していく様子を目のあたりする。かなりのペースで経済が拡大していることがひしひしと感じられる。

日本を大きく上回る市場規模や貿易量

 市場規模は一般的にドル建てのGDPで比較されることが多いが、中国のGDPは2009年に5兆ドルを突破、日本を追い越して世界2位に躍り出た。さらに、2017年には12.3兆ドルと日本の約5兆ドルの約2.4倍にまで膨張。日本と中国の経済規模の差は急速に広がっている。

 絶対的な規模もさることながら、注目すべきはその増え方である。 ・・・続きを読む
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筆者

武田淳

武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠経済研究所チーフエコノミスト

1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、調査情報部、伊藤忠経済研究所で主任研究員をつとめる。