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前田敦子や大島優子たちが「卒業」したら……

鈴木京一 朝日新聞文化くらし編集部ラジオ・テレビ担当部長

●結成半年、アイドルオタクの墓場から

 初めてAKB48を見たのは結成半年足らずの2006年春。アイドルオタクの間では話題になりつつあったが、まだ秋葉原の劇場は、当日行っても入ることができた。

2008年5月、NTTドコモの携帯新機種の発表会に登場したAKB48のメンバー

 これまでのグループアイドルを全部煮詰めた、という印象だった。振り付けは「モーニング娘。」みたい(当時はモー娘の振り付けをしていた夏まゆみが担当していたから、当然かもしれないが)、衣装は制服向上委員会みたい、天井の低い常設劇場は東京パフォーマンスドールの原宿ルイードみたい……。客席も色々なアイドル現場で見かけた顔が目についた。

 アイドルオタクの墓場、と言ってもいいだろうか。あんたらオタクはこんなのが好きでしょう、と見せつけられているような気がして、いやーな気分にさせられた。パフォーマンスがまだ拙劣だったこともあり、もう少しうまくなってから戻ってこよう、と距離を置くことになる。

「桜を見る会」で麻生太郎首相(当時)と記念撮影=2009年4月、東京・新宿御苑で

 今までのアイドルとは違うのでは、と思い直したのは、2007年秋に出た『48現象』(ワニブックス)という本を読んでからだった。事務所公認のタレント本はタレント本人の当たり障りのないインタビューやエッセーで作られているものだが、この本はAKB周辺の「現象」をまるごととらえようとしていた。 

 メンバーのポートレートや秋元康らスタッフへのインタビューだけでなく、劇場に集う「有名客」の群像などを通じて、ファン文化にも触れている。メンバーの「推され」「干され」(ステージでいい位置で歌えるか否か)など、これまでなら暗黙だったファン隠語も紹介している。客席のどの位置で鑑賞するかにも意味があることなど、しばらく見なかったうちに、独特の宇宙ができていたことを知った。

 細かい活字はまるでミニコミで、今となっては「アーリーAKB」の雰囲気を伝える本といえる。アイドルオタクが織りなす独特の宇宙をとらえたルポはこれまでもあったが(古橋健二『アイドリアン超人伝説』1990年、金井覚『アイドルバビロン』1996年など)、タレント側も関与してつくられた本はまれだ。

東日本大震災の被災地で、集まった人たちと握手する板野友美(手前左)などAKB48のメンバー=7月9日、宮城県南三陸町で

 「ライダー」と呼ばれる客のエピソードは感動的だ。

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