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トヨタが展開する燃料電池車普及戦略

セブン‐イレブンと共同プロジェクト、コンビニ起点の水素利用拡大を狙う

片山修 経済ジャーナリスト、経営評論家

 水素は、燃焼する際にCO2(二酸化炭素)などの温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギーとして、その普及が期待されている。しかし、期待通りには進まない。

普及が進まない燃料電池車

 トヨタ自動車は、次世代環境車の〝本命〟に、FCV(燃料電池車)を位置づけ、2014年12月、世界初の量産FCV「MIRAI(ミライ)」を市販した。ところが、現状、グローバル累計販売台数は約6200台にとどまる。販売台数が伸びない理由には、水素インフラの整備が進まないことのほか、補助金などの恩典はあるものの、それを除くと約720万円の販売価格、燃料電池のセルスタック(セルを重ねて一つのパッケージにしたもの)の品質を高めるのが容易ではないことなどがあげられる。

 さらに、世界での急速な〝EV(電気自動車)シフト〟の進展がある。その推進役が米カリフォルニアや中国の環境規制だ。

 ルノー・日産アライアンスは、13年に独ダイムラーや米フォードとFCVの共同開発をスタートし、17年に量産車を市場投入する計画だったが、商用化を凍結する方針を固めた。EVに経営資源を集中するためである。

 FCVは、日本が初めて商用化し、世界トップクラスの技術を有する。技術を支える優れた部品メーカーも多数存在する。例えば、高圧水素タンクには、先端技術が多数搭載されている。このままだと、FCVを始めとする燃料電池分野は、〝宝の持ち腐れ〟になりかねない。

トヨタがセブンとの共同プロジェクトに乗り出す

燃料電池小型トラックによる配送の実証実験を発表するトヨタ自動車の友山茂樹副社長(右から2人目)とセブン‐イレブン・ジャパンの古屋一樹社長(同3人目)=東京都内で(片山修氏提供)
 そこで、トヨタは、形勢不利な水素普及の起爆剤として、セブン‐イレブン・ジャパンとの共同プロジェクトに乗り出したのだ。

 トヨタとセブンは、再生可能エネルギーとしての水素の有効活用によって、コンビニ店舗の省エネおよび環境対策を進めるとともに、トヨタのFC小型トラックを導入し、コンビニの商品を運ぶ取り組みをスタートさせる。

 「セブンとの共同プロジェクトには、大きなメリットがあります」
と、6月6日、東京都内で開かれた合同記者発表の席上、トヨタ副社長の友山茂樹氏は語った。

 コンビニを起点に再生可能エネルギーとしての水素利用が進むと、一気に水素燃料の利用が増える。水素の安定需要が確保されると、水素ステーションの整備が進み、FCVの普及につながる。水素普及のはずみとなるのは間違いないというシナリオである。

 共同プロジェクトでは、物流用にFC小型トラックを導入するとともに、コンビニ店舗に蓄電池や定置式のFC発電機を設置し、再生可能エネルギーの最大化の手法の検証、評価を行う。また、求められる性能、耐久性、コスト、CO2削減効果に関して、市販化を視野に入れた実証を行う。さらに、将来に向けて、低炭素水素の調達方法について検討する――。壮大な計画だ。

 「将来的には店舗に商品を配送する全てのトラックをFCV化して、コンビニの敷地に水素ステーションを併設した店舗を積極的に増やしていくことにより、水素需要の底上げを図ります」と、セブン‐イレブン・ジャパン社長の古屋一樹氏は語る。

 また、「水素ステーションのタンク内の液体水素から発生する、従来使われていなかったボイルオフ水素で発電した電力を店舗で消費できるようにします」と、友山氏はいう。

 発電に使われるのは、トヨタが開発した水素を燃料とするFC発電機である。出力密度の高い「MIRAI」のセルを活用した、コンパクトな設計になっている。

災害に強い店舗づくりも可能に

 店舗のエネルギーマネジメント、すなわちBEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)についても取り組む方針だ。店舗の太陽光パネルで発電した電力の活用は、

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