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調査報道ベンチャーをつくる

オンラインメディアの先駆者が講談社を飛び出した。次に挑むのは調査報道の支援だ

WEBRONZA編集部

 ネットはマスメディア界を襲った巨大隕石と言う人がいます。隕石落下で生じた気候変動で巨体の恐竜は全滅、かわって小動物が栄えるようになったように、巨大なマスメディアも……、というわけです。マスメディアに身をおくものとしては、笑えないはなしです。

 実際、ネットはメディアの風景を大きく変えつつあります。ネットサイト「現代ビジネス」を立ち上げ、人気サイトに育てあげた瀬尾傑さんが、長年つとめた講談社をやめ、8月1日にスマートニュースメディア研究所の所長に就任したのには、メディア環境が激変するいま、ジャーナリズムのあり方についてあらためて考え、新たなモデルをつくりたいとの思いがありました。

 WEBRONZAでは、先月末のリニューアルにあわせて8月14日に開くトークイベント「ネットサイト 未来のかたち」のパネリストの一人として瀬尾さんをお招きし、ニュースメディア研究所の挑戦について存分に話していただきますが、それに先立ち、今回、その一端を語ってもらいました。さらに深く知りたい方は、14日午後7時から東京都渋谷区の「メディアラボ渋谷分室」で開催する「ネットサイト 未来のかたち」にぜひ、お越しください。申し込みは告知ページからお願いします。(WEBRONZA編集長・吉田貴文)

拡大7月末に講談社を退社し、8月から「スマートニュース メディア研究所」の所長に就いた瀬尾傑氏=東京都渋谷区神宮前

 瀬尾傑(せお・まさる) 1965年、兵庫県生まれ。同志社大学卒業。1988年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。 経営企画室、『日経ビジネス』編集部などを経て退職。 1993年講談社入社。 『月刊現代』『FRIDAY』『週刊現代』各編集部、ジャーナルラボなどを経て、『現代ビジネス』創刊編集長、第一事業戦略部部長、コミュニケーション事業第一部部長兼IT戦略企画室担当部長などを歴任。2018年8月にスマートニュースに入社、同年8月に設立した『スマートニュース メディア研究所』の 所長に就任し、ジャーナリズムの発展や調査報道の支援に従事。

ネット時代の「新しいジャーナリズム」を提案する

 テクノロジーの発展でジャーナリズムの世界も大きく変わりました。

 まず、フェイスブックやツイッターなどソーシャル・ネットワーキング・システム(SNS)が発達し、マスコミが情報を独占する構図が崩れました。

 以前は情報を発信できるのはマスコミか、マスコミを通じて発信する政府や企業に限られていましたが、SNSの発達で誰もが自由に発信できる時代になりました。それによって、チェックを受ける側になったマスコミに自浄作用が働くようにもなりました。

 ただその一方で、フェイクニュースの横行など深刻な影響も広がっています。ビジネスや政治的な手段として虚偽の情報を発信するケースも出てきました。さらにはフィルターバブルの発生もあり、民主主義のインフラであるジャーナリズムは大きく揺らいでいます。

 テクノロジーの発展によって生じたメディアの変化を次のステージに持っていく。民主主義を支えるインフラとして、インターネット時代のジャーナリズムを健全に育てていけないか。

 そんな思いから、私は7月31日をもって長年つとめた講談社を辞め、『スマートニュース メディア研究所』の所長になりました。新しいジャーナリズムの形を研究し、具体的に提案、実行していくのが目的です。

「調査報道」をサポートする

 『スマートニュース メディア研究所』は、「ニュースやメディアが社会や人々の役にたつためにはどうあるべきか」を研究し、その実現を目指します。そのために、社内外から多くの人の知見が集まる場所にしたいと思っています。

 テーマのひとつとして、まず力をいれたいのが、「調査報道ベンチャー」の支援です。

 今回、この仕事をやろうと決断したのは、期待している若い書き手から「ジャーナリズムやノンフィクションでは食べていけない。もう仕事を変えようと思う」と明かされたことが決め手となりました。

 これまでライターたちを支えてきた雑誌業界は長期低落傾向にある。本をつくっても部数は伸びない。かといってネットメディアは原稿料も安いところが多い。「書くだけでは食べていけない」という声は彼に限らず切実でした。時間や費用のかかるノンフィクションや調査報道にとりくむ機会はますます減ってきています。

 僕はもともと調査報道がやりたくてマスコミの世界に入りました。講談社でデジタルメディアの運営に取り組んでいるときも、取材を支えるビジネスモデルをつくりたいとずっと考えてきました。ここにきて、「もう時間がない。メディアだけではできることに限界がある。調査報道を育てる新しい仕組みをつくらなければならない」と思い至ったのです。

 スマートニュースは新しいテクノロジーをもった会社です。ここでなら、新しいジャーナリズムのエコシステムをつくることができる可能性は十分にあると思いました。

 調査報道に取り組むジャーナリストやメディアをサポートし、育てる仕組みをつくります。新聞や雑誌をはじめとする従来型のマスメディアのビジネスモデルが壊れ、人材を育てる部分や情報を深掘りしていく部分がビジネスとして成立しなくなってきました。ここをまず助けていく。

 具体的には、ジャーナリストたちが新しいネットの空間を利用して調査報道を発信することを手助けします。個人に限らず、調査報道に取り組むメディアもサポートしていきます。もちろん朝日新聞社や講談社といったメディア企業が協力してくれれば大歓迎です。調査報道に取り組む協力体制を構築したいのです。

 取材にたけている人が情報発信やマネタイズにたけているわけではありません。能力の高いジャーナリストでも、インターネット時代にどうやって情報発信すればいいかわからない、ツイッターやフェイスブック、ブログといったメディアをどう使っていいかわからないという人は結構います。どうやってマネタイズすればいいかわからない人はさらにたくさんいます。そういう人々にノウハウやツールを提供していきたい。

「書き手を育てる空間」をつくる