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ハーレーに激怒、トランプの自業自得

EU向け生産を米国外へ。オートバイで起きたことは自動車でも起きる

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

ハーレーダビッドソンジャパンの大型バイク「ロードキングスペシャル」 (ハーレーダビッドソンジャパン提供)
 

関税引きあげの玉突き

 トランプ政権の鉄鋼・アルミの関税引き上げへの抗措置として、EUはアメリカから輸出されるハーレーダビッドソンのオートバイなどの関税を引き上げた。ハーレーダビッドソンは、アメリカで生産してEUへ輸出すると関税が6%から31%に引き上げられて採算が合わなくなるとして、EU向けの生産をアメリカ以外の地域に移転すると発表した。

 これまでハーレーダビッドソンを持ち上げてきたトランプ大統領は怒り心頭だ。「もし海外に生産を移すなら、ハーレーダビッドソンの終わりの始まりだ。オーラは失われた。これまでにないくらいに税金をとってやる」と攻撃している。さらに、EUに対しても、自動車の関税を20%(現在は2.5%)に引き上げると、脅している。

 ハーレーダビッドソンの行動は、もとはと言えば、トランプ政権の鉄鋼・アルミの関税引き上げに原因がある。これは、トランプ政権が各国に何らの代償措置の提供もなく、一方的に導入したものだ。

 このようなことをしても、影響を受ける国は、アメリカの威光の前に泣き寝入りをするとでも思ったのだろうか?

 通常の政権であれば、相手国の対応を考えながら政策を立案する。その対応によって、自国に大きな被害が生じると考えるのであれば、その政策の検討を中止するだろう。

 トランプ政権は、これまでのアメリカのどの政権とも異なるようだ。

武器輸出促進のイベントで登壇するナバロ大統領補佐官=2018年4月25日、ワシントン

「中国脅威論者」ナバロ大統領補佐官が主導

 鉄鋼・アルミから対中国の関税引き上げまで、一連の通商政策を主導していると思われるのが、ナバロ大統領補佐官である。

 彼は、中国の経済活動によってアメリカの雇用や経済が滅ぼされるという中国脅威論を主張してきた人物である。カリフォルニア大学アーヴァイン校の教授であり、2016年の大統領選挙期間中は、トランプ候補を支持する唯一の経済学者であると言われていた。

 鉄鋼・アルミの関税引き上げも、中国が鉄鋼の過剰生産をしたから、世界の鉄鋼価格が低下したことを理由としているので、一連の関税引き上げは、中国脅威論を唱えるナバロ大統領補佐官の主張が反映していると考えられる。

 彼は、大統領選挙前アメリカPBSテレビのインタビューで「GDP=消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)」という恒等式を示し、輸出を増やし、輸入を減らせば、GDPは増加するのだと主張していた。彼が通商政策の中心となっているトランプ政権では、アメリカが関税を引き上げ、輸入を減少させれば、GDPは増加すると考えられているのだろう。

プロ野球の開幕試合でハーレーダビッドソンに乗りグラウンドに登場した新庄選手=2006年3月25日、札幌ドーム

同じことは自動車業界でも起きる

 アメリカの政策が世界の国にリアクションを生じさせないのであれば、そうかもしれない。しかし、ナバロ大統領補佐官の議論の土俵に乗ったとしても、影響を受ける国が、対抗措置としてアメリカからの輸入に関税をかければ、アメリカの輸出は減少して、GDPはその分減少する。

 それだけではない。関税引き上げは、鉄鋼・アルミの国内価格を引き上げ、それを原材料として使用する産業のコストを上昇させ、競争力を低下させる。ハーレーダビッドソンは、EUがオートバイの関税を引き上げる以前に、アメリカ国内での生産に問題を抱えていたはずだ。

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