2019年03月19日
現在、国会で審議されている国の来年度予算は、歳出規模が101.5兆円に上り、当初予算として史上初めて100兆円を超える。ただ規模が大きいというだけで問題視するつもりはないが、国会における議論では、その規模が身の丈に合ったものなのかどうかという視点で内容が十分に吟味されている様子は残念ながら見受けられない。
一般の家庭では、稼ぐ力を基準として使うお金の額を決めることが多いと思う。基本的には収入に見合った範囲でお金を使い、時には貯金を取り崩したり借金をしたりして大きな買い物をすることもあるが、その場合にも将来の収入や出費を考え、決して無理をしないのが普通である。間違っても子供に返済を託して多額な借金をすることは、資産家の相続税対策など特殊な例を除けば、あまりないと思う。そして、そうした考え方は、国の予算においても基本的に同じはずである。
話を国の予算に戻すと、平成最後となる31年度の歳出規模101.5兆円は、国全体の稼ぐ力を表すGDPの約18%に相当する(当研究所予想の名目GDP対比)。この比率が高いか低いかは、最終的に国民の総意で決めるべきものであり、後に示す税金などの収入や他国との比較が参考となろうが、少なくとも過去と比較すると、平成元年の14.1%から4%ポイント程度拡大している。当時の歳出規模は60.4兆円であり、金額にすると41兆円増加したことになる。
その拡大の要因を見ると、圧倒的なのは年金や医療保険など社会保障費であり、平成元年度の10.9兆円(GDP比2.5%)から31年度には34.1兆円(6.1%)へ3倍以上にもなっている。次いで目立つのは国債の償還(返済)や利払いに充てる国債費であり、11.7兆円(2.7%)から23.5兆円(4.2%)へ倍増している。
その他、主要な項目を見ると、90年代に景気対策で大幅に拡大、2000年代に入って大幅に削減された公共事業費は6.2兆円(1.5%)から6.8兆円(1.2%)へ若干増加している。また、「GDPの1%以内」を目安とされている防衛費は、3.9兆円(0.9%)から5.2兆円(0.9%)へGDPの拡大に比例して増加、教育科学費も4.9兆円(1.2%)から5.6兆円(1.0%)へ増加しているがGDP比では公共事業費と同様、割り負けている。
社会保障費や国債費の膨張が他の予算を圧迫している様子は、歳出の構成比を見ればより顕著であり、平成元年度は社会保障費が予算全体に占める割合は18.0%、国債費が19.3%に対して、公共事業費10.3%、防衛費6.5%、教育科学費8.2%とそれなりの割合を占めていたが、31年度予算では社会保障費の33.6%と国債費の23.2%だけで半分を超えており、公共事業費6.7%、防衛費5.2%、教育科学費5.5%とかなり配分が抑え込まれている。
社会保障費と国債費がここまで膨張した原因は、言うまでもなく高齢化と国債発行の増大である。平成元年度予算では、社会保障費10.9兆円のうち6.6兆円、約6割が年金や医療保険の給付に充てられていたが、31年度予算では介護保険も加わって34.1兆円のうち27.1兆円、全体の約8割を年金・医療保険が占めるに至っている。
この数字は、あくまでも国の予算であるが、地方自治体分を含む社会保障全体をカバーする別の統計(国民経済計算)で見ても、社会保障の規模は平成元年の46.3兆円から、最新の公表値となる29年度に116.3兆円へ拡大、その増加額70兆円のうち、年金は33.3兆円、医療・介護保険は32.4兆円と両者でほぼ全てを占めている。そして、いずれの増加も高齢者(65歳以上)の人口でほぼ全てを説明できるため、社会保障費の増加は主に人口高齢化の影響によるものであると言え、1人当たりの年金支給額の変化や医療サービス拡大の影響は、これまでのところ小さいようである。
国債費について見ると、平成元年度は11.7兆円のうち利払い費(利子および割引料)が11.1兆円とそのほとんどを占めたが、31年度は23.5兆円のうち利払い費が8.8兆円にとどまり、元本の償還費が14.7兆円まで増大している。これは、国債残高(一般会計分)が平成元年当時の158.5兆円、借入金を合わせた負債合計でも185.1兆円に過ぎなかったものが、昨年末時点には973.9兆円、負債合計で1,100兆円にも積み上がったためである。さらに言えば、利払い費が減っているのは、10年物国債の利回りが当時の6%前後から、最近はわずか0.1%という水準まで低下しているためであり、日銀の大規模な量的金融緩和という特別な環境がもたらしたものであることに留意しておく必要があろう。
ここまで見ると、国の予算における問題点が幾つか浮き彫りになってくる。
一つは、予算の活用余地が乏しいことである。社会保障費や国債費の膨張により、前述の通り教育科学や公共事業、防衛予算が圧迫されているため、経済成長の糧となる人材輩出や技術開発、古くなったインフラの改修、国土の安全といった目的に十分な予算が回せなくなりつつある。
もちろん、必要であれば財源を拡大すれば良く、実際に税収は平成元年度の51.1兆円から31年度は62.5兆円に増えてはいる。ただ、税収をGDPと比べると、元年度の11.9%から31年度は11.1%に低下しており、経済の実力から見れば税負担はむしろ抑制されていることになる。その結果、国債発行額が7.1兆円(GDP比1.7%)から32.7兆円(5.8%)まで拡大しており、不足分を借金に依存する傾向が強まっている。これが二つ目の問題点である。
三つ目として、高齢化は今後も進むため、それに伴って社会保障費用の拡大が続くことも問題である。国立社会保障・人口問題研究所が2017年に試算した結果(中位推計)によると、65歳以上の人口は2015年の3,387万人から2020年には3,619万人へ、2030年には3,716万人へ増加、人口に占める比率は2015年の26.6%から2030年には31.2%まで上昇する見通しである。この予想によれば、65歳以上の人口は、今後10年間、平均で年3%増加するため、同じペースで国の年金や医療保険給付に関する予算も増えるとすれば、10年間で9兆円余りの拡大となる。毎年の予算編成の際に政府が説明する「社会保障費1兆円の自然増」とは、このことを指している。
さらに、金利が上昇すれば国債費が大幅に増加し、他の予算が著しく圧迫されることも大きな問題であろう。先に見た通り、31年度予算における利払い費は8.8兆円、負債残高は1,100兆円につき、負債の利回りは0.8%となる。一方で、政府・日銀は物価上昇率2%を目指しており、仮にこれが実現すれば、国債の利回りは2%以上に上昇してもおかしくない。その場合、現状、8.8兆円の利払い費は22兆円以上に膨れ上がり、国債費は13兆円以上増加する。実際には、徐々に金利の高い国債に置き換わっていくため、利払い費の上昇は緩やかとなるが、他の予算を圧迫していくことは確かである。
このように、100兆円を突破した国の予算は、現在の仕組みを維持する限り、今後も高齢化の進展に伴って着実に歳出規模が拡大し、新たな課題が生じたとしても、対応するための余力はますます乏しくなっていく。さらに、念願のデフレ脱却となれば、金利負担が重くのしかかり、新たな借金増につながる恐れがある。そうなれば、借金の積み上がりと金利上昇が相まって金利負担を加速度的に拡大させ、財政破綻に陥るリスクが高まる。
では、かように傷んだ財政を、どのような方向性で改善させていけば良いのか。一つの参考になるのは、冒頭でも触れた他の先進国との比較であろう。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください